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プロローグ
「…見つけたっ、俺の姫。」
突然の強風に桜の花が舞い上がる。
咄嗟に目をつむりやり過ごしていると、風の音に乗って声が聞こえた。
風に踊る髪をおさえながら、声のした方を振り向くと、夜空に浮かぶ月を背に男の人が立っていた。
逆光で顔は見えない。
それがとても幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「…姫。」
声が出せなかった。
顔は見えない。でも、歓喜のなかに哀しみ堪えるような声色に、胸が締めつけられた。
顔は見えない。でも、私の知り合いではない。
知り合いではない…はずなのに…
私に向かって一歩踏み出したのを見てビクリと後退ってしまう。
二歩目に踏み出すのを見た瞬間、私は逃げ出した。
「姫っ!」
男性の悲痛な叫びを後方に聞きながら帰路を駆けた。