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31.ディルハンブレット・オールミルガ

「おや……じ……」


 その光景に言葉を失うロウガ。

 それは俺も同じだった。


「親父……? あぁ、お前はこいつのせがれか。そいつは嫌なもの見せてしまったな。すまんすまん」


 男はそう言って無造作にヴォルグスの頭をロウガへと投げつけた。

 大きなヴォルグスの頭はロウガの足元の地面に転がると、その生気のこもっていない虚ろな目をこちらに向けた。

 首を切断され、力なく開いた口から舌を出し、ピクリとも動かないその頭はヴォルグスの死を俺に実感させる。


「衰えたとはいえやはり闇の軍勢の元幹部。せっかく集めた弟子候補達も俺のお気に入りの盾も木っ端微塵にされてしまったよ。まぁ久々にレベルも上がったことだしいいとするがな」

「お前……一体何者だ?」


 男に俺は問いかける。

 だがそんな質問をせずとも頭では分かっていた。

 しかし確認せずにはいられなかったのだ。


「ディルハンブレット・オールミルガ。職業は勇者で生まれは要塞都市ボーグバレル。好きな食べ物はそうだな……可愛い子が作る料理ならなんでも。趣味は武具集めで年齢は──」

「ガァ──!!!」


 ディルハンブレットの話の最中、声にならない叫びのようなものをあげながらロウガが飛びかかった。

 しかしディルハンブレットは軽い動きでロウガを避け、片腕を掴み、足をかけて体勢を崩させると簡単にロウガを地面へと倒し、そのままロウガの背中に腰をおろした。


「おいおい、俺がまだ話してるだろ? 人が話してる最中はその話に静かに耳を傾けろって親父に教わらなかったのか?」

「どけッ!!! ぶち殺してやる!!!」

「ハハ、威勢がいいな。だが教育はなっていないようだ。どいてほしいなら頑張ってどかしてみろよ」


 ディルハンブレットの下で必死にもがくロウガだが、ディルハンブレットは微動だにしない。

 それどころか俺の方を向いて何食わぬ顔で話を続けた。


「それで話の途中だったな。まぁ自己紹介なんてこんなもんでいいだろ。それよりこっちも質問なんだが、どうしてこんなところに魔王がいるんだ?」

「なっ──」

「どうして俺のことを知っているんだ……そんな顔だ。なに、その外見と最近のうわさ話を聞けばお前がヴァンパイアロードだってことくらいバカでも分かるさ。それにこの森に来た時からずっと空の方から禍々しい魔力を感じてたしな。まぁまさかそれが魔王だとは俺も想像していなかったが……」


 こいつ最初から俺達の存在に気付いていたのか?


「ルサレクスの大虐殺、あの事件で吸血鬼を見たって証言はくさるほどあったからな。それに東の町ミルダの消失事件。あれも吸血鬼のうわさが流れ始めた時期と重なる……あれもお前の仕業なんだろ? 全くいきなり現れて色々と人間に迷惑をかけてくれるよ」


 やれやれといった態度のディルハンブレット。

 

「まぁともかく、ここで魔王と会えたってのは幸運だ。ちょいとテンション上がっちまって喋りすぎたが、魔王と遭遇できることなんてそうそうないしな。ところで一つ聞きたいんだが」

「……なんだ」

「お前いつまで俺の話をそこでおとなしく聞いてるつもりだ?」


 こいつ──


 すぐに俺は先程切り落としたフォルスという勇者の剣を腕ごと拾い上げ、それをディルハンブレットに全力で投げつける。

 腕のついた剣は真っ直ぐディルハンブレットに向かい、ディルハンブレットはそれをロウガの背から一旦離れて躱した。

 それと同時にロウガはその場からこちらに飛び退く。


「平気かロウガ?」


 その質問にロウガは答えない。

 答えないというよりは、頭に血が上ってこちらの言葉が耳に届いていないようだった。

 ロウガは再びディルハンブレットの元へと走り出す。


「おいおい、またお前か。個人的にはヴァンパイアロードの方と早く戦いたいんだが」


 先程と同様に拳を突き出したロウガ攻撃を避け、その腕を掴もうとするディルハンブレット。

 しかしロウガは腕を掴まれる前にもう片方の腕で第二撃を繰り出す。

 それをディルハンブレットは腰にさしていた細身の長剣で防いだ。


「なるほど、そこまでバカでは──」


 その一瞬を俺は見逃さなかった。

 ロウガに気を取られているディルハンブレットの背後に素早く回り込み、渾身の力でその体を引き裂こうと爪を振り下ろした。

 こちらに気付いたディルハンブレットがすぐに残った腕で体を守るがもう遅い。

 俺はその腕ごと引き裂くつもりで力を奮った。

 俺の攻撃でディルハンブレットは大きく吹き飛ばされ地面を転がる。

 

 気を取られている相手への背後からの一撃。

 とっさに腕でガードされたとはいえ、手応えは確かにあった。


「フフ、一瞬の隙をついての背後からの奇襲……悪くない」


 だがディルハンブレット何事もなかったかのようにゆっくりと立ち上がった。

 それを見て俺は自分の右手の違和感に気付いた。

 右手を見てみると、ディルハンブレットを攻撃した爪は5本とも全て折れている。


「随分と驚いた顔をしているなヴァンパイアロード。自分の攻撃で相手を殺せなかったのは初めてか?」


 嫌な汗が頬を伝う。

 今の攻撃は確実にディルハンブレットを殺せる自信があった。

 事実、今まで俺はどんな勇者であれ一撃で葬ってきた。


 これが4大英雄ディルハンブレット……


「なに、そう落ち込むな。この鎧は大陸一堅いと言われるクレス鉱石からできている。お前でなくとも、竜王の一撃さえ耐えられる代物さ。まぁ少々重量に問題があるのが難点と言えば難点だが」


 しっかりしろ……こいつの言葉に呑まれるな……

 鎧を破壊できなら直接頭を狙えばいいだけの話だ。


 俺は折れた爪を押しのけるように、新たに爪を伸ばす。


「さて、俺もそろそろ真面目に魔王退治といくか」


 ディルハンブレットの目つきが変わる。

 そして持っていた細身の剣を雑に放り投げ、口を開いた。


「召喚魔法発動……炎氷双剣イグニスレイを我が手に」


 その言葉とともにディルハンブレットの両手に剣が現れた。

 右手に握るのは炎を発する剣、左手に握るのは冷気を発する剣。


「気をつけろレイジ……ありゃ魔法剣だ」

「ロウガ……お前……」

「安心しな。あいつがふっとばされるの見て少し冷静になった……それよりあの剣だ。魔法剣てのは使用者の魔力の量に比例してその力を増す。つまり──」

「あの森を燃やす炎、あれを作り出したあいつの魔力から考えて相当な力を持ってるってことか……」


 チラリと横目で森の北側を燃やし続ける炎に目をやる。


「俺はあいつを絶対に許さねぇ……だが今の俺じゃあいつに敵わねぇことくれぇ分かる。だからよ……力を貸せレイジ」

「あぁ、あいつは俺達がここで殺る……まぁ礼の方は俺の配下になってくれりゃそれでいいさ」

「ハッ、こんな時にまでそれかよ。吸血鬼ってのは本当にたちの悪い奴らだぜ」


 俺達は共通の敵を見据え、同時に飛び出した。

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