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17.古城の新しい住人達

 目を覚ますとそこは俺の部屋のベッドの上だった。

 何かお腹の辺りに重い物が乗っているようで、確認してみるとラミアが自分の頭を乗せてスヤスヤと寝息を立てている。


 えーと、俺どうしたんだっけ……

 確かルサレクスから出た後突然目眩がして……


 それからの記憶が全くない。


「おい、ラミア起きろ、おいって」


 とりあえず気持ちよさそうに眠るラミアの肩を揺さぶってみる。


「ん……んー……あ、あれ……ノノ様……?」

「起きたか。なぁラミア、あれから一体何が──」

「ノノ様ーーーーー!!!」


 突如、ガバッと俺にラミアが抱きつき、そのままベッドに押し倒された。


「ちょ、おいラミア!? どうしたんだよいきなり!?」

「ノノ様! ノノ様! ノノ様! ノノ様ーーーーー!!!」


 なんだこいつ!?

 なんかおかしな病気にでもかかったのか!?


「と、とりあえず離れろって!!!」

「良かった……良かったです……私はこのままノノ様が目を覚まさないかと……」


 そう言って泣きじゃくるラミアは俄然として俺から離れようとしない。

 困ったぞ……嬉しいといえば嬉しいんだがそれよりなんかすげぇ恥ずかしい……


 そんな嬉し恥ずかしい状況に困惑していたところ、扉のドアノブがガチャリと音を立てて開いた。

 その先にいたのは希沙良だった。


「なにしてんのよあんた……」

「い、いやこれはだな──」


 まずい……妹の兄を見る目が何が汚いものを見るような蔑んだものになっている……


「まぁいいわ、それよりも元気なら下に降りてきて。話があるから」


 そう言い残して希沙良は去っていった。

 状況は飲み込めないがとりあえず希沙良から話を聞くか。

 そう思い俺はベッドから降りて、俺から全く離れる気のないラミアを引きずりながら1階の大広間へと足を運ぶ。


 大広間に着いた俺が見たのは広間を覆い尽くすほどの灰色だった。

 その正体はルサレクスで会った魔物、三つ目ネズミの大群。


「これどういうことだ?」


 俺は2階へ続く階段に座り込む希沙良に質問した。


「あんたあのルサレクスから出た後そのまま気を失ったらしいのよ。それでそこのラミアっていう子があんたをこの城まで運んだってわけ」


 気を失った──

 そうか、どうやら俺はまだ吸血鬼の力も魔王の力も完全にコントロールできてないというわけか。

 あれしきの事で倒れてしまうとは……


「この子あんたのこと3日間ずっと看病してたんだから感謝しときなさい」


 確かにラミアの目元には満足に寝ていないのか隈ができていた。


「そうか……ありがとな、ラミアも希沙良も……」

「は? なんであたしもなのよ」

「だってお前隈すごいぞ、お前も俺の事看病してくれてたんだろ?」

「ち、違うわよ! こ、これはこの城のベッドが単にわたしとの相性が悪かっただけで別にあんたの事を看病してたとかそういうわけじゃないんだから!」


 このツンデレ具合、実の妹じゃなけりゃ喜ぶんだけどなぁ……


「まぁともかくありがとな。それで奴隷達はどうなったんだ? ちゃんと逃げれたのか?」


 もっとも気がかりだった事を希沙良に尋ねると、希沙良は少し伏目がちに答えた。


「奴隷になった魔族はわたしが森から逃がした……でも皆自分の種族が住む場所にバラバラに逃げたから無事に逃げられたかはわたしにも分からない……」

「そうか……でもやるべきことはできたんだな」

「うん……それでも半分は人間達に殺された……」


 半分……つまり100以上の魔族が人間に殺された。

 仕方のないことだった……そう言い切るにはあまりにも多い同族の死。


「お前はよく頑張ったよ。だからそう落ち込むな、きっと死んでいった奴等だって自分達のために頑張ってくれたお前に感謝してるさ」

「そう……かな……」

「ああ」


 希沙良は昔から優しかった。

 その優しさを言葉に出すのはかなり下手くそだが。

 きっと今回の件もこいつは奴隷達の事を知ったその時から自分なりに色々考えたのだろう。


「それでだな、話を戻すがあの三つ目ネズミの群れはなんだ? それに獣人族の子もいるみたいだが」


 広間に視線を移して俺は聞いた。

 広場を埋め尽くす三つ目ネズミ達とその中にいる獣人族らしき子供が2人。


「えーと、そうね、なんて言うか──」

「それはわしから話しましょう姫様!」


 そう言って希沙良の肩からひょこっと顔を出したのは井戸で会った三つ目ネズミのチュータだった。

 まぁ正直見た目からは他の三つ目ネズミとの違いが分からんのだが。


「えーと、確かチュータだったな」

「いかにも。わしら三つ目ネズミは此度の一件から姫様の真意に心打たれ、一族総勢1000匹、一生姫様に仕えていくと心に誓ったのでございます。そうじゃな皆の衆!!!」


 チュータの掛け声に合わせて総勢1000匹の三つ目ネズミ達が「チュー」とどこか可愛らしい鳴き声を一斉に出した。


「な、なるほど。姫様に……ね……」


 チラリと横目で希沙良を見ると、希沙良は顔を赤くしてふいっと横を向いてしまう。

 

 こいつ自分の事姫様とか呼ばしてんのか……妹の将来がお兄ちゃんは少し心配だぞ……


「姫様はどうもこの城に住まわれるようなので、わしらもこれからはここに住まわせて頂ますようお願い致します」

「まぁそれはいいんだけどさ、俺一応6大魔王の一人だし、この場所人間にバレてるから結構危ないかもしれないぜ?」

「承知の上でございます。しかしわしらはもう姫様のために命を捨てる覚悟はできております。それにこれだけの人数があなたの配下になるのは中々好都合なことも多いのではありませぬか?」


 その通りだ。

 1000匹の三つ目ネズミ、戦力としてはまだなんともいえないが、小柄な体格を活かした偵察や、前歯で合鍵を作ってしまえるほどの器用さ、そして何よりその数。

 正直なところこちらにはメリットしかない。


「まぁなんにせよ俺としてはお前達がいいなら大歓迎だしな。これからよろしく頼むよチュータ」


 俺が手を差し出すと、チュータはその小さな手で俺の小指を掴んだ。

 握手と言うにはなんともまぁ滑稽なのだが、俺はこの世界で初めてできた吸血鬼以外の仲間に喜びを覚えた。


「ただし当主様、わしらはあくまでも姫様に仕えているということをお忘れなく」

「お、おう」


 本当にこいつら希沙良の事大好きだな。

 一体井戸の中で希沙良はこいつらに何を言ったんだ?


「えーと、それでそこの獣人族の子たちは……」


 三つ目ネズミ1000匹が仲間になったところで、今度は獣人族の子たちに目をやった。

 俺の視線に気づいたのか、その子達は周りにいる三つ目ネズミ達をジャンプして飛び越し、軽い身のこなしで俺の前に着地した。

 どうやら見たところ双子っぽい。


「初めましてヴァンパイアロード様! ぼくはネルといいます!」

「初めましてヴァンパイアロード様! わたしはメルといいます!」


 金色と白銀の髪、黄色い耳に黄色い尻尾。

 その姿はなんとなくキツネを思い出させる。


 髪も毛もなんかこう全体的にフサフサしてて触り心地がよさそうだな。


「ぼくたちはヴァンパイアロード様やここにいる皆さんに助けられた恩返しのためにここに来ました!」

「来ました!」


 金色の髪のネルがそう言うと、その後に続いて銀髪のメルという子が続く。

 声からしてネルが男の子でメルが女の子だろうか?

 ぶっちゃけどっちも女の子にしか見えん。


「恩返しって……別にそんな事気にしなくていいからさ、お前達も自分の仲間のところ帰れって。親御さんきっと心配してるぞ」


 きっとこの子たちの両親は自分の子供がいなくなって相当心配しているだろう。

 俺なんかのところよりも早く家に返してやるべきだ。


「ぼくたちの両親は勇者によって殺されました……」

「わたしたちはその勇者に奴隷商人に売られたんです……」


 両親が……


「そうだったのか、嫌なこと思い出させて悪かった。でもお前達の種族の王ってミミカだったよな? ならお前達の世話とかもしてくれるんじゃないか? まだ子供みたいだったけど仲間からは随分と慕われてるみたいだし」

「確かにミミカ様はお優しい方です……でも……」

「わたしたちは命を救ってくれた皆さんに何か恩返しがしたいんです!」


 困ったな。

 流石にこんな子供を危険に晒すわけにはいかないし……

 だからと言って追い出すわけにもいかない。


「よし分かった。多分そのうち俺も魔王会議とかでミミカと会うこともあるだろうからその時まではこの城でお前達を保護する。それでいいな?」

「「はい!!」」


 こうして俺の城に住人が増えた。

 1000匹の三つ目ネズミと獣人族の双子ネルとメル、そして妹の希沙良。

 この先どうするかはまだ決めていないが、それはまたゆっくりと考える事にしよう。

 それに明日の予定はもう決まっている。


 これでやっと城の大掃除ができそうだ──

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