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24.妹の胸元にある小さな家

「転生勇者が3人に普通の勇者が21人、それにエルフが1人か……結構な数がいるな」

「今もその数かは分からないけどね。こいつらみたいに魔族に返り討ちにあってる勇者もいるだろうし」


 希沙良は足元に転がる茶髪の勇者の首を見てそう言う。


「確かにそうだな。まぁどっちにしろこの森に多くの人間がいることは確かだ。それにあのディルハンブレットもいるかもしれない」


 4大英雄の一人ディルハンブレット、もしも運悪く遭遇してしまえば戦闘は避けられない。

 ディルハンブレットの実力が噂通りなら俺も希沙良もただでは済まないだろう。


 この森で何が起こっているのかを大方把握した俺達はその場から森の奥へと進むことにした。

 先程の拷問での勇者の叫び声は恐らく他の勇者達にも聞かれていただろう。

 ならばこの場所に来るのは時間の問題である。

 今は勇者の相手をするよりも人狼族の捜索が最優先だ。



 ◇



「ねぇ、あんたエルフについて何か知ってる?」


 森の中を歩いていると希沙良が俺に尋ねてきた。


「いや、詳しい事はあんまりだな。知ってることと言えば人間の味方だってことと数が少ないってことくらいだ。そういうお前はどうなんだ?」

「わたしも詳しい事は知らないわね。ただ、エルフの実力は転生勇者を凌ぐと言われてるわ」

「転生勇者を凌ぐか……確かにさっきの攻撃を考えればそうかもな」


 空中で俺達を襲った光の矢。

 さっきの勇者達の会話から察するにあれはエルフによる攻撃だったのだろう。

 

 人間、魔族、獣人、エルフ、この4大種族の中でももっとも数の少ないエルフ。

 古来から人間はエルフを、魔族は獣人を仲間につけて争いを繰り広げているが、エルフに関する文献は極めて少ない。

 理由としては、エルフは表立って俺達魔族に敵対するのではなく、影から人間を守るようなサポート的な立ち位置に徹底しているからだ。


「しかしそんなエルフがこうして大英雄様の弟子になるためにここにいるってことは、人間側も相当焦ってるみたいだな」

「そりゃあ6人の魔王が一斉に動き出したなら焦りもするでしょ」

「違いねぇ、でも元を正せば人間側に転生勇者や教会なんてのが出てきたから魔王達が動き出したんだぜ」


 まだ詳しい戦況は俺の耳には届いていないが、俺の他の5人の魔王はそれぞれ町や村を襲って教会を潰し始めているらしい。

 俺と違って多くの兵力を持つ他の魔王達はすぐにそういった行動を起こせるので羨ましい限りだ。

 

「あんたはもしも人狼族を仲間に出来たらその後はどうするつもりなの?」

「そうだな……城の防御も固めないといけないが、とりあえずは実践練習の意味も込めて小さい村の教会でも襲ってみるつもりだ」

「へえ、やっと本格的に人間に喧嘩売るってわけね」


 少し嬉しそうに微笑む希沙良。


 こいつこの世界に来てから随分と好戦的な性格になったな。

 いや、元々そういう性格だったのか……


「まぁルサレクスの一件で人間側からすればとっくに俺達は喧嘩売ってるって事になってんだけどな。あそこの町ほぼ壊滅状態だろ?」

「あぁ、そういえばそうだったわね……」


 2000人以上の死者を出したルサレクスの大虐殺。

 俺がこの世界に転移した最初の町も同じくらいの死者を出しているが、あれは目撃者が全員死んでしまったので吸血鬼がやったという噂程度にしかなっていない。

 ルサレクスに関しては奴隷達や俺達が暴れたせいで今も復興の目処は立っておらず、他の町の奴隷商人達も次々と奴隷商人を引退しているようだった。


「それはそうとさっきから闇雲に歩いてるみたいだけど、何か考えとかあるわけ?」

「いいや、別に」

「別にって……もっとこうさっきみたいに五感の力を使うとかないわけ?」

「いや、さっきみたいに五感に頼るのはなるべく動かないで集中しないといけないんだよ。俺達の居場所が感づかれた状態でその場にずっといるのは危険かなーと……というかそう言うお前こそなんかいい考えとかないのかよ」

「んー……ない!」

「そんな自身満々に断言すんなよな……」


 そのうちどっかで戦闘が始まるのを待つしかないか……

 そんな事を思いながら歩いている時だった。

 突然希沙良の胸元から声が聞こえていた。


「フフフ、ついにわしの出番のようですのう」

「「──!?」」

 

 その声に驚いたのは俺だけでなく、希沙良も同じだった。

 希沙良は自身の胸元に手を入れると、そこから灰色の小さな生き物を取り出した。

 それは三つ目ネズミのチュータだった。


「えーと……どうしてチュータがここにいるわけ?」

 

 希沙良はチュータの尻尾を掴みながら自分の目の前に移動させると、訝しそうな顔でチュータに質問した。


「それはもちろん姫様をお守りするためでございます」

「……」


 なんのためらいもなくあっさりとその質問に答えるチュータ。


「な、なぁ……お前ずっとそこにいたのか?」

「はい。ただ恥ずかしながら生まれて初めての空中飛行というものに少々腰を抜かしてしまい、今の今まで気絶しておりましたが……」

「そ、そうか……お前今まで気づかなかったのか?」


 そう希沙良に質問してみる。


「全然……少し胸の辺りが重いなって思ったけど、なんか異世界のパワー的なので成長が早くなったのかなって……」


 いや、気づけよ!!!


「そ、それに今気づいたんだけどこれ見て」


 そう言うと希沙良は自身の服の胸元に人差し指を手をかけ、裏地を俺に見せるようにした。

 それを見て俺はあることに気づく。


「なるほど……これはひどいな……」

「でしょ? いつの間にこんな……」

「お前小学生の頃から全く成長してないんじゃないか?」

「──なっ」


 みるみるうちに希沙良の顔が赤く染まっていく。

 しかし見れば見るほどひどい。

 ラミアを山と例えるなら希沙良のこれは平野であろう。


「同情するぜ……でもせめてブラジャーくらいは──」

「む、胸の話じゃないわよ!!!」


 赤面したまま叫ぶ希沙良。


「ここよここ!!!」


 そう言って希沙良が指指した場所にはカンガルーの袋を思わせるような小さなポケットがあった。

 

「なんだこれ?」

「フフフ、それはわしがラミア殿に頼んで作ってもらったわしの姫様護衛待機所でございます」


 空中で宙ぶらりんになりながらもドヤ顔で喋るチュータ。

 希沙良の顔はすでに引きつっている。


「わしの役目は三つ目ネズミ族の長として姫様を常にお守りすること。なので今回もこうしてお供させていただきました」

「へえ、でも今の今まで気絶してたのよね? その待機所とやらで」

「そ、それは申し訳ございません姫様……しかしこのチュータ! 今こそ役に立ってご覧に入れましょうぞ!」


 チュータは地面に降りると、小さな鼻をしばらくの間スンスンと動かして振り返った。


「人狼族の居場所……見つけましたぞ」

「ほ、ほんとか!?」

「もちろんです。わしら三つ目ネズミの鼻をあまりナメないでくだされ」


 親指をグッと立ててほくそ笑むチュータは「わしに着いて来てくだされ」と言って俺達の前を歩き出した。


「いやぁ、助かったな。三つ目ネズミってのは本当に器用だ」

「そうね……ただもう絶対にラミアさんからは服は借りないけどね」


 希沙良はラミアに借りた黒と白のゴスロリぽい服の襟や袖を確認しながら歩き出した。

 どうも他になにか細工がされていないか心配しているらしい。


「まぁ何はともあれやっと人狼族に会えそうで良かったぜ」


 俺は人狼族の無事を祈りながら、自分の胸元に手を当てて溜息をつく希沙良と共にチュータの後に続き森の奥へと進んでいった。

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