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3.古城の吸血鬼

 俺はラミアに連れられ、広大な森の中にひっそりと佇む巨大な城の前に立っていた。

 10メートルほどある城壁に囲まれたその城は2つの塔と館に分かれており、城全体の大きさは見たところ高等学校が丸ごと1つ入るくらいだろうか。

 あまりに立派なその外観に驚いたが、俺にはもう一つ気になることがあった。

 それはこの城が立っている場所。


 遠くの空はまだ日が明るいにも関わらず、この城の周辺だけはやけに暗い。

 空は黒い雲に覆われて光は一切入らず、森の中ということもあってやけに不気味だ。


 それに立派な城というのは分かるのだが、城壁も塔も館も至る所にツタが巻き付いており、その外観の不気味さをより際立たせている。


「さぁご主人様、中に入りましょう」


 ラミアは俺の手を引きながら開けっ放しの城門から中へと入っていった。

 中に入るとそこには庭園らしきものがあったが、手入れが行き届いていないのか植物は全て枯れ果てており、どことなく寂しさを感じさせる。


 館の前に来ると、ラミアはその扉を開けた。

 扉はギギギと音を立てて開き、少しホコリくさい風が中から吹いた。


「少々散らかっておりますがここがご主人様の城でございます」


 館の中は少々散らかっているなんてレベルではなかった。

 床は埃だらけで、至る所に蜘蛛の巣が張られており、木製の家具はほとんど全てが朽ちかけ、ツタが窓を突き破って中にまで入ってきている。


「一体どんだけ掃除しなかったらこうなんだよ……」

「も、申し訳ございませんご主人様……ここに住む使用人は今は私ひとりのため中々掃除をすることができず……」

「あ、いや、そういう意味で言ったんじゃないって!」


 俺の言葉に突然目に涙を浮かべたラミアを俺は必死でフォローした。

 どうにも調子が狂う。

 目の前の可愛い女の子は吸血鬼で、しかもついさっき町をまるごと一つ消し去って笑顔を浮かべた化物なのだ。

 なのになぜ俺の発言でそんなに悲しそうな顔をする……


「と、とりあえず今何がどうなってんのか教えてくれよ!」

「は、はい……」


 ラミアは涙声でそう言うと服の袖で自分の目元を拭い、話を始めた。

 その内容はついこの間までの俺なら決して信じなかったものであった。


 この世界は人間、魔族、獣人、エルフの4つの種族が存在しており、人間と魔族は古来から今に至るまで争いを続けているらしい。

 人間は勇者と呼ばれる者達を、魔族は6大魔王と呼ばれる6人の魔王を筆頭にその争いは年々激しさを増していて、最近では人間側に強力な力を持った勇者が増え、魔族側がやや不利な状況となっているとのことであった。


「人間と魔族の争いか……まぁ確認する必要もないんだが俺達は魔族側ってことでいいんだよな?」

「もちろんでございます! ご主人様は魔族の中でも6大魔王の一人ヴァンパイアロード様なのですから!」

「だよなぁ、やっぱ俺人間じゃないんだよな……ん?」


 自分が人間ではなくなったという事実をあらためて確認したことで少しばかりショックを受けたが、それよりも今ラミアはなんて言った?


「えっと、聞き違いかもしれないが今俺を6大魔王の一人とか言わなかったか?」

「はい! ご主人様は魔族を治める6人の魔王の一人、ヴァンパイアロード様です!」


 目を輝かせて俺を見つめるラミア。


 俺が魔王?

 ただの高校生だったこの俺が?


「この城の前当主様であった先代ヴァンパイアロード様が勇者に討ち取られてから早15年、私はここでずっとご主人様を待ち続けていたのです!」

「ずっと待っていた? ラミアは俺がここに来ることを知っていたのか?」

「はい……それが母上が私に最後に言い残した言葉ですから」


 そう言って少し悲しげな表情を見せるラミア。


「話がいまいち掴めないな。どうしてラミアは俺の事を?」


 俺の質問にラミアは顔を上げて話し始めた。

 吸血鬼という種族についてを。


「15年前に先代様が勇者に殺され、私達吸血鬼の一族はまだ幼かった私を除いて人間共の手によって滅ぼされました。その時に母上が私にこう言い残したのです。近い将来、別の世界から我々吸血鬼の一族を救ってくださる2代目ヴァンパイアロード様がこの世界へやってきます。あなたはその方と共に勇者を滅ぼし、一族の復興を成し遂げるのですと」

「それが……俺ってわけか……」

「はい、なので私はあの町に別の世界から来たと言い張る吸血鬼が現れたとの噂を聞いて、ご主人様を助けに向かったのです」


 仮にラミアの今の話が事実ならば俺はこの世界に偶然来てしまったというわけではなさそうだ。

 しかしどうにも引っかかる。

 どうして俺の事をラミアの母親は知っていたのだろうか?


「助けてくれたことには本当に感謝してる。それでラミアのお母さんは俺の事で他になにか言ってたりはしてなかったか?」

「はい。母上が私に言い残したのはそれだけでした……」

「そうか……ならその先代ヴァンパイアロードって人はどんな人だったんだ?」


 ラミアの母親が俺の事を何か知っていたなら、その主人であった先代ヴァンパイアロードも何か知っているのではないかと思っての質問だったのだが、ラミアは申し訳無さそうに口を開いた。


「度々申し訳ございません。実は先代様が存命だった頃はまだ私も幼かったため、あまり記憶がないのです」

「そうか、なら仕方ないな」


 困ったな。

 俺がここに来ることを知っていた人達の事が分かれば、元の世界に帰る方法なんかも色々掴めるかと思ったんだが……


「ご主人様、よろしければ書庫に行きませんか? 先代様に関する文献は数多く存在いたしますので」

「ほんとか!? それじゃあさっそく案内してくれ!」

「はい!」


 元気よく返事をするラミアを見て思わず俺も笑顔になってしまう。

 この世界に来ていいことはなかったが、ラミアと会えて本当によかった……


 しかしなんだろうか。

 何か大切な事を忘れている気がする。

 簡単に忘れられるような事ではなかった気がするんだが……

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