番外編 元引きこもりの転生勇者の場合
転生勇者側の話です。
「異世界キター!!!」
それが僕がこの世界に来て初めて発した言葉だった。
生まれて25年、中学生の頃にネットゲームにハマってからというもの家から一歩も出なかった自堕落な生活は、パソコンの液晶に現れた謎のばぁさんによって終わりを告げた。
「ステータスオープン!!!」
王様とやらにこの世界についてと、勇者システムというものを説明された僕は、すぐに自身のステータスを確認した。
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ギルバート・レイヴァルト
Lv:1
種族:人間
職業:勇者
【ステータス】
体力:201
魔力:30
物理攻撃:48
物理防御:22
魔法攻撃:26
魔法防御:19
素早さ:33
特殊スキル:聖なる加護
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ほう、中々悪くないんじゃないか?
この世界の勇者の仕事は人間の敵である魔族を狩ること。
敵を倒し、経験値を貰ってLvを上げ、自分自身をどんどん強くしていく。
さらに勇者総合案内所という勇者への依頼が集まる場所や、貴族なんかの依頼をこなせば金だって楽に手に入る。
そして何よりも僕が嬉しかったのは、僕達のように別世界から来た勇者を生き返らせる事のできる教会というものがあることだ。
これによって僕ら転生勇者は不死身。
何度でもやり直しが効く無敵の存在だ。
それから僕はこの世界を楽しんだ。
普通の勇者よりも遥かに優遇された転生勇者はあっという間にその名を広め、今や転生勇者だというだけで女の子にモテモテさ。
もう元の世界なんてどうでもいい。
ここでは僕が主人公なんだ。
──だがそんな僕も油断していた。
経験値のためにヴァンパイアロード挑んだ結果、僕はあっさりと殺された。
まさか魔王というのがあそこまで強いとは思わなかったのだ。
あの憎き魔王ヴァンパイアロードを倒すにはまだまだ僕は強くならなきゃいけない。
だから僕は旅に出た。
魔王を倒すための旅、まさに勇者らしく主人公らしい。
魔王によってせっかく集めたハーレム要員を殺された僕は、旅の途中でルサレクスという町に立ち寄り、そこで奴隷を買うことにした。
檻に入れられた人間の奴隷、他にも魔族の奴隷なんかもいる。
どいつもこいつも死んだような目をして僕を見ていたのがおかしくてたまらなかった。
気の毒だとは思うが別に僕には関係のない話。
自分たちの運命だと思って諦めてくれ。
しばらくどの奴隷を買うか悩んでいたが、ふと女の子が2人入った檻を見つけて足を止めた。
友達同士だったのかは知らないが、仲良く手を繋いで怯えていた。
「どうか……どうか助けてください……」
そう訴えかける女の子の1人に僕は思わずにやけてしまった。
こいつを買えばきっと僕に従順な言い仲間になってくれるだろうと。
僕がそいつを買おうとした時、もう片方の女の子が声を上げた。
「か、買うなら私を買ってください! この子は病気持ちです! あなたにも伝染してしまうかも!」
「ちょ、なに嘘言ってるのよルーシャ!」
「嘘じゃないわよ!!! ねっ? 私を買ってくれれば何でもいたしますから?」
檻の中で女同士の争いが始まった。
もちろん病気というのが嘘なのは相手のステータスを見れる僕には分かっている。
「おい奴隷商人、こいつをくれ」
僕はルーシャという、相手を病気持ちだと言った女の子を買った。
別に生きようとする必死さに心打たれたとかそういうわけではなく、ただ単純に僕のタイプだったからだ。
檻から出たルーシャは残された女の子を見てほくそ笑み、僕に抱きついてきた。
全く可愛い子だ。
そうだ、これからこの子に僕の力というものを魅せつけてあげよう。
お楽しみはそれからだ。
僕はルーシャを連れて経験値がおいしいとされる魔族が現れる森に向かうことにした。
あぁ、楽しいな。
元の世界じゃこんな生活は考えられない。
そう、僕はこの世界じゃ最初から勝ち組なんだ。
ふふ、もっともっと僕はこの世界で名を上げてやる。
そしていずれ国を作って僕だけの理想郷を作り上げるんだ!