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15.奴隷を開放せよ

 この町に奴隷として捕まっている魔族を助けたい。

 それが希沙良がこの町を出ていけない理由だった。


 結論から言おう。

 俺はそれに賛成した。


「ラミア、いいよな?」

「もちろんです! 正直ここに来てから私達魔族の仲間が檻に入れられている姿を見ているのにも限界でしたし……」

「なら決まりだ。俺達にも手伝わせてくれよ希沙良」


 自分の仲間が檻の中に入れられ、金で売買されている。

 そんなものを見れば誰だっていい気はしない。

 むしろ人間はどうして自分達と同じ種族の仲間を平気な顔をして奴隷に出来るのかが分からなかった。


「お兄ぃ……じゃなくて元からあんたにも手伝わせるつもりだったのよ! だから勝手にしたら!」


 なんだこいつ、俺の妹ってこんなツンデレキャラだったか?


「んじゃまぁその作戦てのを教えてくれよ。準備してあるってことは何か策があるんだろう」

「まぁね、あんたは奴隷がどうして逃げ出せないか知ってる?」

「んー、普通に檻の中に入れられてるからじゃないのか?」

「もちろんそれもあるけど、奴隷ってのは基本的に首に魔法で作られた爆弾付きの首輪がされているのよ」

「爆弾……だと?」

「そう、だから奴隷はどこにも逃げ出せない。起爆装置を持っているのは奴隷商人とその奴隷を買った人間だからね」


 なるほど。

 逃げ出そうとすればボタン1つで殺されちまうってわけか。


「そこでわたしはまずその首輪を解除するための鍵を手に入れて合鍵を作ったわ。この町に奴隷として囚われている魔族、合計382個の鍵をね」

「お前すごいな……よくこの短期間でそれだけ……」

「もちろんわたしが全てやったわけじゃない。わたしがしたのはせいぜい作戦を立てることくらいだもん。鍵を盗んで合鍵を作ってくれたのはこの子達」


 そう言って希沙良は三つ目ネズミのチュータを指差した。


「こいつらが?」

「ふっふっふ、キサマ我ら三つ目ネズミをただのネズミだと思ってりゃせんか? わしらはこう見えて結構器用なんじゃよ。小さな体を活かして盗みをするのも、この頑丈な前歯を使って合鍵を作るのもわけないんじゃ」


 どうやらこの三つ目ネズミという種族は見た目と違い結構技術派らしい。


「すでに奴隷にされた仲間には1000匹の三つ目ネズミ達を使って知らせてあるし、いつでも皆を開放できるように待機もさせてある。一応作戦としては明日の夜中、一番警備が手薄な時にしようと思ってるんだけど……」

「明日の夜中か……ん、いや待て、それはやめたほうがいい」

「どうしてよ、もっと時間を置けっていうの? ふざけないで! 今こうしている間にもわたしたちの仲間は──」

「いやそうじゃない……その作戦今すぐに実行するべきだ……」

「は? どうしてよ……」


 明日では駄目だ。

 多分明日は今よりももっと町の警備は強化されてしまう。


 なぜなら──


「ついさっきはずみで奴隷商人1人殺しちゃったからそのうち大騒ぎになるわ」

「なっ──! 何してくれてんのよバカ兄貴!!!」


 ドゴンッという鈍い音が井戸の中に響き渡る。


「チュータ! 急いで作戦決行の事を皆に伝えて!!!」

「了解じゃ!」


 チュータは希沙良の指示を聞くと、井戸の隅に掘られた小さな穴の中にスルスルと入っていった。


「そんなすぐに全員に連絡着くのか?」

「大丈夫よ! この町の地下はチュータ達三つ目ネズミの庭のようなもんだからね! それよりわたしたちも早く地上に出て人間共の注意を引かないと」


 そう言って希沙良は背中から翼を生やし、井戸の入り口まで飛び立った。

 しかもそのままその井戸を体当たりでぶち壊し、空高く飛んで行く。


「あいつ派手だなぁ……俺達も行くぞラミア!」

「はい!」


 俺達も翼を生やして井戸から外に出て、空へと飛び上がる。


「おい希沙良! お前ちゃんと戦えるのか? 吸血鬼ってのはな──」

「分かってるわよ、吸血鬼にはそれぞれが持つ特殊な力がある、それを発動させるためには人間の血が必要だって話でしょ」

「お、おう、その通りだが……」

「そんなのチュータ達が盗んできてくれた本で勉強済み。ここ数日でわたしは人間奴隷の血をたっぷりいただいたから余裕よ、そっちこそわたしの足引っ張らないでよね」


 そう言って希沙良は空から地面へ降下していった。

 俺とラミアと希沙良の3人の吸血鬼、突然井戸から現れた俺達を地上から不思議そうに眺める人間達。

 その人間達の目の前に希沙良は降りると、自分の爪で左手の手の平を切り裂き、血を流させた。


「さぁ人間共、かかってきなさい!!!」


 瞬間、手の平から流れる血が空中で刃に変わり、集まっていた人間を次々と切り裂いていく。


「ほらほら!!! 早く勇者でもなんでも連れて来なさいよ!!!」


 返り血を浴びながら楽しそうに人間を切り裂いていく希沙良を見て俺は呆然としながら隣のラミアに話しかけた。


「なぁラミア……この場合は妹の成長を喜ぶべきなのか悲しむべきなのかどっちだと思う?」

「そうですね……ここは喜ぶべきではないでしょうか?」

「……そうだな……おし、俺達もいくぞ! 少しでも奴隷たちが逃げれる時間を稼ぐんだ!」


 久々に会った妹が返り血を浴びながら次々と人間を殺していく。

 これ俺が人間のままだったら多分泣きながらじいちゃんばあちゃんに謝るだろうな……


 まぁ今はあくまでも俺は吸血鬼だ。

 この頼もしいくらいに魔族らしくなった妹を誇りに思うことにしよう。


「ラミア、頼む!」

「はい! 幻惑魔法、 黄泉の霧ミストハーデス!」


 ラミアがそう唱えると地面から煙のような霧が湧き出る。

 人間達は突如現れた霧に動揺し、俺はその隙に霧に乗じて人間共の首を爪で引き裂いていった。


「やっぱ魔法ってのは便利だな……俺も覚えられるといいんだが……」


 霧は瞬く間に広まり、夜の町をものすごい早さで包み込んでいく。


「おい希沙良! 奴隷の解放にはどれくらいかかりそうだ!?」

「多分あと数分後には終わると思う! でも皆がこの町から出るにはもっとわたし達が人間を引きつけないと!」

「分かった! それじゃあお前とラミアは逃げ出した魔族達を守ることに専念してくれ! 俺が人間共の囮になる!」

「え、ちょ、ちょっとお兄ちゃん!!!」


 俺はその場をラミアと希沙良に任せ、町の中心へ向かった。

 俺の考えは1つ、ラミアと希沙良をあいつら・・・・とは戦わせたくないのだ。

 そう、転生勇者とは──


 空から見るルサレクスはもうほとんどが霧に覆われており、その霧の中からは叫び声や罵声、助けを求める声など人間の混乱する様が見て取れた。

 この霧の中でまともに視界を保てるのは夜目の効く俺達魔族ぐらいだ。

 これなら上手く奴隷たちを逃がせるかもしれないな。


 俺は町の中心まで近づいたところで一度空中で止まり、町全体に響くほどの声量で叫んだ。


「我こそは6大魔王が一人ヴァンパイアロード!!! この町は今より我の手に落ちた!!! 勇者共!!! 我を打ち取りたくばかかってこい!!!」


 自分でも驚くほどその声は響いた。

 霧は音を吸収するなんていうが、どうやらラミアの出した霧はその反対らしい。


「さて、これで誘いに乗ってくれれば楽なんだがな……」


 俺は地上に降下し、広場にある噴水の上に降り立った。

 そして暫くその場で様子を見てみる。


 耳を澄ませば聞こえる。

 魔族達の怒りの叫びと人間共の悲鳴が。

 どうやら奴隷の解放には成功したみたいだな。


 目を瞑り、音だけで現在の町の状況を把握していると、こちらに向かってくる複数の足音が聞こえてきた。


「勇者ご一行様のご登場か……」


 次の瞬間、誰かが魔法でも使ったのか一瞬にして周囲の霧が晴れた。

 目を開けて広場にいたのは鎧や革製の防具を着込んだ勇者共と、槍や杖などの様々な武器を持った人間達。


 俺はつけていたマスクを取り、巨大な黒い翼を広げてその勇者共に向けて魔王らしい発言をする。


「さぁ勇者共……この魔王ヴァンパイアロードの首、取れるものなら取ってみろ!!!」

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