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30.2匹の怪物

 最初に俺達に気付いたのは自分を魔力感知に優れていると言っていた両手に短剣を持った勇者だった。


「おい、なんだあいつら……他の奴と何か違うぞ……」


 俺達を見て何かを感じ取ったのか、その勇者は他の勇者に話しかける。

 それにつられてこちらを見る2人。

 そのうちの1人、銀髪の勇者は俺を見て目を見開き、かなり驚いた様子を見せた。


「なんで……なんであいつがこんなところに……」

「ん? なんだフォルス、お前知ってるのか? 見た感じ一匹はどうも人狼族には見えな──」


 特に危機感を覚えてなさそうな口調で悠長に話す勇者。

 俺はその勇者に一瞬で距離を詰め、右手で顔を掴んだ。


「なっ──ひゃ、ひゃな──」


 そして顔を掴んだまま体を持ち上げ、無造作に地面へと投げつける。

 勇者の体は少し離れた地面に叩きつけられ、大きくバウンドしてからピクリとも動かなくなった。


「な、なんだよこいつ!!!」


 そう言って魔力感知に優れた勇者が両手の短剣を構えると、その短剣から冷気が漏れ出した。


「うらあァァァァァァ!!!!」


 俺に向けて振り下ろしたその短剣、それを防いだのはロウガだった。


「へっ、これが転生勇者の魔法か? 随分としょっぺえ魔法だな」


 ロウガはその短剣を素手で掴み、そのまま刃を握り砕いた。


「お、俺の氷双剣が!?」

「消えな」


 ロウガは握り砕いたその手で拳を作り、それを勇者の顔面へと力いっぱい振り下ろした。

 勇者は、へぶっという短い悲鳴のようなものを口に出して遠くへ吹き飛んでいく。


「やるなロウガ」

「ハッ、てめぇも見た目のわりにゃあ良い戦い方すんじゃねぇか」


 残された勇者は俺達に恐怖の目を向けながらガクガクと震えていた。


「な、なんでお前が、魔王がこんなところにいるんだよぉ!!!???」

「あァ? てめぇの知り合いか?」


 そのロウガの問いに俺は勇者の顔をじっと見てみる。


 どこかで見たことがあるようなないような、正直言って思い出せない。


「あー、知らん」

「なっ、覚えて……ないだと……」

「悪いな。俺が直接会って覚えている勇者っていやー……そうだな、あのルサレクスで奴隷にしたギルフォードっていう転生勇者くらいだしな」


 俺の言葉にショックを受けたのか怒ったのか分からないが、その男は突然笑いだした。


「はは、そうかい……そうかよ……こっちはお前を倒すためにあんだけ悩んだってのにお前は覚えてないのか……いいさ、嫌でも思い出させてやるよ……このフォルスの本気をお前に見せてなァ!!! 剣神神器発動!!! 光剣イグナイテッドシャイニングを付属!!!」


 男が自身の剣を構えてそう叫ぶと、その剣から光が漏れ出していく。


「俺の特殊スキルはあらゆる最上級の武器の力を一時的に自分の武器に纏わせることができる剣神神器!!! 今回はお前の弱点、すなわち太陽の力をもつこの光剣イグナイテッドシャイニングの力を俺の剣に付属した!!! これならいくらお前だろうと斬られれば致命傷!!!」


 確かに吸血鬼の天敵でもある太陽の力、それをまともに受けてしまえばタダでは済まないだろう。


「これが俺の力だァ!!!」


 今まで出会った勇者の中でも別格の速度で振り下ろされる剣。

 しかし、血を飲んだことで極限まで研ぎ澄まされた俺の感覚では、その剣はまるで止まっているかのように見えた。


「……あれ?」


 男は俺を見て不思議そうな顔をし、地面に目を向けた。

 そこには俺が切り落とした、剣を持ったままの右腕が転がっている。 


「俺の……俺の腕……俺の腕があァァァァァァ!!??」


 肘の先から無くなった右腕を見て男は叫ぶ。

 しかし腕が無くなったわりには出血も少なく、深刻なダメージを受けているようには見えない。


「許さねぇ──! ぜってー許さねぇ!!!!」


 今まで勇者と幾度か戦ったが、強い勇者ほど身体へのダメージを与えてもひるまず、痛みも少ないように見える。

 つまり肉体の損傷に伴う痛覚などはレベルが高くなるごとに減っているのかもしれない。


「まぁ考えるのは後だな」


 俺は涙を浮かべて俺を罵倒し続ける男の首元に爪を突き立てようと腕を動かした。

 その時、ヒュンッという風を切るような音が微かに耳に届き、すぐにその場から後退する。

 それとほぼ同時に俺の頬を光を纏った矢が掠めた。


 チッ──またあいつか……


 すぐに矢が飛んできた場所を確認する。


「森の中か、そんなに離れた距離じゃ──」


 大体の場所に目星をつけ、翼を広げてその場所へ向かおうとした時、突然その場所の木々が大きな音を立てて倒れだした。

 一瞬何が起きたのか分からず困惑したが答えはすぐに森の中から飛び出してきた。


 森の中から転がり出るように飛び出してきたのは深緑色の髪をし、長い耳に白い肌をした俺が元の世界の知識で想像していたエルフそのものだった。

 そのエルフは焦った表情ですぐに起き上がると、その場からこちらとは反対に走り出す。

 その姿を見てとっさに後を追おうとした俺の足を止めたのは、森から4足歩行で走るロウガが飛び出してきたからである。


「あいついつの間に……」


 ここで俺はやっと隣からロウガがいなくなっていることに気がついた。


 ロウガはその脚ですぐにエルフに追いつくと、最初に勇者を吹き飛ばしたときと同様に、エルフの腹部に思い切り拳を叩き込んだ。

 エルフはうめき声を上げ、そのまま川で遊ぶ水切りのように何度も地面に体をぶつけながら俺のすぐそばまで吹き飛んでくる。


「く……そ……」


 エルフの女は苦しそうに口から血を吐き出し、観念したのか動く気力もないのかその場で仰向けになったまま動こうとはしなかった。


「こいつがエルフか……」


 人間の味方をするエルフ、希沙良の話しではその力は転生勇者以上ということだったが、その華奢な体からはそこまで強いようにはとても感じられない。


「おいレイジ、勝手に殺すんじゃねぇぞ。こいつは俺の獲物だ」


 俺が観察するようにエルフを見ていると、走ってきたロウガがそう俺に釘を差した。


「このエルフがさっきの矢の攻撃を? あの矢の数はとてもじゃないがこいつ一人の仕業とは思えないんだが」

「あぁ、ありゃ複製魔法だよ。対象になった物の複製を作る魔法だ。だがまぁ本来の複製魔法なら複製された物はオリジナルの強度よりも遥かに劣るはずなんがな。まぁ大方複製した矢の一本一本に強力な強化魔法をかけてよりオリジナルの強度に近づけたってとこか。エルフってのは魔法にも長けた種族だからな」


 魔法の複合か……


 ロウガの説明に魔法の知識がほぼ無いと言っていい俺は思わず関心してしまう。


「さぁてと、これでここに俺の仲間を矢で射殺した奴と、わけの分からねえ技をぶっ放しやがった奴が揃ったってわけだ。そっちの勇者は殺したところで復活されるらしいからな。先にこのエルフの野郎からだ」


 そう言ってロウガはエルフの女に向けて拳を握った。

 それを虚ろな目で見ながらエルフの女は口を開く。


「勝手にしろ……お前ら魔族など……ディルハンブレット様がすぐに始末してくれる……」

「そうかい、どうでもいいからあの世であいつらに詫び入れな」


 それはロウガが拳をその顔に叩き込もうとした時だった。


「はーいはい、そこまで」


 軽い口調でそう言いながら赤みががった長髪の男が森の中から姿を現した。

 思わずその姿に俺もロウガも動きを止めてしまう。

 鋭い目つきと、少し口ひげを生やし、全身に銀色に輝く鎧を着込むその男からは他の勇者達とはどこか違う異質な空気を感じた。


 だが動きを止めたのは何もその男が放つ異質な空気に威圧されたわけでも驚いたわけでもない。


 その男が右手に持っているヴォルグスの頭を見たからだった──

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