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39.プロント村襲撃

 上空からプロント村を見下ろす俺は、民家に灯っていた最後の灯りが消えるのを確認して地上で待機しているロウガの元へと降りた。


「準備は?」

「あぁ、いつでもいけるぜ」


 そのロウガの返事を聞いて俺は襲撃の合図を出した。

 今回の襲撃に連れてきたのはロウガとその部下である人狼族の戦士100人。

 ラミアと希沙良には城の宝物庫にあるゴーレムの方を任した。

 希沙良は最後まで文句を言っていたし、戦力的な事を考えれば連れてくるべきだったのだろう。

 しかし本音を言えば自分の妹を危険な目には合わせたくない。

 それに脅威となる勇者がいないのならば俺と人狼族の力があれば制圧は容易いはずだ。


 俺の合図でロウガが人狼族の精鋭戦士30人を連れて草陰に隠れながら静かに村へと近寄っていく。


 今回の襲撃の目的はプロント村の制圧。

 そう、虐殺ではなくあくまでも制圧だ。

 そのためにまず俺は村を囲むように人狼族65人を茂みに隠し、残りの5人を村の周囲が見張れる位置へと配置した。

 これは村人を村から逃さないためである。

 一人でも逃がせば周囲に村が無いとはいえ遠くの村へ助けを求めに行ってしまう可能性があり、それによって勇者の邪魔が入る可能性があるからだ。

 無論、65人で村全体を完全に囲むのには無理があるが、人狼族の脚力と夜目の効く魔族の目をもってすれば逃げようとする人間を捕らえるのはそう難しいことではない。


 ロウガ達が村のすぐ近くまで着くと、今度は村を囲む人狼族へ上空から手で合図を送る。

 それに合わせて村を囲むように火が上がった。

 真っ暗であった周囲は一気に明るくなり、それを合図に部下を連れたロウガ達が村へと一気流れ込んでいった。


 人狼族を配置しているとはいえ、村の人口300人全員が一斉に逃げ出してしまえば流石に殺さずに捕らえるのは難しい。

 しかし火で囲まれてしまえば無理に村から逃げ出そうという人間は絞られてくるはずだ。


 火に囲まれた村を上空から見下ろす俺の目にはパニックになり慌てふためく村人たちが映っていた。

 現状を理解しきれずにいる様子の者、泣き喚いて暴れる者、諦めたようにその場に立ち尽くす者、叫び声を上げながら逃げ回る者と反応は様々だ。

 そんな混乱する村人へロウガ達が襲いかかる。


 ロウガ達は捕らえた人間をロープで縛り上げ、逃げ惑う村人を村の中央広場へと誘導していく。

 火に恐れたのか思っていたより村から逃げ出そうという人間は少なく、むしろ自ら村の中央へと逃げて行ってくれたおかげで襲撃から数十分でほとんどの村人は村の中央広場へと集められた。


 それを上空から確認し、配置している人狼族達を徐々に村へと進行させていきながら最終的に全ての村人を一箇所に集めることに成功した。


「思ったよりもスムーズにいったもんだな」


 もっと村人からの抵抗があるものだと思ったがそんなことはなく、今回の襲撃は拍子抜けするほどにあっさりと成功した。

 まぁそれもこの村に勇者がいなかったおかげだろう。


「大親分!!! 村人全員を中央に集めましたぜ!」


 地上に降りるとすぐに人狼族のテスラが駆け寄って報告してきた。


「あぁ、上から見てた。それで死人はでたか?」

「いえ、怪我をした人間なら何人かいやすが、死者は誰もいやせん」

「そうか」


 村の制圧、そして実験対象予定の人間一人も減らすこと無く捕えれたのは大きい。

 襲撃は完璧に成功したと言っても良いだろう。


「教会の方はどうだ?」

「とりあえず手は出さねえでおいてやす」

「そうか。ともかくまずはこの村の完全制圧が先だな」


 ここまでは完璧だ。

 あとは村人を精神的に完全に支配し、教会を調べて壊すだけ。


 テスラの話を聞き、村人を集めた中央広場へと向かおうとした時、ふと嗅ぎ慣れない匂いが漂ってきた。

 その匂いは何故か俺を不快にさせる。


「なんの匂いだ……?」


 匂いの元へと目を向けると、そこには周りの民家の倍以上の大きの建物があった。

 入り口の扉には剣と盾の絵、そしてプロント製造工場と書かれていた。


「なんすかねここ……中から人間の匂いはしやせんが」


 何か嫌な予感が頭を過ぎった。

 昨夜チュータはこの村の事をなんと言っていた?


『プロント村は勇者への装備品を量産して生活を──』


 その言葉を思い出し、全身に悪寒が走る。


 まさか……ここは……


 俺は建物に近づき、扉をゆっくりと開けた。

 中が見えるにつれて匂いは段々と強くなっていく。 


「──!?」


 最初に目に入ったのは天井から鎖で吊るされた魔族達だった。

 人型の魔族、動物型の魔族、見たことのない姿をした魔族。

 種族は様々だったが、その多くが体の部位をどこかしら欠損しており、中には全身の皮を剥がされている者や、足元の作業台と見られる場所へ内臓を垂らして絶命している者もいた。

 建物内はいたるところに魔族の血と見られる様々な色の液体が飛び散っており、作業台周辺は特に酷く、目も当てられないような光景だった。


「ひ、ひでえ……うっ──」


 隣でこの光景に耐えかねた様子のテスラが嘔吐する。

 俺は吐き気を無理やり抑え、建物内をさらに見渡した。


 床の数カ所に魔法陣が描かれており、建物の隅には廃棄用と書かれた看板の後ろに魔族の死体がいくつも積み重なっている。

 壁には剣や防具、そして何に使うか分からないような装飾品が飾られており、それらが一体何を元に作られたのかは容易に想像できた。


「……ジテ……ダレガ……」


 その地獄とも言えるような場所で、今にも事切れそうな微かな声が俺の耳に届いた。

 声のする方へと目をやると、そこにはいくつかの鉄の檻があった。

 声の主の元へと近づき、その姿を確認する。

 そこにいたのは元がどのような姿だったのかも想像できない変わり果てた魔族の一人だった。


「ダ……ダノム……ゴロジデ……ゴロジデグレ……」


 俺にそう訴えかける魔族の顔は辛うじて動いている口元だけが確認でき、元がなんの魔族だったのか判別できないほどに損傷していた。


「ダノム……」

「……あぁ」


 俺は素早く鉄の檻ごとその魔族の体を引き裂いた。


「お、大親分……」


 なぜだか涙が出てきた。

 自分の中に渦巻くこの環状が悲しみなのか怒りなのかは分からない。

 ただただ最低の気分だった。


 結局生きている者は他におらず、俺とテスラはその工場後にした。


「テスラ」

「へ、へい」

「あの工場は跡形もなく焼いておけ」

「わ、わかりやした!」


 こういう場所があることは勇者の装備を見た時から分かっていた。

 魔族を材料に武器や防具を作る。

 俺だって元の世界のゲームで当たり前のように行っていたことだ。

 別に今回に限ったことではない。

 生物は自分達が生き残るために他種族、時には同種族さえ殺す。それが生物だ。

 だからこれは生物として仕方のないことなのかもしれない──


「そんな風に割り切れたらどんなに楽だろうな……」


 俺はより一層思う。

 人間共を早くどうにかしなければと。

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