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42.古城のゴーレム騒動 前編

※希沙良視点です

「はぁ~」


 隣でラミアさんが深い溜め息をついた。

 一体これで何回目だろうか。


「まぁまぁ、あいつも別にラミアさんが嫌になったとかじゃなくてですね」

「うぅ……」


 ハッキリ言って滅茶苦茶面倒くさい。


 今わたしとラミアさんは城から少し離れた森の中を歩いている。

 城を守るために宝物庫にあるという人間の作り出した魔族、ゴーレムを探しに行っているのだが、お兄ちゃんがプロント村へ行ってからラミアさんはずっとこの調子だ。


「なんだか最近ノノ様は私をあえて避けているように思います……人狼族の時も今回だって私を連れて行ってくださらず……キサラ様……私はノノ様にとって邪魔者なのでしょうか?」

「そんなことあるわけないじゃないですか! きっとあいつはラミアさんの事が大事で大事で仕方ないんですよ!」

「……大事?」

「そうですって! 大事だからこそ危険なところには行かせたくないみたいな!」

「そう……ですかね?」

「もちろんです! あいつはラミアさんの事を思っているからこそあえてこの城から連れ出さないんです!」

「そうです……かね……確かにノノ様はあんなにもお優しい方ですから」


 話が一区切りつくとラミアさんはまた深い溜め息をつく。

 お兄ちゃんがプロント村に行ってからこのやり取りを延々と続けているわけだが、そろそろわたしの方もこれ以上フォローを入れるのは限界に来ている。


 こんなことなら無理矢理にでもお兄ちゃんに付いていくべきだったわ……


 ゴーレムの保管されているという宝物庫には危険な物が多いという理由から城内ではなく、城から少し歩いた森の中にあるという事だった。

 早く着いてくれないものかと思いながらラミアさんの半歩後ろを歩いているとまたもラミアさんがテンションだだ下がりで口を開く。

 

「でもやはりノノ様は私のことを──」

「そ、そういえばラミアさんはわたし達がこの世界に来るまでどうやって過ごしていたんですか?」


 これ以上好きにさせてなるものか。


「へ、これまでですか?」

「はい、確かラミアさんてこの城で15年もお兄ちゃんを待っていたんですよね? それまでどう過ごしてきたのか気になりまして」

「これまで……そうですね……」


 あまり触れちゃいけない話題だったかしら。


「もうあの当初の記憶はおぼろげですが、ただひたすら辛かったという事だけは覚えています。しかし母を始めとする皆さんが私を人間から隠してくれたおかげで助かった命です。無意識ながらも皆さんの分も生きなければいけないという気持ちはあったと思います。それに母が最期に残した言葉もありましたから」


 近い将来、別の世界から我々吸血鬼の一族を救ってくださる2代目ヴァンパイアロード様がこの世界へやってきます。あなたはその方と共に勇者を滅ぼし、一族の復興を成し遂げるのです──


 ラミアさんの母親の最期の言葉。

 それはお兄ちゃんから聞いてはいた。

 お兄ちゃんがこの世界に来ると15年前から知っていたラミアさんの母親は一体何を知っていたのだろうか。


「それでもたった一人で15年も待ち続けていたなんてやっぱりラミアさんは凄いですよ」

「あ、そういえば言っていませんでしたね。一応一人ではなかったんですよ」

「あれ、そうなんですか?」

「はい! そうですよね皆さん?」


 ふと気配を感じ周囲を見渡すとそこには見たことのない異形の魔族たちがいた。

 木から手足を生やした魔族、緑色の球体から棘を生やす魔族、大きな目玉に蛇の尻尾をくっつけたような魔族、地面から2本の触覚だけを出した魔族、他にも様々な形をした魔族がいつの間にか自分達を囲んでいた。


「こ、この方々は……?」

「皆さんは私のお友達です」


 そう笑顔で答えるラミアさん。

 魔族たちは言語とは言えない動物の鳴き声のような声を発しながらこちらに近寄ってくる。


「そうですね。最近顔を出せずに申し訳ありません。少々お城の方での仕事が増えたもので」


 ラミアさんは彼らと会話をしているようだがわたしには全く理解することができなかった。


「彼らは人間から魔物と呼ばれる魔族です。人型ではなく共通言語を喋ることができない魔族の事ですね」

「魔物……でもラミアさんはちゃんと会話ができるんですね」

「はい。皆さんとは私が子供の頃からの付き合いですので。彼らは私たち吸血鬼がこの森に来る前からの住人です。私たちのご先祖様達はこの森を外敵から守る代わりにここに住むことを許されたと言われております」


 そういえば以前にもラミアさんが森に友達がいると言っていたような気もする。

 この魔族たちがラミアさんの友達……


「まだ幼かった私をここまで育ててくれたのも彼らなんです。なので彼らは私にとって家族も同然なんです」


 そう言いながら森の魔族達と戯れるラミアさんはお兄ちゃんの前で見せる顔とはまた違った意味でとても幸せそうだった。


「さて、そろそろ行きますね。オウルおじ様にもまた遊びにきますと伝えておいて下さい」


 森の魔族たちはそれぞれ独特な声を出してわたし達の前から去っていった。


「オウルおじ様って方は一体?」

「この森の長ですよ。私に言葉を始めとするこの世界の知識を授けてくれた聡明でとても優しい方です。ただまぁ少々気難しい方なので中々姿は現してくれませんが」

「なるほど」

「本当は彼らにもノノ様に協力して欲しいところですが、森に住む皆さんは争いごとが嫌いですので……」

「まぁ確かに味方になってくれたら心強いですけど、戦いたくないのに無理に戦わせる必要はないんじゃないですかね」

「ふふ、そうですね。きっとノノ様も同じことを言うと思います。それに彼らは争いごとは嫌いですが、この森に入ってくる人間には容赦なく襲いかかって頂いてますので、それだけでも今は充分助かっております」



 ◇



 それから少し歩き、私たちはある巨大な岩の前へと到着した。


「ここが宝物庫への入り口です」


 そう言ってラミアさんがその岩に触ると、触れた部分が青白い光を放って巨大な岩は跡形もなく姿を消し、代わりに地面に下へと続く階段が現れた。


「さぁ行きましょうか」


 どういう原理なのかさっぱり分からないが、巨大な岩で隠してあるところはなんとなく人狼族の隠れ家を思い出させる。

 階段を降り始めると壁にかけてある松明に火が灯り下を照らした。

 そのまま降りていくとすぐに宝物庫と思われる大きな広間へと出た。


「なんていうか……すごいわね」


 宝物庫とはよく言ったもので、そこには広間が金色に染まるほどの宝が保管されていた。

 宝石や金貨を始め、剣や盾、形状からは使い道の分からない装飾品まで様々なものがあった。


「ここにあるほとんどは吸血鬼達が殺した勇者の所持品です。これまでの吸血鬼と勇者の戦いの戦利品の全てがここにあるというわけです。無論、血液以外ですが」


 思わず地面に転がる宝石を手にとってみる。

 価値など分からないが、それはすごく綺麗でつい見惚れてしまう。


「はぇ~、きれい……」

「ふふ、なんだかいつものキサラ様らしくないですね。宝石がお好きなんですか?」

「い、いや好きっていうか誰だってこんなの見たらテンション上がっちゃうっていうかなんというか……」

「そういうものですかね。私にはこれらの価値がいまいち分かりませんのでピンときませんが」


 ラミアさんは不思議そうにわたしを見ながらそう言った。

 まぁ確かに魔族にとってはこういった宝というのはなんの価値もないのだろう。

 でも女の子ならこういう光り物に少しくらい興味を持ってくれてもよさそうなものだが。


「なんでしたら後で好きな物を好きなだけ持ち帰って頂いて結構ですよ」

「えっ!? 本当!?」


 つい大げさに反応してしまった。


「もちろんです。そもそもキサラ様はノノ様の妹様なのですからこれはキサラ様の物も同然です」

「やっ……あ、ありがとうございます」

「でもまずはゴーレムの保管されているところへ行きましょうか」

「あ、はい、そうですよね」


 少し名残惜しいがここに来た目的を忘れちゃだめだ。

 後の楽しみも出来たことだし早いとこゴーレムを手に入れないと。


 気持ちを切り替えてわたしはラミアさんの後に続いていく。

 少し歩くと突然ラミアさんは立ち止まり、地面の散らばる金貨を手で避け始めた。

 何をしているのだろうと疑問に思いながらその姿を見ていると、散らばった金貨の下から見慣れない文字、恐らく魔法文字と呼ばれるものが現れた。


「ここがゴーレムの保管場所です」

「ここが?」


 よく分からないがまた何か仕掛けがしてあるのだろうか。


「そこの金貨や宝石といった物は仮に人間がここに来てしまった時用の囮です。本当の宝物庫はこの中にあるのです」


 それだけ言ってラミアさんは人差し指をその魔法文字に当て、ブツブツと何かを呟き始めた。

 その内容を何一つわたしは理解することができなかったが、魔法を唱える際の詠唱のように聞こえた。


「……ふう、多分これで合っているはずです」

「一体なにをしたんですか?」

「今私が唱えたのは母がオウルおじ様にわたしのために残してくれたゴーレムを取り出すための召喚魔法の詠唱、つまりは鍵のようなものです。取り出したい物に合った召喚魔法を唱えればそれを取り出せるというわけです」

「なるほど」


 召喚魔法……なんかあまりにわたしもお兄ちゃんも魔法が使えないせいで魔法が当たり前に存在するって事実を忘れそうになるわね……


 そんな事を考えていると地面に描かれた魔法文字が強烈な光を放った。

 思わず目を瞑ってしまったが、次に目を開いた時にはその子・・・はもう目の前にいた。


「これが……ゴーレム?」


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