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41.転生勇者復活の教会

 その外観は俺が元いた世界の知識で想像できるものとほぼ同じであった。

 教会のシンボルである十字架はすでに人狼族の手によって壊されてはいたが、白を基調としたその建物からはあまり良い雰囲気は感じられない。

 とは言え建物内を見なければ何も始まらないのでとりあえず中へと足を踏み入れる。


「これが……教会?」


 外観とは別にそこは想像していたものとは全く違っていた。

 十字架どころか祭壇も象も椅子すらもない。

 物と呼べるようなのは奥にポツンと置かれた古びた木製の棺桶だけ。


「なぁロウガ、この世界の教会ってのはどこもこうなのか?」

「あぁ? 知るかよんなこと。まぁ外観のわりには随分と寂しいようだが」


 まぁロウガ相手に人間が使う教会について聞いても仕方ないか。


 俺がこの世界の教会について知っていることは人間が神に祈りを捧げる場所であり、転生勇者が死んだ後に生き返る場所ということだけだ。

 実際に自分の目で見てみれば何か情報を得られるかと思ったが、これでは何も得られない。

 一応色々と調べてみたがおかしなところはなく、いかにも怪しい棺桶も中には何も入っていなかった。

 このままでは何も分からないままなので、俺は村人を何人かこの教会へ連れてきてこう質問をした。


「この場所は昔からこうだったのか?」


 その質問に対する村人の答えはこうだ。

 一年ほど前までは俺がある程度想像していた普通の教会だったが、ある日いつものように神へ祈りを捧げていると突如眩い光と共に女神と名乗る美しい女性が現れた。

 自分を神の使いだと言う女神は村人を集め、この教会を作った。

 ただ作ったといっても特別何かをしたわけではなく、教会内にあった物をほぼ全て処分し、代わりに村に元からあった棺桶を置いただけだという。

 それからしばらくすると女神は姿を消し、代わりに国から教会を守るための勇者が派遣されて村人たちは教会での祈りを禁止されたらしい。

 転生勇者の生き返りについても聞いてみたが、この村の教会ではまだ一度も転生勇者は生き返っていないとのことで、結局分かったことは女神という謎の人物が転生勇者を復活させる教会を作ったということだけだった。


 結局のところ勇者を撲滅するのに有力な情報は得られたとは言い難い。


「なぁロウガ、お前の鼻で何か分からないのか? 確か魔法を解析すんのは得意だろ?」

「さっぱりだな。この教会には魔法どころかその痕跡さえこれっぽちも感じられねぇよ」

「つまり魔法が使用されてない?」

「そういうことだな。転生勇者のクソ野郎共を復活させてるのは魔法の類じゃないってことだ」

「魔法じゃない……でも他に転生勇者を生き返らせる力なんてあるのか?」

「おいおいレイジ、お前ちょっと魔法を過剰に評価しすぎだぜ。そもそも死んだ人間を生き返らせる魔法なんてのはあるわけがねぇんだ。仮にそんなことができる人間がいるならそいつはもう人間じゃねぇよ。それこそ神の……」


 ここで俺とロウガは目を合わせた。

 思えば単純なことだった。

 死んだ者を蘇らせるなんてチートができるのは一人しかいない。


「なぁ……本当にその神が転生勇者を生き返してるっていうなら俺達魔族の敵は人間だけじゃなく神様ってことになるのか?」

「そういう……ことになるな。人間共の話によりゃあ女神ってのは自分を神の使いだって名乗ったんだろ? 神が人間の味方をするために女神を送り込んだって考えりゃあ確かに辻褄は合う」


 神。

 これは元の世界でも当たり前のよう聞いていた単語だ。

 全知全能、創造主、世界そのもの。

 人によって捉え方はそれぞれだったが、自分達人間の上位の存在という点では共通していた。

 この世界に置いても神という単語は幾度か耳にしている。

 特にあのディルハンブレットとの戦いの際には何度か神という単語が出てきていた。

 神の恩恵を受けた十字架、その恩恵を少しずつ貯めて作り上げた魔法石。

 具体的に神の影響を与えられた物が存在する時点で元の世界よりも遥かに神の存在というものには信憑性があるのは間違いない。

 それに──


「確かスレイスは神に見放されて魔族に身を堕としたって話だったな……」

「あの天使族の魔王か」

「何か知ってるのか?」

「それとなくだがな。確かあいつら天使族っつうのは元々神の使いだったって話だぜ」

「天使族が元神の使い?」

「あぁ、だがまぁ今から数百年前だかに天使族が神に反乱を起こしてうんたらかんたらってやつだな」

「で、そのうんたらかんたの部分は?」

「んなもん知るかよ。俺は別に天使族にも神にも興味はねぇからな」

「そうか。まぁ後で自分で詳しく調べてみるさ」

 

 ロウガの話を聞いて大体話がまとまってきた。

 まずロウガの口ぶりや今までのことからこの世界に神と呼ばれる上位の何かがいるのは確実だろう。

 そしてその神に現魔王の一人スレイスは仕えていた。

 だが何が原因かは分からないが、スレイス達天使族は神に反乱し、魔族としてこの地に来た。

 その後、スレイス達の代わりに神の使いとなったのが女神と名乗る者なのだろう。

 そして一年ほど前、神は人間の味方をするため女神をよこして転生勇者を蘇らせる教会を作らせた。

 これらはあくまでも全て想像の範囲だが、それでもぼんやりと敵の姿が見えてきたように思える。


「そんでレイジ、この教会はどうすんだ? 予定じゃあぶち壊すってことだったけどよ」

「そうだな、もちろんこの教会は壊すさ。だが今じゃない。色々使い道はありそうだからな」

「使い道?」

「あぁ」


 俺達にとっては転生勇者を復活させるこの場所は百害あって一利なしだろう。

 だがそれも使いようだ。

 機会があれば転生勇者を生きたまま捕えたいところだな。


 その後、俺は教会を後にしてロウガと人狼族達に指示を出した。

 まず人狼族50人とロウガにはこの村の管理を任せた。

 仕事は村人の監視と部外者の排除。

 いずれこの村の事はバレるだろうが、それまでに村人全員を眷属化実験の被験者にしてしまえば問題はない。

 今日城へ連れ帰る村人の人数は20人。

 前回の実験で自身の血を相手に送り込むのには思った以上に体力を使うことが分かっている。

 感覚的には一日10人くらいが限度といったところだろう。

 なのであまり多くの人間を一度に連れて行っても人間用の食事などがないことからあまり長くは持たせられない。


「それじゃあ後は任せたぞロウガ。仮に勇者が攻めてきても無理に戦わず村を捨てて逃げろよ」

「へいへい」


 俺は人狼族50人を連れて村を後にした。

 地上を走る人狼族の周りを空から警戒しつつ城へと戻る。

 城までは人狼族の足に合わせて帰れば大体1時間少しといったところだろうから夜明けまでには余裕で間に合いそうだ。


「さて、あっちは上手くやってるかな」

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