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12.奴隷商人をやってみる

 転生勇者ギルバードの馬車を奪い、ギルバードとルーシャという女を縛り上げて荷台に詰め込む。

 ついでに死なない程度に2人を傷めつけて、服の代わりに馬車に積んであった布切れを羽織らせれば立派な奴隷の完成だ。


 もしも上手くいかなかった場合はラミアの案であるここにいる人間を皆殺しにするというのを実行しようかとも考えたが、そんな心配は杞憂に終わり、俺達はあっさりと奴隷市場ことルサレクスの中へと入ることに成功した。


「まずは侵入成功だ、後は夜が明けるまでにここで見つかったっていう吸血鬼の情報収集だな。やっぱベタに聞き込みから始めるか?」

「はい、ただここで吸血鬼が見つかったという以外はコウモリさんからの情報は何もなかったので、吸血鬼の事は一部の人間しか知らない可能性が高いですね……」


 俺とラミアは馬車の前方で馬の手綱を引きながらこれからの動きを話し合う。


 しかしこれだけ人間がいるというのは妙な気分だ。

 ルサレクスの中はこの時間でも多くの人間が行き交っており、奴隷市場と言うだけあって至る所に奴隷商会と看板を掲げた店や、馬車を引いた奴隷商人がいた。


 思えば俺、この世界でまともに人間の町を歩くの初めてだったな。


 ここに来てから俺が行ったところと言えば俺の住む古城とネリガルの暗黒城だけである。

 最初こそ町の中に転移した俺だったが、あの時は町を歩く暇もなく牢獄にぶち込まれてしまった。


 そう思うとなんだがこういう人間の多い場所を歩くのはかなり久々な気がする。

 なんだか懐かしい気分で町の風景を眺めているとラミアが心配そうに俺に話しかけてきた。


「あの……ノノ様……?」

「ん?」

「ノノ様はやはり今でも人間だった頃が恋しいですか?」

「いいや全然。俺はもう人間だった頃に未練もなんもないよ。だからそんな心配すんなって」

「……はい。変な事を聞いてしまい申し訳ございません」


 いかんいかん。

 ラミアに変な心配をさせてしまった。

 今俺は魔族の王で吸血鬼なんだ。

 この自覚だけはしっかり持っておかないとな。


「よし! それじゃあとりあえず適当にその辺で奴隷商人のフリしながら聞きこみ開始だ」


 俺達は暫く馬車で町中を走った後、かなり広いスペースの広場を見つけ、そこで奴隷商人として店を出すことにした。

 この広場はどうやら奴隷商人のフリースペースとなっているらしく、広場のあちこちに俺達と同じように馬車を止めて商売をする人間がいた。

 空いているスペースに馬車を止め、ラミアが作った【ラブラブ奴隷商会】と書かれた看板を立てかけて準備は完了だ。


「おい、仕事の時間だぞ奴隷共」


 俺は手足を縛られ、口を布で塞がれたギルバードとルーシャを担いで外に出すと、その看板の前に座らせた。

 そして2人の体に【お宝発見! 鋼の肉体を持つ悪の戦士とナイスバディの悩殺女魔法使い】と適当な事を書いた紙を貼り付けた。


「さてと、こんなもんかな」


 後は商品を見に来た人間からさり気なく情報を聞き取るだけだ。

 世間話程度に話をしていれば怪しまれもしないだろう。


「しかしこのラブラブ奴隷商会って名前どうにかならなかったのか?」

「うっ……ダメ……でしたか?」

「いや、ダメっていうか……まぁある意味怪しまれないかも知れないが……」


 俺はラミアの付けている半欠けハート型のマークが書かれたマスクを見てそう言う。

 確かにラブラブを表すようなシンボルにはなっているが……あまりにもバカ丸出しじゃないか?


「すいませーん」


 少し恥ずかしくなってきたなと思っていると、鎧を来た若い人間が俺に話しかけてきた。


「はいはいどうされました?」

「えーと、そこの鋼の肉体を持つ悪の戦士って強いんですか? 強いなら戦闘用に買いたいんですけど」


 おっと、人気じゃないかギルバード。


「お客さん見る目あるねぇー、見た目も強そうだしもしかして勇者さんかい?」

「あ、そうですそうです。実は最近転生勇者とかいう異世界から来た勇者が活躍しすぎて仕事無くて困ってるんですよー」


 なるほど。

 転生勇者が強すぎるせいで前からいた勇者の仕事が減っているのか……


「なるほどなるほど。それで強力な仲間が欲しいというわけですね?」

「そうなんですよー」

「それならお客さん、この男ピッタリですよ。なんせこの男の強さはその転生勇者に匹敵するなんて言われてましたからねぇ」

「え、ほんとですか!?」

「ほんとですほんとです。なんなら試しにこの男を思い切り殴ってみてください。それで分かります」


 俺がそう促すと、男は少しためらいつつもギルバードの顔に思い切り拳を入れた。

 バキッという鈍い音が鳴り、男は驚いた表情をする。


「すごい、びくともしない……それどころかこっちの手がジンジンします」


 そりゃそうだ。

 このギルバードは正真正銘の転生勇者なんだからな。


「そうでしょう? この男なら強力な魔族もいちころ……あの吸血鬼にだって勝てますよ」

「吸血鬼……?」

「そうです。最近よく聞きますよ、この町で吸血鬼を見かけたなんて話もね」


 さぁどうくる。


「吸血鬼ですか……確かに最近噂は聞きますね……確かあの魔王ヴァンパイアロードが復活したとか……」


 そっちかい!


「なんでも復活してすぐに町を1つ滅ぼしたらしいじゃないですか……しかもあの転生勇者が手も足も出なかったなんて話も聞きますし……」


 なんか思っていたより随分と俺の噂は広まってるみたいだな。

 まぁ町を滅ぼしたのは俺じゃなくて隣に座ってるラミアなんだが。


「でもそんな吸血鬼を倒せるなんて……よし、決めた! こいつ買います!」

「ありがとうございます……ただ今回の商品はなにぶん珍しいゆえに即決は出来ないことになってるんですよ。なのでお客さんの要望する値段を紙に書いてこいつに貼っておいて下さい。それ以上の入札希望者がいなければこいつはあなたのものです」

「分かりました」


 そう言って男は紙に入札希望価格を書いてギルバードに貼り付けた。


「それじゃあまた夜明け前に来てください」


 俺がそう告げると男はお願いしますと言って立ち去っていった。


「すごいですね……ノノ様まるで本物の奴隷商人みたいです」

「勘弁してくれ……それにあの男が正直者すぎただけだろ……」


 もしくは転生勇者のせいで追いつめられて、正確な判断ができなくなっているのかもしれないな。


「まぁ何にせよ情報収集が終わるまではこいつらを売っちまうわけにもいかないしな。とにかくこの調子でどんどん聞いていこうぜ」


 それから俺達はギルバードとルーシャを見に来た人間達と世間話をしつつ吸血鬼についての情報を聞き続けた。

 しかしどの客もこの町の吸血鬼の噂は知らないらしく、有力な情報は一切得ることが出来なかった。


「うーむ、もしかしたらその噂ってのはガセだったんじゃないか?」

「かもしれませんね……」


 勇者、貴族、市民、勇者の割合が多かったのは事実だが一応色んな人間から話は聞けた。

 しかしこのルサレクスで吸血鬼が見つかったという話は聞かない。


「コウモリさん曰くたまたまそういう話を誰かがしているのを町中で聞いただけと言っていたので……もしかしたら聞き違いだったという可能性も……」

「うーん……」


 聞き違いか。

 確かにここまでくるとそうなのかも知れないな。


「まぁとりあえずギリギリまで粘ってみようぜ。もしも間違いだったら奴隷にされてる魔族を少しでも開放して逃げれば……待てよ……魔族か……」


 俺はある事に気がつき、すぐさま行動に移した。

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