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27.最強の勇者

 ヴォルグスと名乗る人狼族の老狼は、俺達の前に4本の足を折りたたんで地面に腹を当てるように伏せた。

 今にも倒れてしまいそうなほど弱っているのはその佇まいから分かるのだが、ヴォルグスが放つ威圧はあの魔王達を思い出させる。


「先程は息子がすまんかったな2代目よ。あやつも本気でお前さんが憎いわけじゃないんじゃ。まだ未熟ゆえに自分の間違いを認められずにいる、ただそれだけなんじゃ」

「いえ、俺が言うのもなんですけどあなた達人狼族が先代を恨むのも当然だと思いますし」

「フォフォフォ、面白いことを言うのう。お前さんはさっき自分には関係のないことだと言っていたような気もするが」

「そうですね……正直言えばもうウンザリなんですよ。ネリガルもスレイスもロウガも先代先代って……俺は俺で先代とは違うって言いたかったんです。まぁ結果があのザマですけど」


 そう、俺は先代ヴァンパイアロードではない。

 ノノウエ レイジなのだ。

 どれだけ先代がすごかろうと、どれだけ恨まれていようと今ここにいるヴァンパイアロードは俺1人だ。


「なるほどのう。確かに先代様は良くも悪くも誰もがその存在に一目置く人物じゃったからの」

「えーと、ヴォルグスさんは先代を知っていたんですよね」

「ふむ。もちろんよく知っておるが……」

「よければ先代について知っていること教えてもらえないでしょうか?」


 先代ヴァンパイアロード。

 城の文献にはその活躍は書かれていてもどんな人物だったのかまでは記載されていなかった。

 俺はただ先代ヴァンパイアロードという人物についてを知りたかった。

 

「先代様について……? フム……2代目は先代様のどんなことについて知りたいのかの?」

「全てです」

「全て……か。それはつまり始まりから終わりまでという意味でよいのじゃな?」

「はい」

「よかろう。この老いぼれが話せる範囲でなら全てを話そう」


 そう言ってヴォルグスはどこか遠い目をしながら語りだした。

 

「今から200年程前かのう……あの頃儂ら一族はまだ獣人族に属していた」

「獣人族に?」

「そうじゃ。儂は獣人族の魔王様に使える身であった。あまり良い関係とはいかんかったがのう」


 なるほど。

 人狼族は獣人族から分離した種族ということか……


「獣人族の先代魔王様はとにかく好戦的で、常に人間共と戦争をしていた。仲間の犠牲を顧みず、ただ己の欲望のままに戦う魔王様に儂はもちろん、他の種族も飽き飽きしておったよ。そんな時じゃ、先代様と出会ったのは。先代様はその圧倒的な力で当時の獣人族の魔王を下し、儂らに問うた。自分に従うかこの場で死ぬかと。もちろん一部を除いて獣人族の誰一人その言葉に耳を貸さなかった。どんなに気に食わなかろうと自分達の主を裏切るような真似はしたくなかったのじゃ。まぁ結局先代様はその者等を殺すようなことはせんかったがの」

「つまりその一部というのは……」

「そうじゃ。儂ら人狼族は当時の主を裏切って先代様についていった」

「どうしてですか?」

「ふむ……どうしてかと問われればそうじゃの、強いて言うなら単純に先代様に惹かれたのじゃ。圧倒的な力を持っていた先代様じゃったが、その表情は常にどこか淋しげでのう……力を振るう先代様の心はいつもここではないどこかを見ていたようにも感じた」


 そう語るヴォルグスの表情も又、どこか淋しげであった。


「それから先代様は当時の魔王の部下、そしてどこにも属していない魔族を集め、経った数年で人間からもっとも恐れられた魔族軍、闇の軍勢を作り上げたのじゃ。あの頃は楽しかったぞ。人間共の町や村を手当たり次第に襲い、向かってくる勇者共を次々に殺し回った。あれほど心躍った事はなかったのう」


 そう言ってフォフォフォと笑うヴォルグス。


「しかしのう、お前さんも知っての通りそれも長くは続かんかった。今から15年前、先代様は勇者に討ち取られ、闇の軍勢は解体された」

「あの……ヴォルグスさんの話だと先代は当時の魔王をも凌ぐ力を持っていたということですよね? それほど強かった先代は一体どうして勇者なんかに殺されたんでしょうか? 文献によれば1000人の勇者と10万の人間兵によって討ち取られたとは書かれていましたが」


 俺が読んだ文献には先代の力に対抗するために勇者達がかつてないほどの大規模なパーティを組み、兵や騎士を連れて闇の軍勢と戦ったと書かれていた。

 その戦いはアッシュフェル山脈の戦いと呼ばれ、戦いの舞台となったアッシュフェル山脈は戦いのあった7日間の間に魔族と人間の血によって真っ赤に染まったと言う。


「そうじゃのう、それは半分真実で半分はでまかせじゃ」

「どういうことです……?」

「戦いがあったのは事実じゃ……しかしの、先代様は1000人の勇者でも10万の人間兵によって殺されたわけではない」

「え──」

「先代様を討ち取ったのは1人の勇者……それも当時10代半ばの子供の勇者じゃ」


 その言葉に俺は思わず言葉を失った。


 先代を、魔王ヴァンパイアロードを討ち取ったのが子供だと……


「その者の現在の名はクロノス・アナザクト」

「クロノス……アナザクト……ま、待ってください。その名前は──」

「そう、魔王とも渡り合えると言われている4大英雄、クロノスはその1人じゃ」


 ヴォルグスから聞かされた話はにわかには信じられないものであった。


「まぁ信じられんじゃろう。儂だって最初は信じられんかったよ。しかしのう、アレを見ればお前さんにも分かる。正直なところアレを倒せるビジョンが儂には浮かばん……お前さんも気をつけることじゃ。勇者を滅ぼすというのであればいずれアレはお前さんの前にも立ち塞がるじゃろうからな」


 俺は勇者というのをまだ甘く見ていたのかもしれない。

 転生勇者ばかりに気を取られていたが、そもそも勇者は転生勇者が来る前から魔族と戦ってきたのだ。


「さてと、そろそろ時間もなくなってきたかの」

「時間?」

「そうじゃ。もう少しお前さんと語りたかったがそれもここまでのようじゃ」

「ま、待ってください! まだ聞きたいことがたくさん──」


 俺は話を終わらせようとするヴォルグスに叫んだ。

 まだ何も分かっていない。

 自分がこの世界にきた理由や吸血鬼として生まれ変わったこと。

 先代の事をもっと詳しく聞ければその謎ももう少し分かるような気がしたのだ。

 しかし、俺の叫びは突如頭上から鳴り響いた轟音によって掻き消された。


「なっ──!?」

「きたか……」


 洞窟内に鳴り響く音と振動によってパラパラと土の欠片が地面へと落ちていく。


「大変でっせ大親分!!! 勇者が大勢来やした!!!」


 声を響かせながら走ってきたのは俺達をここに案内してくれたテスラだった。


「なぁお前さん。少し頼みごとをされてくれんかのう」

「頼みごと?」

「ロウガ達をつれてここから逃げてくれんか?」

「……あなたは?」

「儂はいい。どうせ逃げ切る体力などこの老体には残っておらんからのう。少しでもこの場で勇者達の足止めをさせてもらうよ」

「なっ──それはできません! 俺も一緒に戦います! 勇者くらい俺なら──」

「だめじゃ。確かにお前さんは力はあるようじゃがまだまだ経験も知識も足りんように見える。それに匂いからしておそらくクロノスと同じ4大英雄の一人ディルハンブレットもここに来ておる。それでは流石に相手も悪い。例え勇者を撃退できたとしても、全員が無事にというわけにはいかんじゃろう」


 そのヴォルグスの言葉に俺は言い返すことができなかった。

 果たして今の自分の力で希沙良やチュータ、それに人狼族を守りながらまともに戦えるだろうか。


「ディルハンブレットはお前さんが想像している以上に厄介な敵じゃ。相手にするにはお前さんもロウガ達もまだ早すぎる。なぁに心配はいらんよ。老体とはいえこれでも昔は巨狼ヴォルグスと恐れられた魔族の戦士。お前さんらが逃げる時間稼ぎくらいはできるじゃろう」

 

 有無を言わせないヴォルグスの態度に俺はただ頷くことしかできなかった。

 それを見てヴォルグスはロウガ達を呼び出し、自分が時間を稼ぐ間に俺と一緒にこの森から逃げ出すよう伝えた。

 もちろんロウガは自分も残って戦うと言ったが、次のヴォルグスの言葉で渋々それを承諾した。


「ロウガよ、お前はもうこの人狼族500人の長。自分の感情だけでなく一族の未来を考え行動しろ。それにここにはろくに戦うこともできない女子供もおる。一族の長としての役目は今ここで勇者を殲滅することではなく、一族を守ることじゃ。行け我が愛しい息子よ、生きて一族を守れ」


 ロウガはヴォルグスの言葉を聞き、少し沈黙すると、心配そうな表情の人狼族達に向け叫んだ。


「……行くぞ野郎共ォ!!! 俺達は必ず生きてこの森を出る!!!」


 ロウガはそのまま500人の人狼族を率いて洞窟の奥へと走り出した。


「2代目ヴァンパイアロードよ、一族を頼むぞ」


 ヴォルグスの言葉に俺は力強く頷き、ロウガ達の後を追った。

 必ず人狼族を生きて森から脱出させる、そう強く決意をして──

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