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29.強襲

 星の光を隠してしまうほどの無数の矢。

 その矢は空から俺達に向けて迫ってくる。


「希沙良ッ!!!」


 とっさに俺はそう叫んだ。

 希沙良はそれに反応し、自身の左腕を牙で大きく切り裂き、そこから流れ出た血を人狼族達を守るように膜状に展開した。

 それとほぼ同時に俺達の元に数百という矢の雨が降り注ぐ。


 俺は自身の感覚を全て矢を防ぐことに集中させ、ひたすら自分に迫りくる矢を叩き落とす。

 それはとてつもなく長い時間に感じられたが、終わってみればほんの一瞬の出来事であった。


 俺はゆっくりと静まり返った周囲を見渡す。

 視界に映ったのは見るに堪えない悲惨な光景。


「なんだよ……これ……」


 希沙良の作った血の盾は500人という人狼族を守るには小さすぎ、せいぜいその盾の内側に入れたのは100人程度であろう。

 そこから漏れた人狼族達は、見る限り戦士を除いてほぼ全滅。

 辛うじて息がある者も体中に矢が刺さり、もがき苦しんでいた。


「あいつら……ぶち殺してやる……」


 俺の隣でロウガは肩に刺さった矢を乱暴に引き抜き、その矢をへし折りながら憎しみを込めた口調でそう呟いた。


 しかし、敵の攻撃はそれだけでは終わらない。

 

「特殊スキル、剣神神器発動!!!」


 男の声が辺りに響き渡る。


「聖剣エクスカリバーを付属!!!」


 その声と共に俺達に向かい光り輝く光線のようなものが放たれた。

 光線は凄まじい速度で俺達の元へ届き、爆発を引き起こしてその場にいる者のほとんどを吹き飛ばす。


「次から次へと……」


 なんとかその場で踏みとどまった俺は、土煙の中で血の盾を展開したままの希沙良元へと駆け寄る。


「無事か希沙良!?」

「わたしは平気……でも人狼族達が……」


 辺りには人狼族達の死体がいくつも転がっていた。

 生き残った人狼族達も矢による傷や、光線の熱による火傷などがあり、ほとんど無傷でいるのは俺と希沙良くらいなものだった。


「希沙良、お前は生き残った人狼族達をつれて今すぐ城を目指してくれ」

「……あんたは?」

「俺はここで勇者共の相手をする」

「待ってよ、それじゃルサレクスの時と同じじゃない! あの時もあんたわたしたちが逃げる時間作るために囮になって──」

「仕方ねぇだろ!!! 今この場で無傷なのは俺とお前だけだ。それに城の場所は俺達しか知らない。はっきり言ってここで勇者共とまともに戦って時間を稼げるのは俺だけなんだよ!!!」

「でも……」

「安心しろって、別に死ぬつもりはない。やばそうならすぐに逃げるさ」


 そう、こんなところで死ぬつもりはない。

 先程の攻撃を見る限り相手はおそらく転生勇者だろうが、あの程度の攻撃ならば問題はないだろう。

 懸念すべきはディルハンブレットの存在。

 ディルハンブレットがこちらに気づく前になんとしてもここから人狼族達を逃し、自分も立ち去らなければならない。

 

「分かった……でももしあんたが死んだら絶対許さないから」


 そう言い残し希沙良は生き残った人狼族を集めに行った。

 それを見届けて俺は出発前にラミアから貰った血の入った5つの小瓶を懐から取り出した。


 何だこれ……?


 5つの小瓶の一つにはなぜかラベルが張ってあり、そこにラミアの字でこう書かれていた。


『※使用の際は必ず一口だけにすること』


 その文面を見て一瞬迷ったが、俺は他の4本の小瓶を手に取った。

 あのラミアが俺に何も言わずに危険な代物を渡したとは考えくい。

 今ここで飲んでしまっていいようなものではない、そう俺の直感が言う。


 結局そのまま手に取った4本の小瓶を一気に飲み干す。


 血が全身を駆け巡るような感覚。

 体中が熱くなり、力が自然とみなぎってくる。


 自身の力が増したのを感じ、俺はそのまま煙の中から外へと出た。

 視界に入ったのは3人の勇者。


 あいつらか……


 勇者達はこちらにまだ気付いていないようで、呑気に会話をしているようだった。


「おいおいフォルス! お前のそのスキルすげえ威力だな! なんだっけ、剣神神器ってやつ? さっきの攻撃とか最上級のレア武器並の威力じゃん!」

「いいスキルに恵まれてんなー! やっぱいくらステータスが良くても一番大事なのはスキルだよなー」


 2人の勇者に話しかけられている銀髪の一番背の低い男は無愛想に答えた。


「まぁ才能ってやつだろ。元の世界でもこっちの世界でも生まれた瞬間からそいつの価値ってのは決まってんだよ。才能に恵まれなかった奴らはせいぜい群れてばいいさ」


 その言葉に2人の勇者は怪訝な顔をしつつも、笑顔を作って言葉を返した。


「あはは、そんな無気になんなって! 楽しくやろうぜ! それにこいつら見つけられたのも俺の魔力感知が優れてるおかげだろ?」

「そうそう。こうやってディルハンブレットさんの弟子になろうって集まってる転生勇者同士の仲間じゃねーかよ!」

「くだらねぇ……」


 そう言って銀髪の男は首から下げている星型のアクセサリーのようなものに手を触れた。

 するとその星型のアクセサリーは光を放つ。

 それと同時に人狼族の死体を光が包み込み、やがてその体は光化して星型のアクセサリーへと吸収されていった。


「ほう、人狼族ってのは悪くない経験値だな」


 おそらくあれが勇者の証というやつだろう。

 魔族の強さを自動で判定し、倒した魔族の体を魔力に変換して自身の力とする勇者の必需品。

 次々と光化して消えていく人狼族達を見て俺の中にどす黒い感情がふつふつと沸き立つ。


「待てよ吸血鬼」


 3人の勇者に向けて飛びかかろうとした時、ふいに後ろから声をかけられた。

 そこに立っていたのはロウガだった。


「よかった、無事だったか。今あっちで希沙良が生き残った人狼族を集めてる。お前も早く希沙良達と一緒に──」

「おい、てめぇふざけてんのか」


 そう言ってロウガは瞳孔の開ききった瞳で俺を睨みつけた。


「ここまでされといて、死んだあいつらのボスである俺に黙って逃げろと? てめぇはそう言ってんのか?」

「お前の気持ちは分かる……だけど今のお前は怒りで冷静さをかいてる。その顔見りゃ誰だって分かるぞ。そんな状態で転生勇者なんかと戦えば──」

「なぁおい、それはいっぺんてめぇの面を鏡で見てから言ったらどうだ?」


 その言葉に俺は気づいた。

 自分もまたロウガの事をとやかく言えるような状態ではないということに。


「てめぇも同じだろうが。あいつらに好き勝手やられてよ。もう我慢の限界なんてとっくに越えて腸煮えくり返ってんだよ」


 その通りだった。

 希沙良や人狼族を逃がすため、俺達を命を懸けて逃してくれたヴォルグスのため、死んでいった人狼族達のため。

 今ここで戦う理由はいくらでもあった。


 だが今俺が勇者共に飛びかかろうとした理由はそれだけじゃない。


「……悪かったロウガ……お前の言う通りだ」


 ここにきて初めて俺とロウガの考えは重なった。


「おい吸血鬼。てめぇ名前はなんつった?」

「……乃々上 怜司だ」

「そうか……いくぞレイジ、足引っ張んじゃねぇぞ」

「そいつはこっちのセリフだ」


 俺は背中から大きな黒い翼を出し、爪を尖らせる。

 ロウガは牙を剥き出しにし、全身の黒い毛を逆立たせる。


 そして俺達は今この場で共通している目的を同時に口に出した。

 

「「ぶち殺す!!!」」

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