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番外編 王都ベルシオンに召集された勇者達の場合 後編

【6大魔王の動向とその被害状況について】


 以下は魔族の動きが活発化した時期、つまり異世界から転生勇者がやってきてからの魔王、もしくはその配下による各地への被害状況と魔王の動向を書き記したものである。


[アンデッド族の魔王ネリガル=ゲート=スカル]

 北東部沿岸にある暗黒城を中心に近隣の町村に多大な被害をもたらしている。

 その内、セウブ村とインバー村の壊滅を確認。

 被害にあったとされる施設は教会3箇所、勇者総合案内所1箇所。

 魔王であるネリガル自身の目撃証言は全く無く、被害は全てネリガルの配下の魔族によるものであるとされる。

 又、行方不明者の数から、ネリガル=ゲート=スカルの能力により、死者をアンデッド族に変えて配下を増やしている可能性が高い。

[判明している被害者数]

 合計死者数:84人

 行方不明者数:208人

 勇者の死者数:6人


[天使族の魔王スイレス=ポートミル]

 大陸全土でスレイス=ポートミルの目撃情報多数あり。

 町や村への被害は殆ど確認されていないが、教会及び特定の勇者への被害が報告されている。

 被害にあった教会は11箇所、殺された勇者は4人。

 殺された勇者はいずれもLv3000を超える最上位クラスの者達で、他の死者は全員その勇者のパーティメンバー及び教会関係者である事から、スレイス=ポートミルの標的は強力な勇者と教会関係者だとされる。

 これらのことは他の天使族の目撃がないことから、全てスレイス=ポートミル単独での行動とみられる。

[判明している被害者数]

 合計死者数:68人

 行方不明者数:0人

 勇者の死者数:4人


[吸血鬼族の魔王ヴァンパイアロード]

 異世界から来た転生勇者達と同時期に現れ、人間に多大な被害をもたらしている。

 直接対峙した勇者の情報から、15年前に死亡したヴァンパイアロードとは別個体であると考えられるが、その力は4大英雄ディルハンブレット・オールミルガですら苦戦を強いられるほどであり、まだ未知数ながら充分魔王としての力を持っていると言える。

 際立った事件として、ルサレクスの大虐殺、そしてつい先日のマイシャの森半焼事件があげられる。

 東の町ミルダの消滅事件にも関与しているとされ、ヴァンパイアロードによる被害者数は魔王の中でも頭一つ抜けており、その悪逆非道の数々から早急に対処すべき魔族の一人である。

[判明している被害者数]

 合計死者数:3889人(ミルダの総人口1760人を含む)

 行方不明者数:247人

 勇者の死者数:36人


[悪魔族の魔王セパパ=パープ]

 上記の魔王達とは違い、特にここ最近活発な動きを見せている様子はない。

 しかし、元々好戦的な魔族であるのは変わりなく、被害は悪魔族の住処であるとされる北西部を中心に出ている。

 ある転生勇者のパーティーメンバーからの情報によれば、セパパ=パープと対峙した転生勇者が教会で蘇らず、そのまま死亡したとの報告もあるが、真偽については現在確認中である。

[判明している被害者数]

 合計死者数:25人

 行方不明者数:0人 

 勇者の死者数:3人(上記に記した転生勇者を除く)


 他2人の魔王、竜人族の魔王ジャルガ=ジャルニードと獣人族の魔王に関しては別段特出した情報は入っていない。

 しかし、動き出せばもっとも人間側に被害が出るとされる竜人族は今後もその動きを慎重に見極めなければならない。

 そしてその素性が全く不明とされている獣人族の魔王。

 2年前に前魔王が死に、新しい魔王が獣人族内で選出されたという事以外は未だに謎に包まれている。

 魔族側でもっとも多くの兵力を誇る獣人族の動向は今後も注意が必要である。



 ◇



 ラムク大臣から配られた紙の1枚目には魔王達の動向や、被害状況が書かれており、2枚目以降には以前までの被害状況と照らし合わせたデータや、殺された勇者の詳細などが細かく記載されていた。


 見たところ、わたし達エルフ族にはまだ被害はないようだ。


「見てもらえば分かるように、ここ最近の魔王たちの動きは明らかに以前とは違う。良い意味でも悪い意味でも長い間膠着こうちゃく状態にあった我々人間と魔族の戦い。互いが互いの最大戦力、つまりは4大英雄と6大魔王を警戒して大きな動きを見せることはなかった。15年前のアッシュフェルト山脈の戦いですら、その後に人間と魔族の大規模な戦争に至るようなことはなかった。しかし、今こうして魔王達が大きな動きを見せ始めている」


 そこまで言うとラムク大臣は一度呼吸を置き、話を続けた


「理由として考えられるのは異世界からこの世界へやってきた転生勇者の存在、そしてその転生勇者を支援する教会の存在だ。話には聞いているだろうが、転生勇者は一般的な勇者と違い、最初から高いステータスを持っている。それにより成長速度も早く、各地で次々にその活躍を耳にする。さらには教会が転生勇者を蘇らす魔法を完成させたことにより、魔王達がその転生勇者を脅威に感じ動き出したというのは明白だろう」


「あのー、少しいいでしょうか?」


 そう言って手を上げたのは、まだ十代半ば程の若い男だった。

 それを見て何故かわたしの隣のフォルスが小さく舌打ちをする。


「ん、確か君は勇者ギルド、白辺しらべ第三中学校2年2組代表のカブラギ君だったかな。一体なにかね?」

「あのー、さっきから話を聞いていると、なんか僕ら転生勇者のせいで魔王が暴れまわってるみたいな感じに聞こえるんですけど、正直そんな事言われても困るんですよね。僕らだって好きでこの世界に来たわけじゃないし、なんか偉そうな人からいきなり勇者になって魔族を倒せって言われたっていうか、ゲームの中みたいで楽しんでただけっていうか……」


 なんだこの人間。

 今の状況を分かっていて発言しているのか?


「だから言ってしまえば僕らと今回の話ってあまり関係ないと思うんです。そもそもそんなに魔王が怖いなら僕のギルドに魔王討伐の依頼でもしたらどうですか? うちのギルドは皆転生勇者だし、魔王くらい僕らだけでなんとかできると思うんですよね」


 カブラギという転生勇者の発言にその場の空気が明らかに変わる。


「さっすがカブラギ! 言うねぇ!」

「頑張れリーダー!」

「わたしもカブラギくんの言う通りだと思います。わたしたち2年2組なら魔王を倒すことも充分可能なはずです」


 カブラギの後ろに立つ、ギルドのメンバーと思われる人間達がそう騒ぐのを尻目に、その場のほとんどが呆れたような顔をした。

 ラムク大臣も少し困った顔をし、カブラギを諭すような口調で口を開く。


「いいかいカブラギ君、別に私は魔王による被害を君ら転生勇者のせいにしたくて今回ここに大陸中から勇者を召集したわけではないんだよ」

「ふーん。だったらなんで呼んだんですか?」

「確かに魔王による被害が多発していることは嘆かわしいが、それは今まで表の舞台に中々出てこなかった魔王達をまとめて打ち取る絶好の機会でもある。すなわち、私が皆をここに集めたのは6大魔王全員の首を取り、魔族を我々の手でこの地から葬るため」


 それを聞いてディルハンブレット様が口を開いた。


「なるほどな。つまりここにいる人間を中心に、魔王を打ち取るための討伐隊でも編成しようというわけか」

「仰る通りです。今の勇者は各々が好きに魔族を狩り生活しています。過去には強力な魔族を狩るために各地の勇者が集まって大規模なパーティを組むこともありましたが、基本的に勇者とは軍隊ではなく、魔族を狩ることを職業とした一個人であり、我々もそれを認めてきました。しかし今の現状、それではいつまで経っても魔王の脅威を払拭することはできません」


 確かに勇者は都市や大都市が持つ軍隊とは違う。

 あくまでも自分の生活や目的のために魔族を狩ることを専門とした職業であり、国のために魔族を狩っているわけではない。


「ここにいる我々が選出したトップクラスの勇者諸君、そしてその上に立つ4大英雄の方々にはこれより魔王討伐隊として他の全ての勇者をまとめあげていただきます」


「悪いですけど、僕らはお断りします」


 そう言って席を立ったのは転生勇者ギルドの代表カブラギだった。


「別に僕らはこの国のために魔族を狩ってるわけじゃないんで、討伐隊だとか軍隊とかそういうなんか物騒なものはそっちで勝手にやってくださいよ」

「何か誤解しているようだねカブラギ君」

「……はい?」

「私は今回君に魔王を倒してくれとお願いをしているわけではない。これは国からの命令だ。あくまでこの命令を断るようならこの国への反逆と受け取るがそれでいいのかね?」

「反逆……」


 反逆という単語に動揺を見せるカブラギ。

 それを無視し、ラムク大臣は他の勇者へ向け話しを続けた。


「他に今回の決定に意義がある者はいればここで申し出てくれ」


 それにいち早く反応したのはセルフィだった。


「あたしは賛成! だってなんか面白そうだし! ねっ、マリーもそう思うでしょ!?」

「わ、私は国が決めたことなら従うよ。で、でも、これは大事な話なんだから面白そうなんて言ったらダメなんじゃ……」

「なーに言ってんのよ! 人生において面白いか面白くないかってのはすっごく大事なことなんだから!」

「それはセルフィちゃんだけじゃないのかなぁ……」


 そんな2人のやり取りを見てかは分からないが、他の勇者も次々と賛成の位を示し始める。

 それを聞いて満足気な表情をするラムク大臣。


「よろしい。ではここに6大魔王討伐を目的とした勇者による討伐隊の発足を宣言する!!!」


 それからラムク大臣はこれから暫くの間はこの王都で今後の方針や討伐隊編成の詳細などを話し合うといい、その場は解散となった。

 一段落ついたところで、わたしはディルハンブレット様に質問をしてみた。


「ディルハンブレット様は今回の話どう思われましたか?」

「そうだな、確かに魔王共を倒すなら今は絶好の機会であることは間違いないだろう。元々こちらと魔族の戦力は互角だったんだ。そこに転生勇者という戦力が追加されたなら、こちらが優勢になっているのは間違いない。本気で6大魔王全員を打ち取る気なら今回の勇者による討伐隊の編成ってのはいい判断だと俺は思う」

「そうですね……しかし本当に上手く討伐隊を編成できるのかわたしは心配です……」


 今まで自由にやってきた勇者達をまとめあげて、魔王を倒すための討伐隊、いわば軍隊を編成するのはわたしには簡単ではないような気がした。


「まぁ、容易ではないだろう。この大陸は広く、勇者はそれぞれ戦う理由が違う。金のため、国のため、正義のため、復讐のため、快楽のため、そして愛する者のため。それらをまとめ上げるのには時間もかかる。それに──いや、ともかく魔王共が俺達の戦力が完璧に整うまでおとなしくしてくれる事を祈るしかないか」


 なんとなくではあるが、わたしはディルハンブレット様の言葉に少し違和感を覚えた。


「何か……気になることが?」

「なに、この地に住む人間の未来を考えれば些細なことさ」

「は、はぁ……」


 この言葉の意味をわたしが知るのは、それから暫く経ってからの事であった──

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