9.とある吸血鬼の噂
6大魔王会議から数日後。
俺はラミアからある気になる情報を聞いた。
それはここから西に行った【ルサレクス】という町で吸血鬼が見つかったというものだった。
ラミアは迷いの森に住むコウモリ型の魔族と仲が良く、その魔族を大陸に存在する町の至る所に潜りこませ、そこから情報を入手しているらしいのだが、今回の話もどうやらそこから流れてきたものらしい。
「まぁ聞いたからには助けに行かないわけにはいかないが、実際問題、吸血鬼ってのはラミアを除いて滅びたんだろ? どうして今頃になって急に吸血鬼が現れたなんて噂が……」
「分かりません……もしかするとノノ様や転生勇者共と同じように別の世界から来て吸血鬼になったのかもしれません……」
「うーむ、そんな都合よく吸血鬼になんてなるもんかねぇ」
今のところ俺以外に別の世界からここに来た人間が勇者以外になったという話は聞いていない。
仮に俺と同じように魔族になった人間がいたとして、何百種類といる魔族の中からピンポイントで吸血鬼になるなんて事があるのだろうか?
「しっかし仲間が欲しいのは事実だしな。あの魔王達にあれだけでかいこと言ったからには教会の1つや2つ潰さないと何されるかわかったもんじゃないぜ」
「そうですね……一族の復興のためにもまずはかつての闇の軍勢を再建することが何よりも大事なことですから」
闇の軍勢。
それは先代ヴァンパイアロードが率いていた魔族の軍のことを指す。
吸血鬼、人狼、サキュバスなどの夜を支配する魔族達を始め、様々な魔族が在籍し、当時の人間達からもっとも恐れられた魔族軍。
先代の死後、中心であった吸血鬼が滅びたことにより軍は壊滅、残った者達も散り散りになったという。
「なら早いとこ動いたほうがよさそうだな。俺達が留守の間この城はどうする? もしもまた勇者共が来たら簡単に乗っ取られちまうぞ」
「それは心配には及びません。前回の勇者の一件から私の魔法で森に様々な仕掛けをしておきましたのでこの城に辿り着くことは私達以外には不可能でしょう。それにあの転生勇者が勝てなかったノノ様のいる城を攻めてくる勇者もそうはいないでしょうし」
そう自信満々に言い切るラミア。
なんて頼もしい使用人なのだろうかと思う反面、俺は素朴な疑問を抱いていた。
「そういえばラミアは魔法を使えるんだよな?」
「はい、ただ私が扱えるのは実践的なものではなく幻影や催眠と言ったような補助的なものだけですが」
「ならさ、最初にラミアが滅ぼした町あっただろ? あれは魔法じゃないのか?」
俺を拷問し、処刑しようとした町。
その町をラミアはあっさり滅ぼしてしまったのだが、俺はそれを魔法の力だとばかり思っていたのだ。
理由はまぁ異世界といったら魔法だろというなんとも安直な考えではあったのだが……
「そういえばまだノノ様には言ってませんでしたね。あれは我々吸血鬼の一族に伝わる伝説の古代兵器を用いさせていただきました」
「こ、古代兵器?」
「はい! 数百年間、一族が力を注ぎこみ、やっとのことで完成させた唯一無二の古代兵器です!」
「おいおい待て待て! 唯一無二って1つしか無い伝説の兵器を俺が拷問やら処刑やら色々されたって理由だけで使ったのか?」
「そう……ですが? 何かおかしなことを言いましたか?」
俺の質問に首を傾げるラミアは、本当に自分の発言におかしいところなど微塵もないと思っているようだ。
主人の……俺のための報復なら一族に伝わる伝説の兵器さえ躊躇なく使うと言い切るラミア。
頼りになるのはもちろんだが、その忠誠心には恐怖すら覚えるぞ。
「まぁいいや、それじゃあ日が落ちたらそのルサレクスって町に行ってみよう」
「はい!」
「んじゃそれまでになんかしらの変装手段考えとかないとな……何かいい案とかないか?」
「そうですね……ではこういうのはどうでしょうか?」
そう言ってラミアはポケットから白い布状のハンカチを取り出して自分の口を覆い隠した。
「どうですかノノ様?」
「いや、どうですかと聞かれても……」
あまりに単純な変装に困惑してしまう。
「でもこれならバレないですよね!」
「ラミア、そんな目を輝かせて俺を見ないでくれ……確かに牙さえ隠せば俺達は人間に見えるかもしれんが2人そろって口元を布で隠すとか怪しすぎないか?」
「フッフッフ、それがそうでもないんですよ」
そう言ってラミアは懐からノノ様LOVEと刻まれたペンを取り出して、そのハンカチに何かを書き始めた。
なんだろう、あの会議の後からどんどんラミアのキャラが変わっていってる気がする……
「できました!」
ラミアは五芒星が書かれた白いハンカチを俺に自慢気に見せた。
「えっと……余計怪しくなってない?」
「そ、そんなことはありませんよ!」
いや、怪しいぞ。
五芒星書いただけなのにどっかのカルト教団にしか見えなくなったぞ……