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25.人狼族のお頭

「本当にここに人狼族がいるのか……?」


 俺達の目の前にあるのは切り立った巨大な岩山だった。

 森の中にあるその岩山には洞窟などの入り口があるようには見えず、本当にただの巨大な岩の塊である。


「匂いがここで途切れているのでそのはずなのですが……うーむ」


 腕を組んで首を傾げるチュータ。

 別にチュータの嗅覚を信じていないわけではないが、ここに人狼族がいるとは到底思えない。

 一応3人で岩山の周辺を調べてみたが何の手がかりも得られなかった。


 俺達をここに誘き出すための人間の罠か?

 そんなことを思い始めた時だった。


「おい……てめぇらさっきからそこで何をしてる?」


 高圧的な男の声が俺達に問いかけてきた。


「──なっ! 誰だ!?」

「そいつはこっちのセリフだ、見たところ魔族みたいだがなんでこんなところにいやがる」


 その問いかけに答えることを俺は一瞬躊躇したが、俺達の敵ならわざわざ質問などせず襲ってくるはずだと思い、正直に答えることにした。


「俺は6大魔王の一人ヴァンパイアロードだ。ここにはかつての闇の軍勢に所属していた人狼族に会いに来た!」


 俺の言葉に少し間を置いてから声の主は「少し待ってな」と言った。


「ねぇ、今の声あの岩山の中から聞こえたような気がしたんだけど……」

「あぁ……もしかするとこの岩山が人狼族の住処なのかもしれないな」


 言われた通りその場で待つ事数分、先程の声が再び岩山の中から発せられた。


「今から入り口を開く……人間に見つかる前にさっさと入りな」


 その声と共に俺達の目の前の岩山の一部がスライド式の扉のようにズズズと音を立てて開いた。

 中から現れたのは銀色の狼をそのまま二足歩行にしたような身長2メートルほどの魔族だった。

 衣服は薄汚れた短パンを履いているだけで、全身の毛には土汚れのようなものが見える。


「急げ」


 魔族は俺達に手招きをしてから奥へと進んでいった。

 俺達はそれに従い岩山の中へと入っていく。

 最後尾の希沙良が岩山の中に入ったところで、扉は先程と同じように音を立てて閉まった。


「ここは……」


 岩山の中は一本の道で、洞窟のようになっていた。

 先程の声の主は手に持っていた松明に火を付け、俺達の方を振り返った。


「俺の名前はテスラだ。そしてここは俺達人狼族の隠れ家。今からお前達をお頭に会わせるからこのまま俺について来い」

「分かった。だがその前に質問してもいいか?」

「駄目だ。質問ならお頭にしろ」


 そう言ってテスラと名乗る人狼族の男は歩き出した。

 どうもそのお頭とやらに合わないかぎりはまともに話もできないらしい。


 仕方なく俺達はテスラの後についていくことにした。



 ◇

 


 俺達が歩いていた道は下へ下へと続いており、体感的に地下に潜っていっているような感覚だった。

 そして5分ほど歩いた頃、今まで歩いてきた狭い道よりも遥かに開けた場所へと出た。

 ドーム状に広がるその場所には壁の至るとこに松明が設置されており、テスラと同じような見た目の人狼族が多くいる。

 人狼族達は俺達が姿を表すとそのほぼ全員が鋭い眼光で俺達を睨みつけた。


「お頭!!! さっき話した奴らを連れて来やしたぜ!!!」


 テスラがそう叫ぶと、人狼族達を掻き分けるように黒い毛に覆われた人狼族が俺達に向かって歩いてきた。

 身体は他の人狼族達よりも遥かに大きく、3メートルはあるように見える。

 服装は黒い布のズボンと皮のブーツを履いているだけで、上半身は他の人狼族同様に何も着ていない。

 左肩の辺りから右脇腹辺りにかけて切り傷のような古傷があり、右目には黒の眼帯をつけていた。


「ご苦労だったなテスラ、持ち場に戻っていいぜ」

「了解しやしたお頭!」


 テスラはそのまま俺達が歩いてきた道を戻っていく。


「さてと、てめぇが噂の2代目って奴か」


 お頭と呼ばれる男は俺に顔を近づけ、威嚇するように喉をグルルと唸らせた。


「名前はなんてぇんだ?」


 その質問に俺は素直に答えようとして思いとどまった。

 俺がここに来た理由。

 それは人狼族を仲間にするためだ。

 だったらここは最初から魔王として強気でいくべき。

 魔王会議での失敗を反省して俺は強めの口調で質問に答えた。


「……人に名前聞くときは自分から名乗れよ」


 俺の言葉にその場の空気が凍ったように静まり返る。

 そんな中、お頭と呼ばれる男はニヤリと裂けた口を歪まし笑った。


「確かにてめぇの言う通りだ。一族を代表するからにはそれなりの礼儀ってやつを見せねぇとな! 俺の名前はロウガ=ウォル=ハウンド、人狼族総勢500人のボスだ」

「……俺は乃々上 怜司、吸血鬼の現当主にして6大魔王の一人ヴァンパイアロードだ」

「ノノエウ レイジ? ハハッ、変てこな名前だな! そんでその魔王様がこの俺に何の用だ?」

「率直に言う。俺達の仲間になれ」


 俺の発言を聞いてロウガの顔から笑みが消えた。


「もちろん無条件に配下になれって言ってるんじゃない。ここに来るまでに今お前達が置かれてる状況は大方把握した。4大英雄の一人ディルハンブレットと勇者達、そいつらにお前達は狙われてるんだろ? だから俺達がこの状況を脱するために力を貸してやる。その代わりにお前も俺に力を貸せって事だ」

「ほう……」

「お前も今6大魔王達が勇者を撲滅するために動き出してるのは知ってるだろ? 俺も同じだ。俺はかつての闇の軍勢を再建させるために仲間を探してる。だから以前のようにまた吸血鬼と一緒にお前達人狼族に戦って欲しいんだ」

「なるほどなぁ……昔のように俺達人狼族を自分たちの勢力に加えようってわけか……」

「そうだ」


 この時点で俺は不安を抱いていた。

 先代ヴァンパイアロードの率いていた闇の軍勢。

 そしてその闇の軍勢の中枢を担っていた種族の1つである人狼族。

 文献によれば人狼族は気高き魔族の戦士であり、先代ヴァンパイアロードの従順なる部下として勇者共を相手に戦ったとされていたが、目の前のロウガという男は気高き戦士にも従順な部下になるとも思えない。


 ──以前仲間だったからこそ色々思うことがあるかも知れない


 この森に来る前に希沙良が言っていた事がふと頭をよぎった。


「俺達にそんな事を言うって事はあの噂も本当だったわけだ」

「あの噂?」

「なに、大した事じゃねぇよ。ただてめぇは前のヴァンパイアロードについて何も知らねぇってことだ」


 先代ヴァンパイアロードのこと?


「ハッキリ言わせてもらうぜ。てめぇが本気で俺達人狼族の力を借りたいならこの場で死ね」

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