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28.人狼族の力

 ヴォルグスを残し、俺達は洞窟の奥へ奥へと走り続けていた。


「なぁロウガ、この洞窟はどこに繋がってるんだ?」

「南の端、つまりあの炎とは逆側の森の中だ。洞窟さえ抜けりゃこの森から逃げ出すことは簡単なはずさ」


 俺の質問にロウガはめんどくさそうに答える。


「それよりもてめぇらはさっさと逃げたらどうだ? この洞窟は地面からそんなに深いところにあるわけじゃねぇ。てめぇらならこの洞窟突き破って空飛んで勝手に逃げられるだろ」

「……あいにく俺は自分の部下を見捨てる気はないんでね」

「ハッ、そうかい。勝手にほざいてな」


 相変わらずの態度のロウガだが先程の殺気に満ちた態度とはどこか違う。

 緊張、焦り、そんな様子が伺えた。


 しばらく走り続けると遠くに微かな光が見えてきた。

 どうやらそこが洞窟の終わりらしい。


「もうすぐだな、大丈夫か希沙良?」

「どうってことないわ。それより本当に無事に森から抜け出せるのかが問題ね」

「……そうだな」


 森から出ようとすれば炎結界魔法が発動する──


 先程拷問した勇者が残した言葉を信じるならば、トラップのような形で森を囲うようにその魔法が仕掛けられているはずだ。

 足を踏み入れればその魔法が発動し、強力な炎魔法が発動する。


「なぁ、本当に大丈夫なのか?」


 俺はロウガに尋ねる。

 ここに来るまでの道中で魔法のトラップがある可能性はロウガに話してある。

 だがロウガはそれを聞き、ただ「大丈夫だ」と一言だけ言った。


「しつけぇな、俺が大丈夫っつったら大丈夫なんだよ」


 最悪の場合は、魔法の範囲外であろう上空を経由して俺と希沙良が皆を逃がすしかない。

 だが500人全員をその方法で森の外へ出すのはほぼ不可能といっていいだろう。


 今はロウガの言葉を信じるほかないか……


 やがて俺達は薄暗い洞窟から外へと出た。

 振り向くと北側の森は相変わらず炎に包まれている。


「野郎共!!! このまま一気に森を抜けるぞ!!!」


 人狼族500人を引き連れ走るロウガはさらにその足を速める。

 木々の間を素早い動きで走り去っていく人狼族。


「凄い速さだな……ついていくのが精一杯だ……」

「獣型の魔族の長所はこの俊敏な動きじゃからのう、しかしこの動きについていけておるだけでも当主様も姫様も充分凄いですぞ」


 息を切らしながら走る希沙良の胸元から顔を出すチュータがそう答える。

 

「だけどこの速度なら他の勇者に見つかる前に森を抜けれそうね……後は魔法のトラップさえクリアできれば……」


 それからしばらく森の中を走り続けたところで、突如人狼族の群れはその場で動きを止めた。


 なんだ、先頭で何かあったのか……?


 俺は先に走り去って行ったロウガの元へと急いで駆けつける。


「おいロウガ!!! どうしたんだ急に!!!」


 一瞬先頭のロウガ達が勇者と遭遇したのかと思ったが、どうやらそれは違ったようで、ロウガは4足歩行で地面に顔を近づけ尖った鼻をスンスンと動かしていた。


「ここだな……」

「ここ?」

「ここからこの森を囲むように魔法陣が見えないよう設置されてやがる……これは炎系の魔法……多分向こうの森を燃やしてる炎と同種の魔法だな……」

「分かるのか?」

「俺の鼻を舐めんじゃねぇ。この魔法は魔族が上を通った瞬間に作動する設置型の炎魔法……しかも相当高等な魔法だな……並の魔族じゃ一瞬で焼かれて灰になっちまうようなもんだ。しかもそれをこの森全体を囲むように設置するなんざまともな人間じゃできねぇ……おそらくあのディルハンブレットとかいう奴が仕掛けたもんだな……」

「すごいな……匂いだけでそこまで分かるのか……」


 ただ匂いを嗅いだだけで魔法の種類、範囲、威力までも把握してしまうロウガに思わず関心してしまう。


「おいてめぇら!!! 少し下がってろ!!!」

「一体何を──」

「フン、てめぇは黙ってそこで見てな」


 ロウガは近くにいた人狼族達を自分から遠ざけると、自身の両手を足元の地面へと突き立てた。

 その瞬間、突如地面に赤い光を放つ魔法文字が浮かび上がり、その魔法文字の一つ一つが炎へと変わっていく。

 その光景を俺の視界はまるでスローモーションのように捉えていた。


 森の遥か先まで伸びた魔法文字が一斉に炎に変わった事により、真っ暗だった森の中は一瞬で明るみを帯び、肌は僅かに熱を感じた。

 そして次の瞬間には強大な炎がこの一帯を焼き尽くす事を確信する。


「逃げ──」


 そう口に出したところで、俺の耳にバリンッというガラスが割れたような音が届いた。

 しかもそれは一度ではなく、連続して聞こえてくる。

 その音の出処が炎に変わった魔法文字だと気付いた頃には炎は消えさり、両腕の毛を少し焦がしながら大きく息を吐くロウガがこちらを見て大きく裂けた口を歪ましていた。


「何こんなもんでビビってんだよ魔王様?」

「一体今何を……」


 唖然とする俺を面白そうに見ながらロウガは喋りだす。


「簡単な事さ、設置されてた魔法をこの俺が壊した、ただそれだけさ」

「壊した……だと? 一体どうやって──」

「いちいちてめぇに説明してる時間はねぇんだよ。とにかくもう森を囲う魔法はねぇ」


 そう言ってロウガは人狼族を引き連れ走り出した。

 俺は疑問を残したまま仕方なくそれについていく。


「驚きやしたか吸血鬼の旦那」


 そう話しかけてきたのは最初に出会った人狼族のテスラだった。


「一体ロウガはどうやってあの魔法を壊したんだ?」

「へへ、旦那も知ってるでしょ? 人狼族ってのは魔族の中でも対魔力に特別優れた一族だってのは」


 確かに人狼族の対魔力が比較的に高いというのは知っていた。

 しかし対魔力というのはあくまでも魔法に対する防御スキルのようなものであり、魔法事体を破壊するというのは聞いたこともない。


「お頭の対魔力はその中でもさらに特別、お頭には生半可な魔法通じない。発動前の魔法陣くらいお頭なら簡単に壊せちまうんですよ」

「なんていうか……すげえな……」


 ルサレクスでの勇者との戦いで俺も自身の対魔力が高いことは分かっていた。

 しかしそれでも先程の魔法をまともにくらえば無傷とはいかなかっただろう。

 さらにその魔法陣を壊すなんてことは到底できそうない。


「これが人狼族の長、ロウガの力か……」


 炎結界魔法をロウガの力で無事回避した俺達は森の中をひたすら走る。

 そしてやがて暗い森の先に光が見えてきた。


「出口か!」

「良かった、なんとか無事に森からは脱出できそう」


 多数の勇者がいる森の出口、それを見つけて安堵する俺と希沙良。

 ロウガを先頭に次々と人狼族達は森を抜けていく。

 森を抜けて視界が広がると、そこには広大な草原が広がっていた。


 全員が森から出たところで俺はロウガに話しかける。


「なぁロウガ」

「あぁ?」

「この先行く宛がないなら俺の城まで来ないか? この調子で走り続けたって危険なのはあの森の中とそう変わらないだろ? なら一先ず俺の城に来いよ」

「……」


 俺の提案に黙るロウガ。


「お前が俺達吸血鬼の世話になりたくないってのは分かるが、今はそうも言ってられないだろ。この大群を引き連れて勇者に見つからずに逃げ続けるのが厳しいってのはお前も分かってるはずだ。それにここだけじゃない、いずれ他の場所からも勇者がお前達を討伐しに来るかもしれない。だったら──」

「あぁもういちいち言われなくても分かってんだよ!!! さっさと案内しやがれ吸血鬼!!!」

「決まりだな」


 ロウガの心境としては俺達の世話になどなりたくないというのが本音だろう。

 だが今はロウガだけではない、人狼族500人の命が懸かっている。


「ここに来るまでに上空から比較的安全に城に戻れる道を希沙良と一緒に模索してきた。人狼族の足なら朝までには着けるはずだ」


 後は全力で城まで戻るだけ。

 ロウガ達を仲間に引き入れるのはまだ少し時間が掛かりそうだが、それは城に戻ってから根気強く説得すればいい。

 一先ず目の前の脅威から逃げ切れたことに俺は安堵した。


 次の瞬間までは──


「お頭ァ!!! 空を見てくだせい!!!」


 テスラの叫びに俺とロウガは同時に空を見上げ、驚愕する。

 そこにあったのは夜空を覆い尽くすほどの矢の雨だった。

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