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18.当主として

 次の日の夕方。

 俺は自室で一人頭を悩ませていた。


 俺の住む古城は2つの塔と移住区である館に分かれている。

 塔の1つは書庫になっており、もう一方は見張り台と人間を捕えて収容する監獄になっているのだが、こちらは未だに見張り台としての役割しか果たせていない。

 館の1階は大広間、浴室、あとは使われていない部屋がいくつかあり、2階には使用人であるラミア、そして使用人見習いといった形でここに住むこととなった獣人族の双子の姉弟ネルとメルの部屋がある。

 最上階である3階は俺の部屋と妹の希沙良の部屋があり、各々が住む部屋に関しては俺が意識を失っている間に清掃は終わっているようだった。

 三つ目ネズミ1000匹に関しては特に部屋など無く、城のあちこちを動きまわっており、一応地下にある血液保管室の先に穴を掘って自分達の住処を建築中だ。


 城の住人が増えたことは俺にとって喜ばしいことではあるのだが、それによりいくつかの問題が生じてきた。

 中でも一番の問題は食料だ。

 俺達吸血鬼は血だけで事足りるし、三つ目ネズミ達は地面に住む生き物を勝手に食べるので問題ないのだが、ネルとメルはそういうわけにもいかない。

 魔族の食事に関しては種族毎に異なるが、どの種族にも共通しているのは人間に比べてそれほど食事を必要としないことである。

 なので、今のところは周辺の森から果物などを取ってきてなんとかなっているようなのだが、やはり育ち盛りの子供でもあるので、いずれはまともな食べ物を確保できるようにしなければならないだろう。


 他にも人間からの襲撃を回避するために森の罠などの強化や勇者共を滅ぼすために教会を潰す方法、それにもっと仲間を増やして勢力を拡大させなければいけないなど考える事は色々ある。


「もういっそこの世界にネット環境とか整ってればもう少し楽なのに……そしたら求人も募れるし、ネットで色々と調べられるんだけどな……」


 そんな愚痴も出てしまうが当然この世界にそんなものはない。

 魔法の力である程度快適な生活を人間達はしているようだが、ここで魔法が使えるのはラミアだけである。

 一応魔法の本にも目を通してみたが、はっきりいって使えるようになるのはまだまだ先の話であろう。


 とりあえず今はやれることをやるかと思い、俺は城の住人を1階の大広間に集めた。


「えー、あらためて皆さんようこそ俺の城へ」


 広間に集まる城の住人達に向かって俺はそう切り出した。


「今さらかも知れないがまず自己紹介をしておこう。俺の名前は乃々上 怜士、吸血鬼の王にして6大魔王の一人ヴァンパイアロードだ。えー、皆は昨日からこの城に住むという事が正式に決まったわけだが、やはり人数が増えたということもあり色々な問題が生じてきた。なので俺からここに住むにあたっての決まりと、今後の目的を話しておこうと思う」


 どうもこれだけの大人数相手に喋るのは緊張するな……


「まずここに住むからには当主である俺の命令には従ってもらう。つまりお前達は俺の配下になるということだ。これに関しては必ず守ってほしい」

「もちろん私は最初からノノ様に身も心も──」

「いや、ラミアはもう分かってるから」


 俺は隣に立つラミアの言葉を制止し、それ以外の住人に目を向ける。


「わしらは元からそのつもりじゃ。姫様が従うというならわしらもそうしよう」


 チュータの言葉に他の三つ目ネズミ達もチューと鳴き声を上げる。 


「ぼくは最初からそのつもりでここに来ましたので!」

「わたしも!」


 ネルとメルも笑顔で同意する。


「希沙良もそれでいいよな?」

「まぁ、一応あんたがここの城の当主だしね。けど納得出来ない命令なら従うか分からないわよ」

「へいへい、それでいいさ」


 とりあえず全員の承諾は得た。

 これで俺にも配下というものができたというわけだ。


「次に今後の方針についてだ。俺の目的は勇者共を皆殺しにし、吸血鬼の一族を復興させること。ただこれが容易でないことくらい分かっている。だが勇者共を、特に転生勇者共を早いとこどうにかしないと俺達魔族はいずれ滅ぶだろう。だから俺はこちらから戦いを仕掛けるつもりだ。もちろん俺達は他の魔王に比べて勢力は少ないし、俺自身の力もまだまだ未熟だ」


 ルサレクスでの勇者共との戦いで自分の未熟さはよく思い知った。

 俺にもう少し力があればもっと多くの奴隷達を助け出せたかもしれない。


「だからこそお前達の力を借りたい。転生勇者共に不死性を与えている教会、俺達魔族を効率よく狩るために存在する勇者総合案内所、勇者に協力し、俺達魔族を滅ぼそうと考える人間共。その全てを滅ぼし、人間共を支配するために俺に力を貸してくれ……頼む」


 俺の言葉にその場にいる全員が歓声を上げた。

 歓声とはいえ、そのほとんどがチューというなんとも愛らしい声なのだが、それでも俺の心は震えた。


「頼むねぇ……別にそんな風に言わなくても、俺に力を貸せって言えばそれでいいのに」

「希沙良……」

「あんたは一応わたしたちのボスなんだからもっとそれらしくしなさいよ」

「うっせ、こちとらついこの間までただの高校生だったんだ、そんなすぐに偉そうにできるかってんだ」

「あっそ」


 それらしくか……やっぱ柄じゃないんだよな。

 でもまぁこいつらの主らしく堂々としないとな。


「おし、んじゃまぁ話もまとまったところで本題に入ろうか」

「え、今のが本題じゃなかったの?」

「当たり前だろ、今のは当主としての挨拶だ。俺が全員を集めた本当の理由はここからだ」


 希沙良は俺を見て顔をしかめる。


「ではお前達の主として初の命令を下すとする。全員心して聞くように」


 俺の言葉に場が静まり返り、一体どんな命令が下されるのか? そんな事を思っているのがひしひしと伝わってくる。

 そんな中で俺は大声で命令を下した。


 それはこの城に来てからずっとやりたくてもできなかったこと──


「これより城の全面的な大掃除を執り行う!!! 全員俺の指示に従い速やかにこの城を隅々までピカピカにせよ!!!」


 隣の希沙良が何か残念そうに溜息をついた。

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