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番外編 王都ベルシオンに召集された勇者達の場合 前編

 わたしの名前はアリエル=シャル=フローライズ。

 エルフ族を代表するフローライズ家の第三王女である。

 今はわけあって4大英雄ディルハンブレット様のパーティーメンバーとして、この大陸の中心、【王都ベルシオン】に来ている。


 数日前の憎き魔王ヴァンパイアロードと魔王スレイスとの遭遇。

 ギリギリのところでわたしはエルフ族の宝物庫から持ち出した転移魔法石を使い、ディルハンブレット様と共に近くの町へと逃げ果せた。

 しかし、ディルハンブレット様はそんなわたしをひどく叱責した。


 どうして魔族を前にして逃げ出したのかと──


 しかしわたしは自分の選択を後悔していない。

 本気のディルハンブレット様ならば魔王などに不覚を取るはずはないのだが、流石に魔王が2人となるともしものこともあり得る。

 わたしは何に変えてもディルハンブレット様の命を守りたい。

 だから例えどう思われようと、わたしはその命が無事ならそれでいいのだ。


 結局その後、ディルハンブレット様は「合格は合格だ」と言い、わたしと、どこかいけ好かないフォルスという転生勇者をパーティーメンバーに加えた。


「これからは……ちゃんとディルハンブレット様の役に立たないと……」


 周囲を巨大な壁に覆われた王都の中心にそびえ立つ宮殿。

 その一室から人々で賑わう城下町をボーっと眺め、そんな事を呟いてしまう。


 と、そこで部屋の扉が音を立て、廊下からディルハンブレット様の渋く、たくましい声が聞こえてきた。


「いくぞアリエル、始めるそうだ」

「は、はい!」


 すぐにわたしは部屋から出て、ディルハンブレット様の後についていく。

 隣にはどこか不機嫌そうなフォルスの姿も。


 宮殿の大広間に着くと、そこには大きく円状に並べられた机と椅子にたくさんの人間が座っていた。

 装備を見る限りどの人間も勇者だと分かる。

 その中で4つだけ他の椅子よりも豪華な装飾のものが並べられてあり、その一つにディルハンブレット様は腰を下ろした。

 わたしとフォルスはその後ろに佇むように姿勢良く並ぶ。


「あっれぇディルー、その腕どーしたのー?」


 ディルハンブレット様が席に着くと、すぐに隣に座る背の低い少女がディルハンブレット様に不思議そうな顔をしてそう質問した。

 その少女は腰まで伸びるピンク色の髪を頭の上で2つに結び、両手の指全てに様々な形をした指輪をしていた。

 服装はこの王都にあるエルセンデル魔法学園のブレザーを着用しており、服の至る所に趣味の悪いアクセサリーを付けている。


 その外見と、この場所にいるということからわたしは一人の少女を思い出す。


 この生意気そうな娘が4大英雄ガスタ・ウィザードの一番弟子、セルフィ・ハスノーチェス。

 ついこの間、18歳にして賢者の称号を獲得したという天才魔法使い……


「あぁ、ちょいと前の戦いでしくじってな」

「ふーん。ディルがそんなになるなんて相手は一体どこの魔王よ」

「……最近うわさのヴァンパイアロードだよ」

「あ、ほんとに魔王だったんだ。でもいいなぁ、あたしも魔王と戦ってみたいなー。とは言ってもあたし吸血鬼とか教科書でしか見たことないし、ヴァンパイアロードとかよっくわかんないのよねー」


 しかしこの人間、ディルハンブレット様に対して随分と馴れ馴れしいな。


「まぁ、吸血鬼が暴れたのは15年以上前の話だしな。ところでどうしてお前がその席にいるんだ? そこはガスタさんの席だろ?」

「あぁ、お師匠様なら来ないわよ。なんか隠居するんだって」

「い、隠居? あの大賢者と言われたガスタさんが?」

「そうそう。いくら4大英雄だなんだってもてはやされても、もうまともに戦える歳じゃないもの。だからこのあたしがその代理ってわけ」

「代理って……そもそもお前勇者じゃないだろ?」

「ふふん。昨日しっかり勇者登録してきたわよ」


 そう言ってセルフィは上着のポケットから勇者の証である星型の石を取り出し、ディルハンブレット様に見せつけた。


「ほら、これでわたしも勇者ってわけ。あたしまだぺーぺーなんだし優しくしてね~」


 それに対しどこか不服そうな様子のディルハンブレット様。


「なーんか納得いかないって顔してるー。ねぇマリー、あんたからもなんか言ってやってよー」


 ディルハンブレット様のその様子に頬を膨らませ、セルフィは隣のメガネをかけた、薄い青色の髪をした女性に話しかけた。


「えぇ、私にそんなこと言われても困るよぉ」

「そんなー、学園のOBなら在校生を助けてよー」

「んー、で、でもやっぱりセルフィちゃんはまだ学生さんで勇者になったばかりだし、ガスタ教授の代わりっていうのは反発する人も出てきちゃうんじゃないかなぁ」

「むー」


 マリー……なるほど。

 この大人しそうな女が4大英雄マリーロッド・メイジ……

 ならあの席は……


 4大英雄のために用意されたと思われる最後の席は空席となっていた。

 おそらくあの席はディルハンブレット様を差し置いて、最強の勇者と言われるクロノス・アナザクトの席。


「大体揃ったようだな」


 そうこうしている内に、わたし達の正面の扉からいかにも真面目そうな年配の男が姿を現した。


「私はこの国の大臣、ラムク・ザリド。今ここにいる勇者諸君をこの王都へ召集をした張本人である。おい、配れ」


 ラムク大臣が傍の部下にそう指示を出すと、部下はわたし達の前に4、5枚の紙を置いていく。


「私が召集をかけた勇者は大きく分けて2つ。この大陸に名を響かせている者、そしてギルドを始めとする大規模組織を率いている者達だ」


 ラムク大臣の言葉にあらためて周囲を見渡してみる。

 席に座っている代表と思われる人間の数は大体30人程だろうか。

 広間にいる人間の数を入れれば100を超えるだろう。


「本題に入る前にまず召集に応じてくれたことに感謝する。中でも4大英雄と呼ばれる勇者達が集まってくれたことは喜ばしいことだ。残念ながらクロノス様の所在だけは掴めなかったが……まぁそれはいつものことか」


 いつものことなんだ……


「ともかく3人もの英雄達が集まってくれた。剣術、体術、魔法の全てに優れ、勇者の手本とも言えるべき勇者の中の勇者ディルハンブレット・オールミルガ様。回復魔法を極め、サポート面はもちろん、自身も戦いでは死ぬことがないとさえ言われるマリーロッド・メイジ様。そして我が国を代表する魔法使いにしてエルセンデル魔法学園の名誉教授でもある大賢者ガスタ・ウィザード様。このお三方が……ん? ガスタ様はどうした?」


 ここでやっとガスタの席に全く違う人物が座っていることにラムク大臣は気付いたようである。


「どもどもー! あたしお師匠様の弟子でセルフィって言いまーす! 今日はお師匠様の代理ということでやってきました! 以後お見知りおきを~!」


 集まった勇者達はセルフィを見て眉をひそめ、広間はざわつき始めた

 大英雄の代理でまだ年端もいかない少女が来たのだから当然の反応だろう。


「あっれぇ、なんか変な空気になっちゃってる? んー、でも文句ならあたしをここにこさせたお師匠様に言ってよねー。それに言っておくけど、実力に関してはとっくにあたしの方がお師匠様より上なんだから」

「ちょ、ちょっとセルフィちゃん~!」

「ま、まぁいい。お主が最近ガスタ様から賢者の称号を授けられたという話は私の耳にも届いておる」


 賢者の称号を授けられたという話に、広間はさらに大きくざわつく。

 そんな中でラムク大臣は一度ゴホンと咳払いをしてその場を静める。


「ともかく本題に入ろう。皆、配られた紙に目を通してくれ」


 その紙にはここ最近の魔王の動向や被害状況が記されていた。

 その内容は、わたしが思っていたよりもずっと今の現状が深刻であることを示していた。

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