地属性が不遇? ウソつけ!
地属性の主人公が頑張る話ではありません。
水属性が主人公が嘆く(ぼやく)話です。
日本にいた頃、ラノベで地(土)属性を題材にしたものをいくつか見たことがあった。
その多くが「地属性は地味だの不遇だのといった扱いをされていて、主人公がチートな才能や発想でそのイメージを覆す」というものだった。
はっきり言おう。
バカじゃねえ?
地属性のどこが不遇だってんだよ! お前ら、実際自分の目で全部の属性魔法見比べた上でそんなこと言ってんのか?
剣と魔法の世界に来てからこっち、水属性にしか適性がない俺は地属性の魔法を使う連中に、劣等感を抱きっぱなしだった。
水だよ、水! 一番の不遇属性は水属性に決まってんだろうが!
だって、水だぞ?
日本じゃ、水道の蛇口ひねるだけでいくらでもジャージャー出てきた、あの水だ。水道設備が整ってないこっちじゃ、どこでも水が出せるってのは便利ではあるが、水属性のいいところって言ったらそれくらいのもんだ。
その便利ってのも、生活がちょっと楽になる程度の話で、他の属性に比べれば応用の幅がそうあるわけでもなく、特に優れているとは到底言えない。
例えば、火属性。
文字通り火力重視の攻撃特化な属性だが、それでも料理や焚き火、松明なんかが必要とされる場面で簡単に種火を熾すことができる。
生活面での便利さにはそう違いがない。
攻撃魔法の威力については、言わずもがな。
次に、風属性。
攻撃力は火属性には劣るが、一から火を生み出さないとならないそれとは違って、風(=空気の流れ)はどこにでもある。生み出す→操るという過程を経ず、そこにあるものをそのまま操ることができるので魔力のコスパは優秀だ。
また、追い風による加速や、逆に落下時の減速。見たことはないが、極めれば空を飛ぶことすらできるらしく、便利さは非常に優れている。
そして、地属性。
人が地に足をつけて生きている以上、それこそ常に足元に地面はある。
原初の人は石を武器にしていたように、攻撃力だって低くはない。
石の杭を地面から生やす、壁を作る、落とし穴を掘る。応用すればゴーレムや石製の道具を自在に作り出すことも可能で、活用できる範囲は実に幅広い。
……これのどこが不遇? 笑わせてくれる。
違う意味で、笑うしかないのが俺の水属性だ。
水自体には攻撃力はないので、攻撃に用いるならば風属性と同じく集める必要がある。それも、風の刃を使う風属性とは違い、質量・水圧を威力に変えるためにひたすら大量の水が必要になる。
しかも、水はどこにだってあるわけじゃない。多くの場合は水を生み出すところから必要になるため、魔力コスパは最悪だった。
マンガやラノベ、ゲームなんかじゃ水属性っても水を出す以外にもうちょっと色々できるだろうって?
そう考えた時期が、俺にだってあったさ。
だが、現実は甘くない。水属性はあくまで水属性だった。
よくあるのが、水と言いつつも実質的に氷(凍結)属性というパターンだが、残念!
凍結属性は「地火風水光闇」の基本属性から派生したものとして、雷属性なんかと同じく別に存在していた。
だいたい、あれは熱量を操作しているわけで、誤解されることが多いがどちらかといえば水属性よりも火属性に近い。補助的に水魔法を併用して氷の槍を攻撃に用いることが多いのも、誤解される要因だろうか。
他には、癒し・回復なんかの性質を持つ場合もあったか。
んなわけないじゃん!
あんたの国じゃ、傷口に水かけたら元通りになるか?
水を飲ませるだけで病気が治ったりするか?
水だよ。ただの、水。
そんなもんで癒されるのは、喉の渇きくらいだ。
そりゃあ、俺だってどうにかできないか考えたさ。
生物の身体の何割かは、水分でできている。
だったら、それを操って相手を干からびさせたり、内側から破裂させたりすれば、俺最強! とか思いついたりもした。
しかし、人間に限らず生物には生体魔力が通っているため、他の者が外から相手の体液を操作する、なんて芸当は不可能という現実を突きつけられただけだった。
大量の水が周囲にないことが、水属性の不遇の一因でもある。
だったら発想を逆転して、水がすぐ近くにあるところ、海や湖のそばなんかに生活の拠点を移してみよう。そう考えたこともあった。
そこでなら、水を生成するために無駄な魔力と時間をかける必要もなく、俺にだって無双ができると思った。
ダメだった。
行ってみてから知ったが、この世界には水中での生活に適応した魚人族なる種族が存在していた。
同じ人間の中だったら、大量の水で消されやすくなる火属性や、水上だと珍しく地面を離れることになる地属性の使い手よりは俺の方が優位だった。
ただし、身体のつくりからして人間と違って水中に特化している魚人族が相手では、ちょっとばかり水属性の才能に優れただけの俺では抜群の活躍など望むべくもなかった。
さらに逆の発想。
水のない砂漠地帯に行って、俺がそこの住人に魔法で水を提供することでもてはやされることができるんじゃないかとも思った。
……そんなことが簡単にできるなら、もっと前に誰かが同じことやってるだろう。
水を生み出すといっても何もないところから出すのではなく、大気中の水元素を集めて作り出しているわけだが。
砂漠に近づくにつれ、その水元素が減ってどんどん感じづらくなった。
結局、砂漠の町に行くまでもなく「こりゃ無理だ」とあきらめて来た道を引き返した。
今、俺は、とある町の小さな宿で働いている。
砂漠の町で夢見たようにはいかないが、町の井戸から宿の場所は少し離れていて、水汲みの苦労がなくなったとそれなりに重宝されている。
俺が物語の主人公のように大成することができなかったのも、そんなことくらいにしか役に立たない水属性の魔法にしか適性がなかったからだ。
そう呪ったこともあったが、元は旅の途中で宿代が払えなくなってここで働くことになった俺を、宿の主人夫婦がよくしてくれるうちにだんだんその気持ちも薄れてきた。
最近は、主人夫婦の一人娘とも、ちょっといい感じになりつつある。幸い、宿の両親もどちらかといえばそれを歓迎してくれている。
いずれは宿の後を継いで、この町に骨を埋めることになるかもしれない。
それも、悪くはない生き方に思えるようになった。
地属性が不遇? そんなことはない。
水属性の方が、よっぽどそう呼ばれるに相応しい。今でもその考えは変わらない。
でも、それは魔法の威力が優劣を左右するのに直結するような、冒険者なんかの一部の職にこだわる場合の話だ。
身の丈にあった、分相応の幸せを得ることができれば、属性なんかどうだっていい。
本人が掴んだ幸せに満足できているなら、属性の優劣なんてものはそこには存在しないんだ。
転生オークの方で、最近やたら便利に地属性を使っているので属性に対する私のスタンスを書いてみました。
あくまで私の中の設定イメージ・見解であり、他の方の設定やイメージを批判する意図はありません。