19.古城の大掃除
「1班は館1階の清掃! 2班と3班は手分けして城壁内の草むしりと花壇の撤去! 4班は2階、5班は3階、6班は自由に動きまわり、人手の足りてなさそうな場所へ援護にいけ! 後は事前に伝えた通り作業に勤しんでくれ! では解散!!!」
物置にしまってあった掃除用具達を全て出し、全員を班分けしてそれぞれに指示を出した。
その指示に従い今回の主戦力である三つ目ネズミ達が小さな布切れを持って一斉に動き出し、城中に散らばっていく。
それを見届けて俺もマスクを装着し、上着を脱いで清掃体勢へと着替えた。
大掃除のする際のコツは1つ、要らなくなったものは捨てること。
この城には全く使ってない部屋や、使い道の分からない物がそこら中に落ちているので、それらを全て捨てなければならない。
よって俺は他の班が見つけたゴミかそうじゃないか分からないものを見分けなければならない。
なので俺はラミアと一緒に、誰かがいるかいらないか分からない物を持ってくるのを待ちながら大広間を清掃することにした。
大掃除開始からしばらくすると、1匹の三つ目ネズミが何かを運びながらやってきた。
「チュー! チュチュー!」
「えーと、どれどれ……ってなんだこれ……」
三つ目ネズミが持っているのは紫色をした何かよくわからない液体の入った小瓶。
明らかに体に悪そうなその液体、まさか毒とか?
「あ、それは──」
「ん、知ってるのかラミア?」
「はい、これは恐らく……」
「恐らく?」
「アンデッド族のおしっこですね」
「よし、捨ててこい」
一切迷わず俺は三つ目ネズミに指示を出した。
三つ目ネズミは指示を聞くと城の外に設置したゴミ捨て場へと走り去っていく。
「なんでアンデッド族のおしっこなんてあんだよ……つーかアンデッド族ってガイコツとか幽霊とか死体だろ? おしっことかすんの?」
「私にも詳しいことは分かりませんが……」
あれ少なくても15年前のものだよな……
というかなんでラミアあれがアンデッド族のおしっこって分かるんだよ……
それから気を取り直して掃除をしていると、今度はなにやら大きな物を抱えた希沙良が俺の元にやって来た。
「ねぇ、これ何かに使えるかな」
そう言って乱暴に希沙良が床に投げ捨てた物を見てみる。
「えっと……使えるっていうかこれ骸骨だよな……」
そう、それは人型の骸骨だった。
「いやさ、森の入口にこれ置いておけば少しは人間も怯えるかなって」
「なるほど、確かに人間避けとしては使えるかもな……よし、んじゃ一応それは──」
「あっ、それアンデッド族の死体ですね」
えっ?
「ほら見てください。この額の部分にばってんマークがあるじゃないですか? これはネリガル様の率いるガイコツ型のアンデッド族全てに付いてい──」
「よし、希沙良。今すぐ捨ててこい。絶対に見つからないよう森の中にだ」
なんでこの城にアンデッド族の死体なんてあんだよ!
あのクソジジイが知ったら何言われるか分かったもんじゃねぇぞ……
にしてももしかしてさっきのおしっこってこいつの──
そこまで想像して俺は気分が悪くなったので考えるのを止めた。
骸骨の放尿シーンなんて想像したくもない。
「おし、続きだ続き!」
それからも色々な物を皆が持ってきては、そのほとんどを捨てさせた。
たまに使えそうな物もあったので、それらは一応保留にしてある。
大掃除はその後順調に進み、やはり小さいとはいえ1000匹の三つ目ネズミの力には感心させられた。
一応何度か城を見まわってみたのだが、どこも以前の面影が全く無いと言っていいほど綺麗になっていた。
そして大掃除も終盤に差し掛かった頃、メルとネルが黒い1冊のノートを持って歩いてきた。
「ヴァンパイアロード様! これ落ちてましたけどどうしましょう?」
「ラミア様の部屋の前で拾いました!」
ラミアの部屋の前で?
ということはラミアのノートか?
それを2人から受け取って見てみると、表紙の部分に『今日のノノ様♡』と書かれている。
チラリと横目でラミアを見てみると、こちらに気づいていないのかせっせと階段の手すりを磨いていた。
何かすごく嫌な予感がする……
しかし気になる……一体ここに何が書かれているというのだ……
人の物を勝手に覗くのはやはりまずい、それは分かっている。
しかしこうも自分の名前が堂々と書かれていると気になって仕方ない。
すまんラミア!!!
そう心で謝って俺はそのノートの1ページ目を開いた。
『今日、ついに待ちに待ち続けた当主様がこの城へやって来ました。
一体この日を私はどれだけ待ち望んだでしょうか。
しかしまだ当主様は多少混乱されている様子で、私は心配です。
何か私が当主様のお力になれればよろしいのですが……』
なんだ……案外普通だな。
むしろ最初からここまで俺の事心配してくれてたんだな……
それから何ページかめくって適当に目を通してみると、ちょうど魔王会議が終わった日の事が書かれていた。
魔王会議の日といえば俺がこの世界で生きていくとしっかり決意した日。
そう思うとなんだか懐かしい気分になる。
そんな気持ちでラミアのノートに目を通したのだが──
『あぁノノ様! ノノ様! 私は喜びで今にも死んでしまいそうです!
ノノ様は私如きのためにあの魔王様達に勇気あるお言葉をぶつけ、私を守ってくださいました!
それに勇者共を滅ぼすとも、一族を復興させるとも言ってくださいました!
あぁ、私はなんて幸せものなのでしょうか。
私は一生ノノ様についていくとあらためて心に誓います。』
な、なんか随分と俺の事思ってくれてるようだな……
う、嬉しいぞ俺は……
少し俺のことを過大評価し過ぎじゃないかと思いつつ、俺は昨日書かれたであろう一番新しいページを開いた。
『勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者殺す勇者────』
「ひっ!?」
思わずその書きなぐられたかのような文字の羅列を見てノートを勢い良く閉じてしまった。
なんだ今のは……一体なにがあったんだ……
恐る恐るそのページをもう一度開き、よく見てみると、どうやら俺が勇者共と戦って意識を失ったことで、相当勇者に対して強い恨みを持っているようだった。
「どうしましたヴァンパイアロード様? 汗を掻かれているみたいですけど」
不思議そうな顔で俺を見るネル。
「あ、あぁ、それよりこのノートは元の場所に戻しておいてくれ……」
「は、はい」
よーし、俺は何も見なかった。
何も見なかったんだ。
そう自分に言い聞かせて俺は作業に戻った──
結局、城の大掃除は1日では終わらず、2日を費やして無事終わりを迎えた。
そして俺は本格的に勇者を撲滅するため、動き出す。




