第三章 上 ワタキは……
二年半前、母親と子供が離れ離れになる悲劇が生まれた。
二年半後、悲劇は四臣家の乱を生んだ。
母親の身の安全を考えての『離す•離さない』の二択、誰もが出した『離す』という答え。
二年半前、二択に対して『どっちでもない』と言った者が一人いた。
二年半後、『どっちでもない』と言った者は解明と立証に二択の過程を問う。
学慈街南の街二階建ての民家、リビングでくつろいでいる慈桜勇也•ミルク•渓谷蒼•未智明流、この民家は南原苗木の家だ。
3時のオヤツ代わりの食事を終わらせた5人、勇也•ミルク•苗木はテレビの前に陣取り、明流はソファに俯せになり青樽美酒の看護を受ける。
ミルクに合わせているのか苗木が好きなのかテレビでは魔法少女系のアニメが流れている。勇也は「なんだコレ?」と頭に? を浮かべるがミルクと苗木は興奮しながら見ていた。
渓谷蒼は電源の切れた携帯情報端末を眺めている。
いつもなら暇を持て余すと携帯情報端末で好きな漫画やアニメを見て時間を潰す、だが、今は追われる身、電源を入れる事が出来ない。そもそも、今の蒼は漫画やアニメの事を考えていない。
「勇也? ミルクを母親から離してる理由を教えてくれないか?」
遠回しに聞くというのは蒼の中には無い。
常識の範囲内で相手を尊重し遠回しに聞くという会話の方法はあるが、常識の範囲内で遠回しに聞くしかない事なら蒼は聞かない、相手から話してくるのを待つ。
しかし、今は勇也から話してくるのを待つ時ではない、勇也が朱の血筋と知り、二年半前に父親に出された問題が『現実』だった事を解った今は、勇也から真実を聞き、解明と立証をしなければならない。
ミルクは母親を鬼と言っていた、鬼と言うからには理由がある、更に、西桜臣家がミルクを『返せ』と言ったからには100%の理由があり、もしも私情だとしても100%の理由がある、どちらにしても東桜臣家が問題を解明し立証しなければならない。
勇也はテレビに向けていた視線を蒼に向ける、話し難いと言う苦笑いを浮かべながら180度身体の向きを変えて蒼と向き合う。
「朱の血筋の事情なら四臣家は知ってるんじゃないか?」
今まで聞いた話しを総合すると自分達の事情は四臣家なら把握している、と勇也は思う、話しを省略する為の確認だ。
蒼はその確認に勇也は話す気があると解り、自分が二年半前に父親に出された問題を話す。
「二年半前に親父に一つの問題を出された、その問題が『現実』だったと知ったのは入学式に勇也とミルクが慈桜家として現れ、西桜臣家が勇也に刃を向けた時だ、あの時に『現実』だと親父が言っていたらと思うと腹が煮え繰り返る」
笑み顔には父親に対しての怒りが込み上げている、それは他の四臣家の親に対しても同じ、自分が四臣家である事を放棄した理由である『自分以外の四臣家は朱の血筋の為に死ぬ覚悟が無い』、それを作ったのは勇也の代の四臣家では無く、『現実に起きている問題』、だと言わなかった現四臣家当主達なのだから。
今日出会った四臣家の連中は、『現実』だと解っていたら朱の血筋の為に命をかける、と蒼なりに解ったのだ。
勇也は天パ頭を掻く、テーブルにあるお茶が入るボトルを取り蒼の分と自分の分に注ぐ。
「たぶん蒼の親や他の四臣家の親は、問題を出して四臣家である子供の意思を見たかったんじゃないか?」
「当時の俺等が未熟だった、ソレを親等が言い訳にするなら四臣家なんか無い方がいい、
真実を知っていた西の分家が今の今まで我慢してきた事を考えたら『俺以上に四臣家である自分を捨てている』、
俺は勇也から真実を聞いてから勇也の代の東桜臣家として動くか西の分家のように私情で動くかを決める」
どちらに転んでも勇也の味方だと言うように表情を和らげる、蒼の怒りの矛先は親達、現四臣家なのだ。
勇也は今日まで四臣家という存在を知らなかった、自分が父親として不甲斐ないから母親である礼実とミルクを離す事になったと思っている、誰の責任でも無い、今の現実を生んでいるのは自分自信であり、蒼が自分の家の家業と天秤にする事では無いと思う。
勇也は親だからこそ『現実だ』と言えなかった親達の気持ちが解る、蒼も他の四臣家も将来子供が出来たら解る事、だが、蒼は答えを急ぐ、おそらくは美礼も答えを急ぐ、この答えを急ぐところが親になった人間とならない人間の差になる。
勇也には親心と今の蒼達の気持ちを天秤にかける事は出来ない、出来れば親子間に波風が立たないようにしたい。
「東桜臣家として出された問題は?」
親達がどうやって自分達の事を伝えたかの確認、あくまでも波風を立たせない為に。
「俺が親父から出された問題は、朱の血筋と西桜臣家との間に生まれる子供に西桜臣家の結婚相手が対応出来ない場合、その西桜臣家の結婚相手を『保護』、朱の血筋に教育の全面を任せる、という改正案だ」
「改正案?」
「朱の血筋は20年置きに生まれ、それに合わせて四臣家の第一子も生まれる、
二十歳の西桜臣家の結婚相手が、朱の血筋とはいえ子供に対応出来ないとは考えられて無かったんだ」
「20年置きに生まれる? そんな決まりがあったのか?」
「難しいもんじゃ無いんだ、朱の血筋が学園で出会った西桜臣家の結婚相手に、恋愛感情が芽生えるまで、3年前後の時間がかかるんだ、
理由は『結婚相手と恋愛をするより学園で暴れてる方が楽しいから』みたいだ、この辺は朱の血筋じゃないと解らない、
まともに恋愛感情が湧くのは学園卒業後、生殖活動に至るまではまたその後、結果は誰が決めた訳でも無く、朱の血筋は20年起きに生まれる、四臣家が勝手に朱の血筋の生まれる年に合わせて子作りをしているだけだ」
「改正案って朱の血筋の家庭には何か法律でもあったのか?」
「朱の血筋の家庭というより、朱の血筋には朱の血筋の秩序•教育•法律がある、
その中の教育に『箱入り教育』というのがあって、内容は簡単に言うと家の敷地内から出さないって感じだ、
その教育の中から今回の事で解りやすいのを例に出すと、5歳まで朱の血筋と西桜臣家の夫婦が子供に付きっ切りになる、だな」
「別居が改正案になる意味が解らないな」
「いや、コレが朱の血筋だと改正する問題なんだ、5歳からは祖父母と子供を対面させ各街の慈桜家仮屋敷で遊ぶ、この祖父母を度外視しても、朱の血筋だけに育てられ教育を受ける子供は『一般人から見たら』どうなんだ? 四臣家を知り民を見た勇也の意見を聞かせてくれ」
四臣家を知り民を見た、と付け加えるが勇也の納得する表情から、必要無かったな、と安堵する気持ちになる。
「四臣家から見たら改正案だな、礼実が子供を産んだというのを隠し通したとしても、礼実が街にいる期間を計算したら、西桜臣家からの教育を受けてないと民は思う、朱の血筋だけで子供を育てていたと民が知ったら『政治的には』四臣家から人心が離れる」
自分の幼少期を考えた結果、朱の血筋である母親と西桜臣家の父親の教育では印象に残り見習うべき教育は父親にある、と勇也は思う、もちろん父親に見習ってミルクにも同じ教育をしてるが自分は朱の血筋、民からの政治的な安心感は与えれない。
「俺等の代の朱の血筋は男だと聞いていた、問題も朱の血筋が父親という設定になる、西桜臣家の母親が子供に対応出来ない前提の問題だ、
母親の命を守る為に『保護』、そして朱の血筋に教育を任せる、それか、母親を子供から離さず今までと変わらない教育を続ける、
俺等四臣家は『現実』とは言われずこの問題を出された」
二年半前に蒼を含めた勇也の代の四臣家が『現実』だと知らされずに出された問題は親達が考えた問題では無い、正確には——
「(俺が礼実とミルクを離すと言った事で、四臣家の乱れを作り、民の不安を生んだのか……)」
……と自分の判断と決断が招いた問題だと理解、自分の一族がどれだけ人類を振り回す存在なんだ、と自分と人類の間には埋められない溝があると改めて感じてしまう。
自分の出した答えは母子を離す、四臣家の答えも母子を離す、共通するのは弱い者を護る為、ホッとする安堵感は無い、一を捨て万を救い、万を捨て一を救うのが四臣家、四臣家の親達は『ミルクの為に四臣家である子供達の意思を捨てた』、弱い子供達の四臣家である立場と朱の血筋を天秤にかけた結果、子供達の『現実』という意思を捨てたのだ、将来四臣家の乱を生むと解っていながら。
親である勇也には解る、四臣家の親達は子供達を信じたのだ、二年半前に現実だと知らなく出した答えが、二年半後に乱れを生み、自分達が自分達の力で解決すると。
「蒼? 母子を離すというのを決めたのは俺だ、俺が礼実とミルクを離す事を決めて、蒼の親達はその俺の判断と決断に四臣家として答えを出しただけだ」
原因は親達では無く自分にある、と言う。
「そうだろうな、」
勇也の言葉を肯定する、勇也ならそうすると出会った時から解っていたからだ、更に続ける。
「だが、俺は問題を出された時に『母子を離す』なんて言ってない」
親達の考えやソレを擁護する勇也の発言を否定する。
「!、離さない? って事か?」
「いや、離す離さないじゃなく『どっちでもない』んだ、
朱の血筋の父親が子供の気持ちも解らないアホなら『四臣家が父親に教えればいい』、子供が離れたくないなら『四臣家が母親から離さなければいい』、母親が死んじまうなら『四臣家が死んで母親を生かせばいい』と俺は親父に言った」
「……。」……絶句。
「結果は東桜臣家の答えは保留、俺が出した答えは東桜臣家としての発言と俺の強さに見合って無いと判断され、母子を離すのに反対では無く保留になったんだ、俺が四臣家である自分を捨て、四臣家が無い方がいいという理由の一つだ、
強さが見合って無いだの未熟だのは四臣家には関係無い、朱の血筋の為に死ねない四臣家はその時点で四臣家では無い」
あっさりと迷い無く二択の天秤をひっくり返す、勇也の前には渓谷蒼では無く四臣家としての渓谷蒼がいる、自分の為なら、ミルクの為になら、命をかける東桜臣家の渓谷蒼がいる。
勇也は動揺していた、二年半前に蒼がいればどうなっていた? 二年半前に美礼がいればどうなっていた? 二年半前に……二年半に……と、だが、二年半前に親達は蒼の答えを保留にした。
保留にした理由は簡単だ、蒼以外の四臣家の子供達は蒼と同じ答えに行き着け無く、力も未熟だった。
意思も未熟、力も未熟、そんな連中が自分の元に来たら心配事が増えるだけ、迷惑なだけだ、せめて蒼のように礼実のように意思だけでも、と勇也は思うが、二年半前に礼実が死にかけた状態で街に降りて行ったのを鮮明に思い出す、未熟ではダメだ、やはり意思に見合っていないと犠牲を増やすだけだ……と完結する。
勇也は親達と子供達に波風が立たないようにしたかった、しかし、親達は子供達からの波風を受け入れ『未熟』の一言で子供達を圧倒する、勇也は奥歯を噛み締める、自分の未熟さから生まれた問題、その生まれた問題は自分では解決出来ない、2年半前も今も無力な自分に呆れてしまう。
コップに入るお茶を一口飲む、両手を重ね、蒼から視線を逸らし二年半前の真実を話す。
「俺は自分の血筋の事情を今の今まで知らなかった、無駄に強過ぎる肉体から人里から離れて暮らさないとダメだ、と蒼と出会うまで思ってたぐらいだ、
強い肉体も、ガキの頃に俺が母親に対して全力で向かって行っても母親はいつも子供扱いだったからな……ソレが俺の常識だった、3歳で礼実と出会いいつも俺から距離を空けてるのに違和感があった、……そこで気づくべきだった……
歳が10歳になり礼実が手を繋いできた、俺が力の加減が出来るようになったと解ったんだ、……ここでも気づくべきだったんだ……それから2年ぐらい経ってミルクが生まれた日、気づかなかった俺の常識が非常識だった事を知った、
強い肉体からの力は、弱い母親の母乳を飲み干し、乳房を握る手は肋骨を折り、絡む足は内臓を破裂させた、あの時程自分の馬鹿さ加減を恨んだ時は無い、
礼実はそれでもミルクの為に母乳を与えようとした、何度も、何度も……涙一つ流さず、俺を責めず、頼らず、立ち上がった、
俺の出来る事は蘇体治療だけだった、未熟な蘇体治療で礼実を治す度に精度が上がる実感はした、でも、礼実の身体には相応の負担がある、
ミルクが産まれて1ヶ月も経たない内に立ち上がるだけで顔に苦痛が浮かぶようになっていた、
その頃から俺の蘇体治療の限界を知った礼実は、無理矢理表情を作るようになり、ミルクの前では笑った顔しか見せなくなった、
ミルクは礼実が好きだから抱き着く、加減の出来ない力で歪まない母親の笑った顔が好きだから……」
無言になるリビング、テレビから空気を壊す魔法少女の音声だけが響く、誰もその音声には反応しない。
「子供に重症にされる弱い母親、それでも母親として勤めようと笑った顔で立ち上がる強い母親、その頃には礼実の表情は今と変わらなくなっていた、
だが、礼実を触った感触、一瞬見せる苦痛からの身体の硬直、3ヶ月4ヶ月と成長していくとミルクにも解るようになり、礼実を傷付けない為に避けるようになった、大好きな母親からだ……、
避けられる礼実の気持ちは不安定になっていった、身体は既に蘇体治療で補えないレベルまで重症、礼実を支えてたのは精神力だがミルクに避けられて崩れたんだ、
……、ミルクが最後に礼実を見たのは無理矢理自分を抱こうとした時に、手を振り回し礼実の顔面に直撃、死にかけた状態で微笑んで自分を抱こうとする……弱く……強い……自分が傷付けた母親の姿だ、
俺は大泣きするミルクを見て、礼実の意思を握り潰す遅い決断をした、俺が……」
「これからは俺がいる」
勇也に先を言わせないのは蒼、軽い男を彷彿とさせる笑み顔のまま更に続ける。
「勇也やミルク、西の本家には何の罪も無い、家庭内の問題だと思うな、そういう時にこそ四臣家が朱の血筋を支えて護るんだ、
朱の血筋に自分の罪だと思われたら四臣家のある意味が無い、朱の血筋の歩いた後には四臣家が歩き、その後ろに民が歩くんだからな」
一つ一つの言葉が胸を締め付け、自分の罪を自分だけの罪にしてくれない事を勇也は知る。
人類のヌシが人類を滅ぼした後に、自分の罪だと自己嫌悪の落ちたら? 自分だけの罪だと自己嫌悪に落ちたら? 自滅が始まり朱の血筋は絶滅する。
朱の血筋を護る四臣家が、朱の血筋の罪を背負い、残った人類と世界を創る、朱の血筋にはその世界を救い続けるという人類のヌシとしての責任がある、四臣家はその責任を朱の血筋に護らす為に朱の血筋を護っている。
「そもそも勇也と西の本家とミルクの事は俺等の代の四臣家が決める事だ、……」
ミルクの小さな背中を視界に入れる、小刻みに震える小さな身体をゆっくりと抱き上げる。
「悪かったな、俺が意固地にならずに他の四臣家に答えを変えさせたら、ミルクに寂しい思いをさせなかった」
声を殺し大粒の涙を流すミルクを見詰める、ミルクは蒼の笑み顔を見れば見る程に涙が流れ、声を出して泣きたいのを我慢する。
小さな頰に流れる涙、泣きたい気持ちを我慢する大きな瞳、蒼は右手で涙を拭う、まっすぐに見詰められる大きな瞳に3歳が背負ってはいけない悲しみを見る。
「俺が、ママとの『鬼ごっこ』を終わらせてやる」
「!」
「これからは泣きたい時に泣け、俺がミルクを泣かす辛い事を片付けてやる」
「ヴン!!」
まっすぐに自分を見詰める蒼の優しい笑み顔、その笑み顔は母親の作られた微笑み顔とは違う、その身体は自分が触ったら壊れる母親の身体と違い、どんなに強く触れても壊れない、その倍の力で自分を抱き上げる。
半年前、父親でも出来ない火を付ける『まほう』を見せてくれた。
半年前、父親以外に抱っこされても大丈夫だと解った。
半年前、ヌシに立ち向かう強い人間は父親以外にもいると解った。
半年前、父親以外に初めて持てた安心感は半年後の今も変わらず自分に与えてくれる。
父親と入れ替わるように森の中から現れた『まほう』の達人は、一緒にドラム缶風呂に入ってくれた、頭も洗ってくれた、ヌシから守ってくれた、半年前の思い出が涙と一緒に溢れ出る、自分はもう我慢しなくてもいい、今度も父親には出来ない『まほう』を見せてくれる。
「アオ!!」
「なんだ?」
「ワダギば!! マバとパバと!! いっじょにいだい!!!」
「わかった」
間髪入れず笑み顔で答える。
「俺が一緒に居させてやる、一緒に居させるだけじゃない、ミルクを抱けるママにしてやる、ママに甘えれる良い子にしてやる、約束だ」
ミルクの小さな小指に自分の小指を絡める、ミルクの力以上の力で絡める、ミルクはその強さに大きな声を上げて泣き崩れる。
勇也は目頭を熱くし涙を一粒流していた、自分では礼実とミルクを離す事しか出来なく、2年半もの間ミルクの悲しみを背負う背中を見る事しか出来なかった、ミルクと同じく安心感が心の底から湧き出る。
「蒼、俺はミルクが力を加減出来る日まで礼実から逃げる事しか出来ない、父親として情けない」
「何言ってんだ、そんなのは……」
「わだじぼやぶんだよ!!」(直訳•私もやるんだよ!!)
滝のように涙を流す苗木、バッと立ち上がり更に続ける。
「わだじぼ!! ミルグぢゃん!! まぼぶんだよ!!」(直訳•私も!! ミルクちゃん!! 護るんだよ!!)
「俺も……加わらせてもらう、朱の血筋を護るのは四臣家だけじゃない」
「やどぅよ!! やどぅんだよ!!」(直訳•やるよ!! やるんだよ!!)
苗木と明流の強い意思、勇也は初めての安心感と初めての繋がりに胸が苦しくなる、辛さからくる苦しみでは無い、今まで感じた事の無い居心地の良い胸の苦しみ、蒼•苗木•明流から湧き上がる意思の強さに繋がりという人間の本当の強さを知った。
蒼は苗木と明流に向けて言う。
「その意思、東桜臣家として俺が護る」
四臣家や一般人など関係無い、秩序で朱の血筋を護るのでは無く、法律で朱の血筋を護るのでは無く、朱の血筋を『護る意思』で朱の血筋を護るのが東桜臣家。
【東桜臣家】
遺伝的な低い身長と軽い顔立ちから四臣家の中で一番狙われる。
西桜臣家の秩序と教育の元に振られる黒刃は『最狂』と言われ、南桜臣家の法律の元に振られる技は『最凶』と言われる。
それは本家と分家を問わず『最狂と最凶』は西桜臣家と南桜臣家になり、向かってきた者や狙った者を秩序と法律の元に裁く為、島民は『西の最狂の矛』•『南の最凶と矛』と呼ぶ。
対して四臣家としての役割が科学になる東桜臣家には裁きは無い。
遺伝的な低い身長と軽い顔立ちから狙われ、四臣家内では最弱と言われる東桜臣家、しかし、狙われ続ける中で現代まで四臣家の地位に立ち続ける抑止力が東桜臣家にはある。
それは——
意思を持つ者への意思の向き先の矯正、『おしおき』という名の抑止力、未来への意思を育てると言った方が正しい。
現状は、西桜臣家の秩序と教育の元に矯正され殆ど出番が無い、南桜臣家の法律の元に矯正され全く出番が無い、四臣家の中で影が薄く最弱と思われ狙われるのは、戦闘狂の西桜臣家と戦闘凶の南桜臣家が好戦的で働き過ぎという事情がある。
しかし、東桜臣家と闘った者は口を揃えて言う言葉がある。
東桜臣家の右腕は大義を護る盾、東桜臣家の左腕は犠牲を厭わない盾、その意思の盾は秩序と法律の元に振られる最狂と最凶の矛でも貫けない『最強の盾』と。
犠牲を厭わない最強の左腕はミルクを抱き、大義を護る最強の右腕は勇也の肩を叩く。
「『俺の大義は成った』、勇也が俺の代の朱の血筋なら、俺は勇也やミルクの東桜臣家になる」
軽い笑み顔と軽い口調、だが、その軽い笑み顔と口調は『意思を持つ者』を呼応させ、大義と犠牲を背負わせる。
「私も東桜臣家だよ!!」
「俺もだ!!」
決起を入れる苗木と明流、ミルクは強く蒼に抱き着く、勇也は慣れない繋がりに苦笑いをするが蒼の軽い笑み顔に自然と笑顔が出る。
5人はリビングを後にする、苗木は階段を上がり二階に行くと数秒して戻る、明流は蒼が肩を貸そうとするが「大丈夫だ」と強い表情で言う。
そして、5人は西の街にある慈桜家仮屋敷に向かう。