13.再会は唐突に
確かにこの町の色々な人間から情報は入手したが、もしかしたら吸血鬼の噂をしていたのは人間じゃなかったんじゃないか?
「ノノ様……?」
「悪いラミア! ちょっとここ頼むわ!」
「――へ?」
俺はラミアにそう言い残して、走り出した。
そして町に建てられた奴隷商会をいくつか探し、その中で一番大きな奴隷商会の店に入る。
その店の店主はもう夜中だというのに俺をにこやかに迎え入れた。
「おやおや、同業者のお客さんとは珍しい」
「なぁ、ここで魔族って売ってるか?」
「もちろんですとも、ここはルサレクスでも質の良い魔族の奴隷がいると有名な店ですので」
さぁこちらへどうぞと行って店主は俺を地下へ案内した。
薄暗い地下に置かれたいくつもの鉄の檻。
その中には人間や魔族が閉じ込められていた。
「さてと、お客さんが探しているのは──」
その言葉を言い切る前に、俺はこちらを振り返った店主の首を伸ばした爪で瞬時に刎ねた。
頭を失った店主の体はフラフラと力なく地面に倒れ、周囲を血の海に変えていく。
それを見ていた奴隷達はどよめき始めるが、俺はそんな事は気にせず近くの檻の中にいた獣人族の男の子に話しかけた。
「おいお前!」
「ひっ!」
「この町にいる吸血鬼について何か知らないか!?」
「きゅ……吸血鬼……?」
「そうだ、吸血鬼だ」
怯えた表情の獣人族の男の子に俺はマスクを取って素顔を見せる。
「俺の仲間がここにいるかもしれないんだ! 知っていることがあればなんでもいいから教えてくれ!」
「あ……お兄さんも魔族なの……?」
「そうだ! 俺は吸血鬼だ」
素顔を見せたのが功を成したようで、獣人族の男の子の表情は和らいでいく。
「知ってます……お兄さんの探してる吸血鬼さんのことボク知ってます……」
ビンゴだ!
まさか一発目で当たりを引けるとは運がいい……
「多分お兄さんが言っているのはぼく達を助けてくれると言ってくれたあの吸血鬼……キサラさんの事だと思います」
「おい待て……キサラ……だと……?」
「はい、ぼく達の希望であるノノウエ キサラさんです!」
ノノウエ キサラ、それは俺がよく知る人物の名前であり、もう会えないと思っていた家族の名前。
そう、元の世界にいるはずの妹の名前だった。
まさかそんな事があるのか……あいつがこの世界に……
「どこだ!? どこにいるんだそのキサラっていう吸血鬼は!?」
俺は獣人族の男の子の檻に手をかけて叫んだ。
男の子はそんな俺に少し臆している様子だったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「あ、えっと、ここから東にいった【ルーベル奴隷商会】という店の脇の今は使われていない古井戸の中に──」
それだけ聞けば充分だった。
俺はすぐに店から飛び出し、馬車の止めてある広場まで全速力で走った。
「ど、どうされたんですかノノ様!? そんなに血相変えて……」
ラブラブ奴隷商会と書かれた看板の横でちょこんと正座をして客と話をしていたラミアは、俺の顔を見て驚いていた。
「奴隷商人は廃業だ! 行くぞラミア!!!」
「え、あ、でもこの2人は──」
「ほっとけそんなの!!!」
俺は何が何だか分からない様子のラミアの手を引いてその場から立ち去った。
後ろから人間共の視線を感じたがそれどころじゃない。
なんでだ……
なんで希沙良がこんなとこにいんだよ!?
俺はあの獣人族の男の子が言っていたルーベル奴隷商会という店を見つけると、すぐにその脇にある井戸に向けて走った。
周りに人間はいない、今しかない。
「ちょ、ちょっとノノ様!? い、一体なにを!!!」
俺に手を引かれながらそう叫ぶラミアを無視して俺はそのまま井戸の中へ飛び込んだ。
◇
「いてて……大丈夫かラミア?」
「は、はい……なんとか……」
俺が思っていたより井戸の中は深く、下に着くまで結構な距離があった。
「なんだここ……本当に井戸の中なのか?」
井戸の中というのは本来水が溜まっているものだとばかり思っていたのだが、どうもここはそうではないらしい。
というか水どころか土すらない。
地面は固くひんやりとしたタイルだった。
それに見渡せばソファやベッドなんかも置いてあって、完全に部屋の中である。
明かりは無く真っ暗ではあるが、夜目の効く魔族の眼ならハッキリと見える。
「誰? 人間? それとも魔族?」
俺の後ろから不意に声がした。
それは冷たく、無愛想で、懐かしい声。
あぁ、やっぱり本当だったみたいだな……
俺は後ろにいる人物の正体を確信してゆっくりと振り向いた。
「よぉ、久しぶりだな希沙良」
「お……お兄ちゃん!?」




