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22.暗闇からの奇襲

「冗談じゃねぇぞおい……」


 人間の襲撃か? それともなんらかの事故なのか?

 原因は分からないがすぐにでも確かめないといけない。


「急ぐぞ!!!」

「うん!」


 俺と希沙良は速度を上げ、森へと急ぐ。

 森に近づくに連れてその惨状は明らかになっていった。


 地平線の先まで続く広大な森はすでに半分以上が炎に包まれており、煙が空高くと立ち上っている。

 その光景はまさに地獄絵図。


「どうしよう……これじゃ人狼族を見つけるなんて……」


 見つけるどころかもうすでに全滅してしまっているかもしれない。

 だがこのまま放っておくわけにも……

 

「人狼族を探すぞ、もしかしたら全員逃げてるかも知れない」

「……分かった」


 俺達はまだ火が回っていない森の上空へと移動し、空から人狼族の捜索を開始した。

 しかし、上空からでは木々が視界を遮り、森の中は上手く見渡せない。


 森の中に降りるか、そう一瞬考えたがやはり危険だ。

 この火事が人為的なものだとしたら勇者がこの森の中にいる確率は極めて高い。

 そうなれば俺はともかく希沙良の身に危険が及ぶこととなる。


「ねぇ……」

「どうした?」

「なんかあの炎変じゃない?」

「変? どこがだ?」


 あらためて燃え盛る炎に目を向けてみるが、どこもおかしなところは見当たらない。


「炎の境界線をよく見てみて」


 希沙良に言われた通り、炎の途切れている箇所を注意深く見てみる。

 そして俺はやっと気づいた。


「止まってる……」


 そう、森を焼きつくす勢いで燃え盛る炎は、その範囲を広げること無くその場で止まっているのだ。

 ある一定のラインを境に炎と森が分離されているようでもある。


「やっぱりおかしいわよね? それにあの炎は風の影響も受けてないようにも見えるし」

「なるほどな……つまり考えられることは──」


「誰かが意図的にあの炎を操っている」


 俺の考えを読み取るように希沙良が呟いた。

 人狼族の住む森を炎で襲う、そんなことをするのは人間以外には到底考えられない。


「用心しろよ希沙良……もしかすると俺達の事を人間共がもう狙っているかもしれない」

「分かってる。私なら大丈夫だから早く人狼族を探しましょう」


 この大規模な山火事の原因を人間の仕業だと仮定し、俺達は捜索を再開した。

 上空にいる俺達を人間共がどういった方法で攻撃してくるかは分からないが、用心に越したことはない。


 そして捜索を再開して数分した頃、俺は地上の森の中がキラリと光った何かを視界の端で捉えた。

 一瞬の出来事で気のせいかとも思ったが、念の為に希沙良の方を向いて声をかけようとした。


 そんな僅かな時間。

 突如、光の線が希沙良の右翼を貫いた。


「──え」


 それはあまりに突然の出来事。

 一瞬、俺の思考は停止したが、貫かれた希沙良の右翼から血が流れたのを見てすぐに正気に戻った。


「き、希沙良!?」


 右翼を損傷した希沙良はそのままバランスを崩し、くるくると回りながら地上へと落下を始める。

 俺はそんな希沙良の体を急いで抱きかかえ、光の線が飛んできた方に目を向けた。

 そこには先程希沙良の右翼を貫いた光の線が、数十という数になって俺達に向かっているところだった。


 俺は希沙良を抱きかかえたままその光の線を躱しつつ、地上へ猛スピードで降りていく。

 光の速度は幸いにも最初から見えていればギリギリ躱せるものだったため、俺達は無事森の中へと着地する事ができた。


 地上に降りてまず希沙良を木の根に寄りかからせ、懐から血の入った小瓶を取り出して希沙良に飲ませる。

 丸々一本飲みきったところで、希沙良の翼に空いた穴は塞がり、出血も治まった。


「大丈夫か!?」

「う、うん……まだ少し痛むけど大丈夫……」

「よかった……」


 翼の傷が完全に癒え、翼を体の中に完全にしまうことができるようになったところで俺は希沙良に先程の攻撃の正体を見せた。

 俺の手に握られていたのは竹と鉄で作られたであろう1本の矢。


「これは……」

「とりあえず1本だけ掴めた……本物を見たことあるわけじゃないけど、どうみても普通の矢だよな」

「……多分そうだと思う」


 先程まで光を纏っていた矢はすでにその光を失っており、試しに軽く手に力を込めると簡単に折れてしまう。


「魔法か……」


 吸血鬼の体はちょっとやそっとの攻撃では大した傷にはならない。

 それはすでに検証している。

 しかもこの矢が放たれた場所は、1、2キロ離れた場所からであった。

 常人では矢をそんなに遠くに飛ばすことも、俺達に狙いを定めることも難しいであろう。

 ここから考えられるのは、やはりなんらかの魔法を使ったと思うのが当たり前である。


 ここからどうするか。

 俺は思考を巡らせた。

 来ると分かっていれば避けることは可能である。

 希沙良を守りながらこの森から離れることも可能だろう。

 しかし、それではここに来た意味が無い。


「希沙良……動けそうか?」

「心配しすぎだって。これくらいなんでもないわよ。それよりも早く人狼族を探さないと」

「あぁ、力を持った人間がいるってことは人狼族が危ない」


 森を燃やす炎、そして俺達を襲った光の矢。

 ここに魔族を狩ろうとしている人間がいるのは確実だった。

 それはつまり人狼族の身に危険が迫っているということ。


「でもどうやって探すの? 空を飛べば格好の的だし……」

「大丈夫だ、任せておけ」


 俺は希沙良に手を貸して体を起こし、自分の周囲に神経を張り巡らす。

 目を瞑り、微かな音でも聞き逃さないように集中した。


 そして──


「少し先から足音が聞こえる……」

「人間? それとも魔族?」

「分からない。とりあえず近づいてみよう」


 足音のする方へ俺と希沙良はゆっくりと音を立てぬように歩き出した。

 どうやら足音もこちらに向かっているようで、2人分の話し声が聞こえる。


 近づくにつれてその声は鮮明になっていき、やがて暗闇の先に何かが光るのを肉眼で捉えることができた。


「人間だな……おそらく2人とも勇者だ……」


 遠くに見える人間の腰には剣があり、鉄製の鎧を装備している。

 耳を澄ますと2人の会話が聞こえてきた。


「確かこの辺りに落ちたよな?」

「あぁ、でもありゃ人狼族じゃねぇっぽいけどポイントになんのか?」

「大丈夫だろ。人狼族1匹で5ポイントって言ってただけだし、他の魔族なら1ポイントくらいくれるんじゃないか」


 一体なんの会話なんだ?

 ポイントという聞き慣れない言葉に少し疑問を抱く。


「それに空飛べる人型の魔族なんて強力な魔族に違いねぇぜ」

「確かに思いつくのは天使族か吸血鬼くらいだもんな。でも俺達だけで倒せるのか?」

「心配ねぇって! あのエルフの女の攻撃見ただろ? あんだけの攻撃なら天使だろうが吸血鬼だろうが相当弱ってるはずだ。首さえ持っていって俺達が倒したって言えばそれで充分さ」

「はは、間違いねぇ。もしも天使や吸血鬼だったら5ポイントどころか1匹でクリアかもな」


 笑い合う2人の男。

 会話を聞く限りでは、俺達魔族を狩ってポイントというのを貯めようとしているらしい。


「中々いい情報が得られそうだな。1人任せていいか?」

「もちろん」

「くれぐれも殺すな。それと叫ぶ暇を与えるなよ」

「分かってるって。お兄ちゃんこそ気をつけてね」


 小声でそう会話をし、俺達は暗闇に紛れながら一気に2人の男との距離を詰めた。

 俺は走りながら爪を尖らし、希沙良は右手の平を自身の牙で切り裂いて血を流させる。


 そして俺達は2人の男の背後を取ると、素早く行動に移した。 

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