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11.奴隷勇者

 数えきれない星々が暗闇の中で光を放つ空。

 雲一つないその空を俺とラミアは肩の少し下辺りから生やした大きな黒い翼で飛んでいた。


 俺の服装は白のシャツに黒のパンツ、そして首元には黒の蝶ネクタイを付けている。

 羽を生やすとどうしても服が破れてしまうのでジャケットは手に持っているが、まぁいわゆるタキシードと呼ばれる格好をしていた。

 一方のラミアは相変わらず赤と黒の色を基調としたゴスロリっぽい服装で、普段と代わりはない。

 ラミアのゴスロリファッションは翼によって出来た穴を長めの襟によって隠せるというなんとも便利なものである。


「それにしてもどの町も壁に囲まれてるんだな」


 吸血鬼が見つかったとの噂を確かめるべく俺とラミアはこうしてルサレクスという町を目指しているのだが、それまでに通りががった町の多くは高い壁に囲まれていた。


「私達がよほど怖いんでしょうね。人間は勇者共を除けばそのほとんどがただの一般人ですから」

「でも兵士とか騎士とかいるんだろ? 軍隊だってあるだろうし」

「確かにありますが、兵士や騎士では私達に対抗できるほどの者は限られてきます。なので人間は勇者に魔族の討伐を依頼するんです。勇者以外の軍隊はあくまでも人間同士の争いや自分達の町が襲われた時のための言わば防衛軍ですから」


 やはり勇者はこの世界において別格というわけか。

 まぁ俺達魔族との戦争を人間側はほとんど勇者達に任せていたと考えれば確かに勇者ってのは恐ろしいな。


「ノノ様、あれがルサレクスです!」


 ラミアが指差す先、そこには今まで見かけたどの町よりも大きな壁に囲まれた町があった。

 大陸の中心に位置する町ルサレクス、まだ距離は離れているがそれでもその町が相当巨大なものだと分かる。


「あそこに吸血鬼が……よし、ここからは歩いて行こう」

「はい!」


 このまま空を飛んだままルサレクスに入るわけにもいかないので、とりあえず少し離れた森の中に俺達は降りた。

 そしてラミアが作ったハートマークの半分が書かれたマスクを付け、ジャケットを羽織る。


「さてと、そんじゃ行くか。準備はいいかラミア?」

「はい! バッチリです!」


 マスクを付けてご機嫌の様子のラミア。

 俺達はそのままルサレクスの入り口まで歩いて向かった。


 入り口の近くに着くと夜だというに門の前には荷馬車を率いた俺達と同じようにマスクをした人間達が列をなしていた。


「なぁラミア、俺思った事があるんだが言ってもいいか?」

「実は私も気づいた事があります……」

「だよなぁ……なんでこんな事に気づかなかったんだろうな俺達」


 きっとラミアも俺と同じ事を思っているんだろう。

 確かに奴隷商人に変装して町に入るという考えは良かった。

 しかしだ、俺達は致命的なミスを冒していたのだ。


「商品のない奴隷商人なんているわけねぇよな……」


 さてどうしよう。

 見たところルサレクスの門兵は荷台の中までしっかり確認してるようで、ほとんど手ぶらの俺達がここをすんなり通れるとは思えない。

 奴隷がいなければ俺達はただ変なマスクを付けている怪しい人達なのだ。


「どうしましょうノノ様……このままでは中に入れないと思われますが……」

「待て……今なんとか策を考える……」


 俺は頭を悩ませた。

 やっぱ空からこっそり侵入するのが無難か……?

 しかし失敗した時のリスクが高い……ここは一度引き返して策を練り直すべきか?


 迷った挙句に俺は一度引き返すことに決めた。

 もしも本当に吸血鬼がこの町で見つかったのなら処刑される前に早く助け出したい。

 しかし俺達がもしここで正体がバレるようなことになれば助けだすも何も無くなってしまう。


 急がば回れって言うしな。


「よしラミア、ここは一旦──」

「ノノ様! 良いこと思いつきました!」


 俺の言葉を遮りポンッと手を叩いてラミアは言った。


「お、何か良い作戦思いついたのか?」

「はい! この作戦なら誰にもバレずに侵入することができます!」


 この自身に満ちた表情。

 本当にお前を信じて良いんだな?


「まず最初に門兵を皆殺しにします」


 ん?


「次に目撃者を皆殺しにします」


 待て待て、この時点でもうおかしいぞ!


「最後に荷馬車の奴隷を逃がして全ての罪を擦り付けるんです! そうすれば私達は疑われることなく混乱に乗じてルサレクスの中に入れるという作戦です!」


 なんて恐ろしい子……

 目撃者を消して、奴隷に罪を擦り付ける。

 もちろん奴隷の言うことなど誰も信じないだろうから俺達は怯えた演技をしていればいい。

 まさに完全犯罪だ……


「ってアホかお前!!! それこそリスクが高すぎるだろうが!!!」

「──えっ、あ、も、申し訳ございません……」


 俺の言葉にシュンと肩を落とすラミア。


「いや、まぁ、ラミアの作戦が悪いって言ってるわけじゃなくてだなぁ……えーと……その……」


 しょんぼりするラミアを元気づけようと何かしら気の利いた言葉を考えて見るがいい案が浮かばない。

 女の子ってのは難しい……

 そんな事を思っていた時だった。


「あれって……」


 俺の目線の先には見覚えのある男がいた。

 どうやらルサレクスから外へ出たところらしく、荷馬車の手綱を引きながら隣に座る女と仲良さそうに話している。


「おい、ラミア。いい事思いついちまったぜ」


 これはまさしく運命だ。

 俺はラミアを連れてその馬車の後を気づかれないようにそーっとつけた。



 ◇



「私を奴隷から開放していただき本当にありがとうございますギルバード様!」

「気にするなルーシャ。僕は勇者だから君のような困っている子を見捨てられないのさ」


 転生勇者ギルバードと奴隷として捕まっていたらしいルーシャという女はそんな会話をしながらルサレクスから離れた森の中を馬車で走っていた。


「でもどうしてギルバード様はこんな夜遅くに森へ?」

「それはこの森に夜にだけ出てくる魔族ってのが普通の魔族よりも経験値を多く貰えるからさ」

「え、魔族が! こ、怖いですギルバード様……」

「安心しな、どんな魔族が出たって僕がいるから平気さ。ルーシャは僕の戦いをここで見ていてくれればそれでいいさ」


 ほう、どんな魔族が出てもねぇ……


「さぁ出てこい魔族共! この聖なる加護を受けた勇者ギルバードが相手になってやる!」

「ギルバード様かっこいい……」


 出てこいというなら出て行ってやろうか。

 ここなら誰にも見られないだろうしな。

 そして俺はギルバードの言葉通り、2人の馬車の前に身を潜めていた茂みから姿を現した。


「きたな……ってお前人間か?」


 俺の姿を見るなり怪訝な顔をするギルバード。

 大方魔族を退治してかっこいいところを女に見せようとしてたんだろうな。


「久しぶり……ってほどでもないか勇者ギルバードさん」

「なぜ僕の名を知っている……まさか貴様、僕を狙う刺客か……」


 刺客ってなんだよ。

 勇者って刺客に狙われてんの?


「覚えてない? 自分が死んだ時の事とかさ?」

「僕が死んだ時……だと……まさかお前……」


 俺を見るギルバードの表情が見る見るうちに変わっていく。

 そんなギルバードに俺は追い打ちをかけるようにマスクを取った。


「ヴァ、ヴァンパイアロード……」

「ギ、ギルバード様どうされたんですか! ギルバード様!」


「いやいや奴隷を助けてあげるなんて随分と勇者らしいことしてるじゃねぇか」

「あ、ああ当たり前だ! 僕は勇者なんだ!」

「ハッ、よく言うぜ。どうせその子が可愛かったから奴隷商人から買っただけじゃねぇの?」

「そ、そんなわけあるか! 僕は勇者としてルーシャのような困っている子をだな──」

「だったら捕まってる奴隷全員助けるくらいの気合見せろってんだよ」

「くっ──」


 まぁどうでもいいかと俺は続けて右手の5本の爪を50センチほど伸ばしてギルバードに向ける。


「安心しろ、殺しはしない」

「な、なら僕になんの用だ! 言っておくが僕が以前と同じだと思うなよ! 貴様に殺されてから僕は3Lvもレベルアップしたんだ! もう以前のようには──」


 そうギルバードが言い切る前に俺はギルバードとの距離を詰め、その首元に爪を突き立てた。


「なっ──! は、早すぎる……」

「言っておくが俺も以前とは違うんだ。あれから俺は吸血鬼としての力、そして魔王としての力ってのを使いこなせるよう色々勉強したんだよ」

「くそ……殺せ……」

「だから殺さないって言っただろ。殺してもどうせ教会とやらで蘇るらしいしな」


 こんな奴殺したところで何の意味もない。

 それよりも今はこの勇者に俺の役に立ってもらうことにする。


「なぁ勇者様、ちょっとばかり俺の奴隷になってくれよ」

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