38.ラミアの眷属化実験レポート
[眷属化実験について]
本実験の目的はノノ様の吸血鬼としての能力を明かす事である。
ここにはその能力の第一候補である眷属化能力の実験結果を記す。
被験者は人間の男1名、女2名の計3名。
実験はあらかじめ被験者のステータスを書き写し、ノノ様がご自身の血を3人の被験者に一定量注入するという方法で行う。
[被験者1]
ドイン・クレガ(28)
性別:男性
Lv:47
職業:勇者
【ステータス】
体力:95
魔力:9
物理攻撃:23
物理防御:19
魔法攻撃:12
魔法防御:11
素早さ:15
特殊スキル:なし
[備考]
血液を注入後すぐに白目を剥いて倒れ、体を1分程痙攣させて間もなく死亡。
死体にはこれといって変化は無く、眷属化の兆候は見られなかった。
[被験者2]
レミル・ヘインズ(21)
性別:女性
Lv:40
職業:魔法剣士
【ステータス】
体力:73
魔力:36
物理攻撃:15
物理防御:16
魔法攻撃:18
魔法防御:30
素早さ:11
特殊スキル:なし
[備考]
血を注入後、被験者1と同様の症状を起こし、6分程で死亡。
死体に変化無し。
[被験者3]
アリアス・ファドメ(21)
性別:女性
Lv:46
職業:魔法使い
【ステータス】
体力:42
魔力:78
物理攻撃:7
物理防御:6
魔法攻撃:39
魔法防御:56
素早さ:13
特殊スキル:なし
[備考]
血を注入後、暫くの間意識があり、その間に声を上げて暴れまわるが、やがて上記2名と同じ症状を起こして10分程で死亡。
死体の2本の牙、人間でいう犬歯の部分が生前よりも1cm程伸びており、眷属化の兆候が見られた。
[実験結果]
今回の実験はノノ様の持つ能力が先代様と同様に眷属化能力である可能性を高める結果となった。
被験者3の死体がなぜ他の被験者と違い変化したのかはまだ分からないが、今回の結果を見る限りステータスの【魔力】、【魔法防御】の数値が関係している可能性が高い。
被験者3は魔法使いという職業を選んでいることからこの2つの数値が他2名よりも極めて高い。又、被験者1と被験者2に死亡後の変化は見られなかったが、死亡までの時間に大きな誤差があり、ステータスを見る限りではやはり【魔法防御】の数値が関係していることが考えられる。
これらの結果をまとめると、【魔力】か【魔法防御】、もしくはその両方の数値が高い程ノノ様の能力への耐性が高いという推測ができる。
しかし、注入する血の量、個人の生まれ持っての免疫力など不確定な要素が多く、結論付けてしまうには検証回数がまだ圧倒的に足りていない。
今回の実験でノノ様の能力が眷属化能力だという可能性は高める事はできたが、その条件などはまだ不明であり、確証を得るにはもっと多くの人間が必要である。
◇
「なるほど……つまりあんたの能力は前のヴァパイアロードと同じ可能性が濃厚ってわけね」
配られた眷属化実験の結果が書かれた紙を読み終えた希沙良が呟く。
それに続いてロウガが口を開いた。
「確かに実験の結果ってのは分かったが、これがどう村の襲撃の話に繋がるってんだ?」
「あぁ、その理由については最後に書いてあるだろ?」
「最後? ……はぁん、なるほどな」
ロウガは納得したのか、裂けたように大きな口を少し歪ませた。
「全員分かったと思うが、今回の村襲撃は生きた人間、つまり眷属化実験のサンプルをより多く集めるのが最終的な目的だ。まぁもっとも教会を壊して村を支配してしまえばいいだけのことなんだがな」
そう、今回の襲撃で村を支配し、サンプルを集めて眷属化実験を進める。
そして俺の能力、眷属化の条件を完全に理解する。
俺には純粋な戦闘を行えるような仲間がまだ100強しかいない。
だがこの眷属化能力さえ使うことができれば、戦力を大幅に上げることも夢ではないはずだ。
「それで村の襲撃には作戦があるって言ってたけど、一体どんな作戦なわけ?」
「それについてはチュータの方から詳しい話をしてくれ」
俺の言葉に希沙良の隣で机に座るチュータが頷いた。
「ではこの軍師チュータの口から今回の作戦について話させて頂こうかの」
チュータを軍師に任命した記憶は全くないのだが、まぁいいか。
「まず今回襲撃する場所はここから真っ直ぐ南にあるプロント村という村じゃ。人口は300人程で、勇者への装備品を村全体で協力して製作して生活しておるようじゃな」
チュータが指示を出すと他の三つ目ネズミ達が机の上に紙を広げた。
そこにはプロント村の地形や建物などが細かく記されていた。
「この村は比較的に小さな村じゃ。近くに他の集落も無く、襲撃したところで異変に気付かれる可能性もほとんどない。それになにより今この時こそ襲撃するには絶好のタイミングなんじゃ」
「絶好のタイミング?」
希沙良が少し首を傾げる。
「プロント村の教会……いや、全ての教会には国から派遣された上級クラス以上の勇者がその場所を守っておるのは姫様も存じているかと思いまする」
「上級クラス……あっ、も、もちろん知ってるわよ!」
絶対知らなかったなこいつ。
「全ての教会にはレベル1000を超える上級クラスの勇者、もしくはレベル3000を超える最上位の勇者が派遣されている。上級以上の勇者ってのにはまだディルハンブレットの野郎しか会った事はないが、仮にあのレベルに近い勇者がいるってんなら村の襲撃は容易じゃない」
「ふ、ふーん、なるほどね」
流石にあのディルハンブレット級の勇者が何人もいるとは考えにくいが、それでも上級クラスの勇者が危険なのは変わりない。
いくら俺に力があるとはいえ、吸血鬼である以上は太陽の光などの対策を練られてしまえば格下の勇者にもあっさり負けてしまう可能性もある。
「そのプロント村の教会を守る勇者、話ではかなりの実力の者だということじゃが、どういうわけか今は王都にいるらしいのじゃ」
「王都に? それってさっき言ってた勇者への召集の話よね?」
「その通りですじゃ。このプロント村だけでなく他の教会に派遣されておった勇者共も王都へ召集されておる」
「それってつまり……」
「そうじゃ。今こそ忌まわしき教会を潰すチャンスというわけですじゃ」
そう、理由は分からないが名のある勇者のほとんどは今王都へと召集されている。
つまり魔族から村や町、そして教会などを守っていた勇者共がいないのだ。
「ハッ、確かにこの機会を逃す手はねぇだろうな」
「あぁ、何を考えてるか知らないが、勇者がいないなら俺達はその隙に人間共を襲うまでだ」
恐らくこれは俺だけの考えじゃない。
他の魔王も大きく動き出しているはずだ。
「面白くなってきやがったな。そんでその作戦てやつは?」
「うむ。では具体的な作戦について語るとするかのう」
チュータはプロント村襲撃の作戦を話し始めた。
今回の作戦を組めたのは、チュータ達三つ目ネズミ1000匹という数を使ってプロント村を調べることができたのが大きな要因だろう。
プロント村からこの城まで三つ目ネズミを一定の距離を置いて配置し、伝言ゲームのように情報を伝達させる。
この方法で村の状況、周りの地形、そして上位勇者の不在という多くの情報を素早く得ることができた。
作戦は立てた。
あとはそれを明日実行するだけである。




