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朱の足跡 fast contact  作者: 有知春秋
ミルク編
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第二章 上 人類のヌシルート

 

 畑の多い住宅地を走るのはオカッパ幼女ミルクを背負う天パ頭の慈桜(じおう)勇也(ゆうや)、その後ろを大怪我をする少年を背負うV字前髪の渓谷(けいこく)(あお)が走る。


 蒼が背負う少年は、勇也の蘇体治療で塞いだ傷口が開いてしまい走る振動に合わせて痛みが襲う、体力の低下もあり息を切らし青ざめた表情をしている。


 チラッと背後に振り向き追っ手がいないかを確認、少年に視線を向け、「限界だな」と呟き、前を走る勇也を見る。


「勇也!? 追って来てない! こいつも限界だ! 一旦休憩するぞ!」


「わかった!」


 走るのを止める、ふぅと息を吐くだけで勇也も蒼も息切れはしていない、大怪我をする少年だけが息切れをしている。


 手入れの行き届いた畳二十畳程の畑の前に木製の長椅子(ベンチ)、蒼は俯せで少年を寝かせる。


「す、すまない、俺はここでいいから、逃げてくれ……」


「勇也がそうするなら置いて行くが、最初からどこかに置いて行くなら学園に置いてる」


 少年の言葉に対して否定を返す、手入れの行き届いた畑をチラッと確認、人の気配はあるが危険性は無い、続けて畑の左右にある平家の民家と背後にある二階建ての民家を見る。


「勇也? 朱い眼で空き家になっている民家を探してくれ」


「?、なんでだ?」


「学慈街に限り、慈桜家の屋敷の敷地内には四臣家の屋敷もあるんだ、西桜臣家があの調子だと……」


「家無しだな」


 桜庭(さくらば)礼実(あやみ)がいた時点で予想が出来た結果だった、本音では山の奥に帰りたいところだ、そんな勇也の思いとは逆に蒼は話しを続けていた。


「さっき間に入ったのは北と南の分家だと思う、西の分家が北の言う事を聞くとは思えないが南の分家が動いたら更に問題がデカくなるから北がなんとか止めるだろうな」


「んっ? 北に南の分家?」


 新たに四臣家という名の友達候補が出て来る、美礼の例もある為、都会の現実にショックを受けないように前以て聞いてみる。


「北と南の分家ってなんだ?」


「そうだなぁ……四臣家をまとめて話したら解りやすいな、」


 一旦言葉を切る、勇也がよそよそしくコクッと頷くと更に続ける。


「四臣家は本家四家と西と南のニ分家がある、それぞれ役割があって簡単に言うと『東は科学』『西は秩序と教育』『南の本家が法律』『北は慈桜家代行』、……」


「慈桜家代行?」


「朱の血筋は興味のある事しかやらないだろ? その朱の血筋の政治と四臣家の政治を取り持つ……(あっ、わかってねぇ……)、勇也の代わりに政治をするって感じだ」


「……、話しが見えないぞ? なんで俺に政治が関係あるんだ?」


「簡単に言うと、朱い眼を持つ勇也の一族は人類のヌシなんだ、

 山の中とは違って人里には人がいる、人がいれば秩序がないとダメだろ? それには教育も必要だ、それを朱の血筋の代わりに西桜臣家が護っている、

 そして人同士が共存する為には法律が必要だ、それを朱の血筋の代わりに南桜臣本家が護っている、立場上法律を乱した者を裁く死刑執行人でもあるから、民はおろか四臣家にも南桜臣本家の情報は無い」


「……。」


 勇也には蒼の説明が理解出来ない、政治といえば山の中の弱肉強食の知識しかなく人間界の政治はおろか常識も無いのだから。


 蒼は理解していない事を前提に更に解りやすく説明する。


「人間はバカだから政治が無いと争いしか生まない、それこそ後先考えない弱肉強食の世界を生む、朱の血筋は弱肉強食の世界を好むし強いからいいが、弱い人間は違うだろ?、

 その弱肉強食を好む朱の血筋という人類のヌシの代わりに、北桜臣家を中心に四臣家が人類と朱の血筋の間に入り、政治を(おこな)っているって感じだ 」


「そ、壮大だな……、南の分家は?」


 蒼は人類のヌシと当たり前のように言うが、勇也は山の奥の更に奥の森の中から出て来た超草食(こじらせ)系男子、都会に出て来て自分の血筋が『朱い眼になるだけ』で、人類のヌシだの政治だのと言われても実感は無い、都会はどうなってるんだ? と困惑し迷える子羊になるだけだ。


 蒼は急に人類のヌシだと言って、「はいそうですか」、と勇也が納得しないのは解っている、だが、四臣家の立ち位置だけでも最低限知ってもらわないと今後に響くと考える。朱の血筋の優れた記憶力は今現在解らなくても切っ掛けがあれば絡まる糸が解けるように理解する為、勇也の迷える気持ちを無視するように深くは言わず質問に対して答えるのみ。


「南の分家は『朱の血筋の護衛』だ、朱の血筋を絶滅させようと暗躍する連中から朱の血筋を護る、

 他の四臣家も朱の血筋を護るんだが少し厄介で西は秩序と教育を元に南は法律の元にというめんどくさい制約がある、

 南の分家はそんなの無しに、朱の血筋に対して不穏有りというのが解った時点で、朱の血筋の法律に従い死刑執行に動く」


「南の分家は護衛か……北と南の分家は殺人女と堅物女と違って仲良く出来そうだな」


 勇也の言う殺人女(さつじんおんな)とは松庭(まつば)美礼(みれい)堅物女(かたぶつおんな)とは桜庭(さくば)礼実(あやみ)である。


「西桜臣家の方が人間的な付き合いが出来るだろ?」


「出会って速攻殺す宣言する女と人間的な付き合い?」


「気持ちは解らないでもないが……勇也は知らなかったと思うが、朱の血筋が唯一異性に見える結婚相手を生む一族が西桜臣家だ、

 西桜臣家が絶滅すれば朱の血筋も自動的に絶滅する、南の分家が朱の血筋を護るように、西桜臣家の人間は西桜臣家から生まれる朱の血筋の結婚相手を護る、簡単に説明するとこんな感じだ、人間的な付き合いが出来るのは西桜臣家の人間なんだ」


「それは異性の認識なだけで男と女の違いは解るぞ?」


「違いと認識で人間的な感情はだいぶ違うんだ、異性なら特にな、

 簡単に言うと西桜臣家の異性の裸を見たら人間的な興奮や恥ずかしさはあるが、西桜臣家以外の異性だと同じ身体の構造なのに他生物に感じて何も感じない、致命的な感情の欠落だろ?」


「なるほど」


 勇也は西桜臣家を理解し納得する、そして西桜臣家は朱の血筋の結婚相手を生み、その結婚相手を護衛をするというのも簡単な説明で理解が出来た。


 そして絡まる糸が解けていく、まずは人類のヌシとその結婚相手に護衛をつけない理由など無い。


 更に、蒼はオブラートに包んでいるが『ヌシが政治をしない自由人』だから北桜臣家が代行になると言っている。


 理解は簡単だ、人間的な感情の欠落(ズレ)があっては、朱の血筋と一般人の間の秩序•教育•法律にも欠落(ズレ)が出る。


 勇也は人間をある程度理解し自分視点から巨漢熊(ヌシ)の気持ちと人間の気持ちを考える。


 朱の血筋と熊だから弱肉強食の元に分かり合えた、が人間は別、強くなりたい人間には自分なりの弱肉強食の教育は例題として教えれる、だが、秩序と法律は朱の血筋の感情の欠落と人類の感情の差から『他生物間の共存という形が最初から出来上がってしまう』、その規模が山や街という縄張りでは無く、人類丸ごとの地球、考えた末の決断は「さすがに重い」と感じてしまう。


「よし、山に帰る」


「帰っても運命は変わらないぞ?」


「ミルク? 人類のヌシになりたいか?」


「ワタキは山の神様の見習いじゃ」


 ミルクは蒼の言っている意味を大半理解していない、理解してるのは勇也が人類のヌシになり、将来は自分も人類のヌシになる、という事だけ。だが、ミルクの将来の夢は山の神様、人類のヌシなんかをやってる暇はない。


 勇也は人類のヌシという将来を受け入れる気は無い、親としてミルクに予定以上の重荷を将来に残す訳にもいかない。従って——


「よし、山に帰るぞ、蒼? 山でひっそりと暮らすが来るか?」


 人類のヌシルートから脱線する事を選ぶ。


「どこに居ても朱の血筋がヌシには変わりないぞ?」


 脱線するなら付き合うが、と軽く付け加える。そもそも蒼は東桜臣家当主という後継者ルートから脱線している、勇也が人類のヌシルートを脱線するなら万々歳。


 しかし、無責任な行動には多大な責任が降りかかるのを解っている、蒼なら妹茜に当主という重荷を背負わす無責任からの責任、それが人類のヌシを放棄したら地球規模でどんな責任が降りかかるかは未知数。


 勇也は先日まで山奥の更に奥の森の中でひっそりと暮らしていた、「まずはここを縄張りにするんじゃ」と山の神に言われウキウキワクワクしていた。


 ところが街に入ったら何もしていない自分に刀を握り締めて向かってくる連中、この辺は可愛いもんだ、と笑ってやり過ごせる、だが、本気で自分を殺しにくる殺人女(みれい)が現れる。


 更に、山の神が言う『まずはここから』とは、後々は人類丸ごと? 山神それは詐欺だろ? とツッコミを入れたい、縄張りなんだから目の届く範囲手の手の届く範囲希望だ。従って——


「蒼? 昔初めて海を見た時にその広さに驚かされた、水平線の先には何があるんだろうな?」


 ……と水平線の彼方に逃亡希望を蒼に推進する。多大な責任? 逃げ切ってやるぜい、と含ませ自信に満ち溢れた顔をしている。


 しかし……


「勇也が滅ぼしたくなる汚ねぇ世界だぞ? 化学兵器や化学物質で大気汚染はする、弱い者を下げずる、金と欲にまみれた人間が上に立つ、弱肉強食の意味を履き違えた御都合世界という名のネバーランドだ」


 化学兵器は戦争をしない為の抑止力、化学物質はより良い生活を送る為、弱い人間を助ける支援制度、金と欲にまみれて自己満足に浸る人間は極一部、勇也の知識にある弱肉強食の世界とは違う世界の見方があるとは言わない、それは、勇也が学園で色々な人間に出会い自分で学んで行く事だから。


「よし、蒼? 滅ぼしに行くぞ」


 間髪入れない返答、世間知らずの超草食(こじらせ)系男子勇也の思い描く世界は、蒼が言った極一部の世界になる、そして知識が山の中しか無い弱肉強食を好む朱の血筋なら、『滅ぼす』、と簡単に口にしてしまう。


 朱の血筋なら、『滅ぼす』、と言うのは解っている、ソレに対して説得などしない、それが朱の血筋から見た人類なのだから。


 しかし、勇也は明らかに人間を知らなさ過ぎる、それは一方通行の虐殺(ぎゃくさつ)しか生まなく、一方通行の殺戮(さつりく)を繰り返して行くだけの恐怖政治しか生まない、勇也に人間を解らす為『知識と経験』を学ぶ事を教える。


 好奇心が強く弱肉強食寄りの考えが強い朱の血筋を『安全に人類のヌシルートを歩かせる為』であり、四臣家が歴史から学んで来た朱の血筋の誘導方法。さすがの蒼も人類滅亡の種を植える気にはならない。


「その辺は大人等が何とかしてくれている、それに、ただ滅ぼすだけじゃ弱い者は弱いままだ、

 気に入らない人間を滅ぼしても、弱い人間の中の強いヤツが同じ事を繰り返すだけ、

 勇也にはまだ人間関係の知識と常識が足りない、世界に出る手始めに学園にいる気に入らない連中……自分勝手な御都合主義者を勇也なりに『どうにかしてやれ』、

 こいつを助けたのは朱の血筋らしく無いとは思ったが、勇也がそうするなら俺は賛同する、世界は人間を知った後のそのまた後だ」


 学ぶ事は共存、知る事は人間1人1人の見分け、大事なのは一方通行の虐殺や殺戮という力尽くでは無く、世の中が滅ぼす価値しか無いのに滅ぼされていない事実を知る事、勇也には知識と経験が圧倒的に足りない、と含ませる。


「どうにかって? どうやるんだ?」


 名の無い島から出る気が満々だったが結局は、自分の性格、正確には朱の血筋の(サガ)から人類のヌシルートを歩くはめになる。


「死ぬのは結果なんだろ? その辺は東桜臣家として『肯定も否定』もしない、勇也が次の代のヌシなんだ、勇也の好きなようにやれ、四臣家はその道を綺麗に舗装していくだけだ」


 勇也が人間関係を知り、知識と経験を得た後に『人類を滅ぼす』と言ったなら、『ただそれだけの事』、勇也が殺さなかった人々と新しい世界を作って行くだけだ、と含ませる。


 チラッとベンチで俯せになる少年を見る、自分が巨漢熊(ヌシ)から学んだ事を正しいと思っても、この少年のように弱い人間には重荷なのかもしれないな、と思う。


「とりあえず空き家だな、ミルク? 薬を塗ってやれ」


「わかったぞ!」


 背中から飛び降りるとコンパクトケースを出し少年の傷口に薬を塗っていく、先程、動揺していたとはいえズブッと刺してしまったので、集中力を上げスポーツ選手でいうゾーンに入り、指先をプルプルと震わせながら薬を塗っていく。そんなミルクの指先を見る少年は、生きた心地がしなく引き攣った表情をしている。


 勇也には少年の引き攣った表情は見えない、自分の人類のヌシルートの事で頭がいっぱいだ、頭の中で錯綜する蒼の言葉をまとめていく。


 自分には人間関係の知識と経験が圧倒的に無い、皆無だ、まずは人間を知る為に学園のヌシになる事から始めるしかない、人類のヌシになるかならないかはその後、『人間とは何か?』、『人類とは何か?』、を自分が知るところからだ!と意気込む。


 勇也は朱い眼になる。


「んっ?」


 畑の中で猫背になりプルプルと震えながら手入れをするショートボブの少女がいる、チラッと勇也と目が合いビクッと身を震わせる、その怯える姿に『人間とは何か?』を知る道のりは果てしなく遠い事を悟る。


 超草食(こじらせ)系男子の勇也では苦笑いを少女に向ける事しか出来ない、精一杯の苦笑いで人間を知ろうとする朱の血筋だが、ササッと背中を向けられサササッと畑の端へ避難される。勇也の心にトラウマが出来上がった。


「(こ、これが人類……殺人女(みれい)堅物女(あやみ)みたいな危険度が無い変わりに怯えられてる、そんなに俺と人類には距離があるのか)」


 挫折しそうな気持ちを抑え、ベンチで俯せになる少年を覗き込む、視線が合う、苦笑いをすると苦笑いで返される。


 少年の苦笑いに心の中でガッツポーズをする、畑の少女から頂いたトラウマを少しだが解消、「まずは1人ずつだ」、と欲張らない事も巨漢熊(ヌシ)から学んでいる為、少年を休ませる家を探すところから始める。


 朱い眼になる視線を畑の左右にある平家の民家に向ける、続けて背後の二階建ての民家に向ける。


「半径50メートル圏内の家は家具がある、空き家は無いな」


 朱い眼には透視能力があり体内や物質の中を視る事が出来る、そして朱の血筋が神と呼ばれる由縁、蘇体治療をする為の生物の源とも言える『蘇体』が視える。勇也が朱い眼で視える範囲は半径50メートル。


 朱い眼からの情報は医療機器のMRAやMRIやCTよりも精度が高い、そのままの血管•筋組織•骨•内臓•脳に至るまでそのまま視えるのだから。


 蒼は疑う余地もない勇也の言葉にため息混じりに返答する。


「新入生1000人に更に上級生だもんな、空き家は期待するだけ無理か」


「蒼? 灯台下暗しって言葉があるぞ?」


「灯台下暗し、俺の家って事か?……マズイ!」


 何かを思い出し慌て始める、ポケットの中にまさぐるように手を入れ、携帯情報端末を出し電源を切った。


「どうしたんだ?」


「遭難してから妹の茜が俺の位置情報を常に解るようにしたんだ」


「妹?(位置情報? マーキングの事か?)」


「勇也の嫁さんの隣に髪を二本に縛ったのがいただろ? 年は一個下だが飛び級して学園に入学したんだ」


「そうか、(飛び級ってなんだ?)」


 学校という概念が無い為、飛び級という言葉は解らない、兄妹で学園に来たと解釈する。


 勇也と蒼はベンチで俯せになる少年を見る、血は止まっているが痛々しい。


「勇也? 蘇体治療は出来ないのか?」


「蘇体から治して加速した自然治癒を肉体に与えてるのが蘇体治療だからな、治る分の負担は蘇体にも肉体にもあるんだ、

 傷口を塞いで傷痕を残すだけまで持って行けるが蘇体が弱過ぎて瘡蓋が限界だったんだ」


「一般人はこんなもんだ、勇也の腕が上がるかこいつの蘇体が強くな……」


『ズタボロなんだよ!?』


 突如割り込むように耳に入る少女の大声、キィーンと鼓膜を揺らす大きさに耳を塞ぐよりも先に警戒心を上げ声のした方を見る。その場には——


 プルプルと指を震わせゾーンに入りながら薬を塗るミルクと俯せになる少年しかいない。


 警戒心を更に上げ周りを見るが……


『熱もあるんだよ!!!!』


 ……と大声だけ届き、少女の姿は無い。


「勇也?」


 アイコンタクトで朱い眼になる事を促す。


「何も無い、声だけだ」


 朱い眼になりミルクの周りを見るが何も無い。


「俺等に気配を感じ取らせないヤツが西桜臣家にいるとは思えない、第一朱い眼で視えない事が有り得ない」


 パッ! と何の前触れも無くミルクと一緒に薬を塗る少女が現れる。


「なっ!?」


「はぁ?!」


 勇也と蒼は気配も何も無く『その場にずっと居た』ように現れた少女に驚愕する。


「私の薬もだよ!!!!」


 背中に手を入れジャジャーン! と自分で効果音を叫びながら(ツボ)を出す、身長130センチ、肩まである髪は癖毛で外に跳ねる、いや、寝癖だ、ヘアバンドで無理矢理押さえ付けている女子力0、小学生を思わす小柄過ぎる体型にはモンペと長袖シャツ、首にタオルを巻く、(はた)から見ればミルクと姉妹に見える。


「私の秘薬はスゴイんだよ!!」


 壺に手を突っ込み、禍々しい液体で手をベトベトにすると少年の背中にベタベタと塗っていく。


 勇也は少女に危険性は無いと見た目から判断し警戒心を解く、「変わった人間がいるんだなぁ」と少女の姿が視えなく気配が解らなかった事に疑問を持たず、未知を見る気持ちになっていた。


 蒼は警戒心を持続させている、朱い眼で何も視えなく気配も無い、『その場にいたように現れた』、普通では無い。四臣家としてこの少女を危険視する。


「お前? 何者だ?」


「?、秘密だよ!!」


 大音量の声に見た目が小学生、(はた)から見れば真剣な表情の男子高校生が女子小学生に声をかけて叫ばれている、同級生に見られたら明日(あす)には全女生徒から白い目で見られる事間違い無し。


 しかし、蒼には明日の白い目よりも四臣家として勇也とミルクを護る役割がある。


「秘密か、まぁいい、学慈街にいるって事は住民か? これも秘密とか言わないよな?」


 見た目から学慈街の子供と判断した。


「住民じゃ無いんだよ!! 明日光財学園の入学式だから来たんだよ!!」


「……、(同い年?……同い年!?)」


 光財学園新入生というのが真実なら警戒心を更に上げるところだが、寝癖少女の見た目から警戒心を上げる事が出来ない、それよりも——


「入学式は今日だぞ? それももう終わってる」


 警戒心を下げる、この寝癖少女に危険性は無い、壺から出す禍々しい液体の効能は解らないが傷口から白い煙を出す少年を見る勇也が「すげぇ薬だな」と言う事から警戒心を更に下げる。


「今日が入学式?」


 呟きながら頭に? を浮かべ蒼を見る。


「違うよ!! 入学式は明日だよ!?」


 曇りなき目で言われたら『西桜臣家の仲間』と疑う最後の警戒心も無くなる。


「今日だ、俺等は入学式に出てきた」


「明日だよ!! 明日なんだよ!!」


 断固入学式は明日だと言い放つ、入学式を心待ちにしているようだ。


 蒼は思う、この女には明日にでも現実を知ってもらおう、と。


「まぁ、お前が明日でい……」


「お前じゃないよ!? 苗木(なえぎ)だよ!? 加えて言うなら南原(なんばら)だよ!?」


 秘密だと言っただろ、と思うしかなく、めんどくさいのに遭遇してしまったとため息が漏れる、蒼は頭痛する思いになりながら最優先の『朱い眼で視えなく気配が無い』という苗木の未知を調べる。


「どうやって気配を消したんだ?」


「秘密だよ!! 加えて言うなら知らないよ!!」


「(こいつはそっとしておこう)」


 声がデカく、趣旨が掴めない、めんどくさいを通り越して関わりたくないハイレベルの煩いガキ、しかし、大ケガをする少年の現状や逃亡中の現状を考えると選り好みは出来ない。


「苗木? ソイツを休ませれる場所とか無いか?」


「???、家無いの?」


「学園で一悶着あって帰れないんだ」


「学園は不良がいっぱいだってパパが言ってたんだよ!?」


「その不良の元締めに狙われてる」


「大変なんだよ!?」


 苗木は会話の最中もパッ! と消えパッ! と現れるを何度も繰り返す、ミルクは薬を塗るのに集中して見ていないが、感情の起伏で消えたり現れたりする苗木を目の当たりにした勇也と蒼は「こいつ……おもしれぇ」と苗木を変な女からUMAクラスの珍獣に格上げした。


「パパの秘密基地がいっぱいあるんだよ!!」


 背中に手を入れ大量の鍵が付いたリングを出すと更に続ける。


「パパは出稼ぎマンだから家がいっぱいあるんだよ!!」


「マジか!? それ全部家の鍵か!? どんだけ所有してんだ!?」


「秘密基地だから秘密なんだよ!? 加えて言うならこの辺の家は全部秘密基地だよ!!」


「秘密にしてねぇだろ!? つか出稼ぎでねぇよ!? 不動産屋だろ!?」


「借りる人が増えれば私の小遣いも上がるんだよ!!」


「不動産家業を手伝ってるって事だな」


 なんとなくだが苗木の秘密という言葉の意味を理解、名前は自分にとって危険じゃないと解って名乗り、秘密基地は溜まり場では無く家賃を払って住むなら小遣いを増やすと父親に言われてるのだろう、と推測する。


「それならアレか? 家具とかある空き家って事か?」


「入ってからのお楽しみだよ!!」


 朱い眼で半径50メートルの民家の中を視ているとは思わない苗木、蒼も空き巣だと思われない為に言葉を止める。


 苗木に案内されるまま背後にある二階建ての民家に行く、玄関に入ると目の前には廊下と二階への階段。


 廊下を進むと左手に洗面所、ドラム式洗濯機が回っている事からこの家は苗木が住む家だと解る、洗面台には歯ブラシが二本、同居人がいるのか? とチンチクリンの苗木はともかく蒼は男として気になる。


 廊下を更に進みドアを開けると畳二十畳程のリビング、左側には大型冷蔵庫がある対面キッチン、カウンター台の下には収納扉がある、視界を右手に移すとソファ•テーブル•テレビのリビング3点セット、足元には高さ30センチ最長幅15センチの白い小樽、白樽美酒(しろたるびっしゅ)と側面にあるモニター画面に写し出されている、底部分にはブラシがあり自動稼働掃除機を思わす。


「たまげたな、テレビ•テーブル•ソファ•冷蔵庫•(しろ)樽美酒(タルビッシュ)、洗濯機もだが美岩街の最新家具家電だ」


「居心地重視の無料レンタル!! 学生や出稼ぎマンにオススメの秘密基地だよ!?」


「苗木? これだけの最新家具家電だ、白樽美酒があるなら樽美酒シリーズもあるのか?」


「あるよ! 樽美酒シリーズは必需品だよ!?」


 対面キッチンのカウンター下にある収納扉をガチャガチャガチャと開ける、その中から色と大きさが別々になる三つの樽が自動で出て来る。白樽美酒と同じく側面にはモニター画面がある。


 高さ1メートル最長幅50センチの木目柄、見たままそのままの樽には『樽美酒』と側面に書かれる。


「ジュース! お酒! 肉! 熟成する物ならこれ一台で簡単調理! 樽美酒(たるびっしゅ)!!!!」


 高さ80センチ最長幅40センチの青色、ピピッピピッとモニター画面に熱感知した5人の姿を映す。


「多少のケガなら任せろ! 看護用のぉぉぉぉぉ…………青樽美酒(あおたるびっしゅ)!!!!」


 高さ1.2メートル最長幅40センチの赤色、動き回る樽美酒シリーズの中で指示を待つようにしている。


「料理はお任せメイドさん!! (あか)ぁぁぁぁぁぁぁぁ樽美酒!!!!」


 苗木の力を込める樽美酒シリーズの紹介、興奮するのは勇也とミルクのみ。


 蒼は大怪我をする少年をソファに俯せで寝かせ、看護用青樽美酒のモニター画面を操作、上部の蓋部分が開き白い煙を出す、続けて側面から機能的なアームを出すと白い煙を少年にかけながら看護を始める。勇也とミルクは更に興奮、何故か苗木まで興奮する。


 続けて、蒼は苗木に視線を向ける。


「苗木? 赤樽美酒で食材の注文しとくから冷蔵庫の中の物で飯を食わせてくれ、もちろん金は赤樽美酒に入れとく」


「?、なにそれ? 赤樽美酒はメイドさんだよ? 料理作るだけだよ?」


「赤樽美酒の機能で、冷蔵庫の中の食材を記憶させたら、栄養バランスを考えて自動で発注してくれるんだ、金は……」


 ポケットから青色のカードを出し、赤樽美酒のモニター画面を操作、『チャージカードをかざして下さい』と表示される。


「チャージカードをかざせば後は打ち込んだ金額、とりあえず世話になってるし50000だな」


 モニター画面に表示される数字を50000と押し、チャージボタンを押す。


「これで赤樽美酒に50000チャージされた、チャージした金額分自動で買い物をする、

 日数を打ち込んだら節約料理、青樽美酒と連動すれば看護食、樽美酒と連動すれば飲食の両方、栄養バランスを考えた料理が毎日出て来る、洗濯機とも連動可能だ、

 樽美酒シリーズは常に部屋に出しといた方がいいぞ、警備システムもあるからな」


 勇也•ミルク•苗木は大興奮し大歓声を樽美酒シリーズに言い放つ。


「さすが都会だ!!」


「ゆとりじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ! ゆとりじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「知らなかったんだよ! 宝の持ち腐れだよ!?」


 笑み顔にどこかドヤ感を出す蒼、赤樽美酒と対面キッチンに向かうと冷蔵庫を開ける、モニター画面を操作するとそのまま戻って来る。


「俺としては、これだけの家具家電がさっきの鍵の数だけ置ける苗木の父親がスゲーと思うぞ?」


「パパはスゴイんだよ!!」


「おそらく経済の中核にいる親父さんだな、これだけの家具家電なら月の家賃20〜30万は固いぞ」


「?、パパは学園生なら学割で5万でいいぞ、って言ってるよ」


「5万!? マジか!? 赤字だろ!! 殺到するぞ!?」


「貧乏暇無しだよ!! 私の小遣い完全歩合制だよ!!」


 慈善事業をできる程の高所得者だと蒼は予想する、思い付く限りでは『保護区(エリア)内』で働く一部の超高所得者、「なるほど……」と1人で考えて1人で納得する、チラッとソファで横になる少年を見る。


「んっ? 楽になってないか?」


「かなり楽になってる」


「俺の薬草はそこまでの効き目は無いぞ」


「私の秘薬が効いたんだよ!!」


「(おそらくエリア内、親父さんが樹海で採ってきた薬草だな)、何から何まで世話になっちまったな」


「???、困った時はお互い様だよ?」


 ケガしてるんだよ? そんなの当たり前だよ、と言うようなキョトンとした表情をする、ハッ! と我に返ったように表情を戻し言い放つ。


「名前聞いてないんだよ!?」


「「おぉ!!」」


 思い出したと言わんばかりに勇也と蒼は声を上げる。


 ミルクは「ワタキとしたことが!」と白樽美酒に乗りながら一緒に掃除をしていた。樽美酒シリーズの耐久性は、ミルク程度の力では壊れないようだ。


「ワタキはミルクじゃ! 5歳じゃ!!」


「俺は勇也だ、今日慈桜って苗字がある事を知った」


「ミルクちゃんと慈桜勇也だね! (ふんどし)に『ヌシ』って書いてるからヌシだね!?」


「今は山のヌシだが、近々学園のヌシになる、いずれ人類のヌシになる予定だ」


「私は樹海の管理人だよ!!」


「世界中の樹海は苗木に任した!」


「任せろ!!」


 蒼は苗木の父親がエリア内で仕事をしている事を確信した、が勇也の慈桜とい苗字を聞いても何の反応も出さない事に違和感が出る。


 勇也と苗木の会話に割り込むように、ソファで俯せになる少年が自己紹介を始める。


「俺は未智(みち)明流(あける)、漁師街出身だ」


「漁師街?」


 返答したのは蒼、未智(みち)明流(あける)をマジマジと見る、怪しむというよりは珍しいといった感じに。


「漁師街なら光財学園じゃなく生産者育成学校じゃないか?」


「いや、俺もそっちが希望だったんだ、でも、慈桜家に一発入れれたら卒業後に船をタダで貰えるって聞いて……」


 罰悪く勇也をチラチラと見ながら言う、「それは安い船だな」と勇也が軽く言う為、気持ちが楽になる。


「それって将来は慈桜家や四臣家の立ち位置に昇るって訳じゃなく、漁師で生計を立てるって事だよな?」


「政治をやるお偉いさんの立ち位置なんて興味ない、俺は一人前の漁師になって海で生きるんだ」


「慈桜家に一発入れたら船って誰が言っていた?」


「教師とか大人連中が言ってた」


 蒼は大怪我をしているとはいえ勇也に拳を向けた明流を警戒していた、演技とは思わないが隙を伺っている可能性もあるからだ。しかし、明流本人は一発殴って船を欲しかっただけ、嘘を言っているようにも感じない、動機が浅いと呆れながら警戒を解消した。


「勇也や俺じゃなく、西や南の分家だったら死んでたんだぞ?」


「一発ぐらいなら殺されないかなぁ、なんて」


「アホ、少し考えたら解るだろ? 漁師街で広まるその話しはただの噂だ、教師とか大人連中は漁師街からの学園卒業生を増やしたいだけだ」


「マジ?」


「当たり前だ、学園を卒業したら経営権があるから、美岩街の船や機材を作る科学者からタダで使ってくれって言ってくる、美岩街からの船と農化街からの支援金を増やす為だ」


「マジ?」


「大マジだ、それに下克上とか考えてないなら慈桜家や四臣家の専属漁師って道もある、狭い門じゃ無いぞ?」


「専属漁師?」


「蘇体が強く肉体や脳の成長を止めない朱の血筋は、肉体を維持し成長させる為に大食だ、

 代々の家業として専属の料理人や職人を目指してるヤツも学園にはいる、でも漁師科目に関したら別、

 学園生は学園内で勝ち抜くのが前提だから漁師には海が絶対条件だろ? さすがの美岩街も学慈街の中の学園敷地内だけじゃ大海を作れない、そうなると漁師の実力を磨けない、だから漁師街の漁師には学園を卒業しなくても『船の受け継ぎ』が許されてる、

 因みに慈桜家や四臣家の専属になったら安定的な漁獲量を求められる、船を何隻も持って漁師を雇う事になるから、一代で三代先まで遊んで暮らせる分は軽く稼げる」


 言葉を失い口が塞がらなくなる未智明流、自分は根本的に何をしてたんだ、と言った感じだ。同じく、勇也も自分の一族事情を聞き口が塞がらないでいた。

 ミルクは白樽美酒に乗り、キッチン裏で機能性あるアームを側面から出し調理をする赤樽美酒を見ている、その床ではミルクの口から落ちたヨダレを、白樽美酒が微妙に動き掃除をしている。


「ヌシと四臣家って人はボンボンなんだね!?」


 苗木もボンボンなのだが、完全歩合制という小遣い事情から、自分の家は貧乏だと思っている。


 そんな苗木に、先程感じた違和感を問う。


「ボンボンどころか……なんで苗木は慈桜家を知らないんだ? それに四臣家も知らないのか? 島じゃ慈桜家や四臣家は知ってて当たり前だろ?」


「シマ? シマってなに? 新しいボンボン?」


「島だったのか? なんか山から降りて来たら異世界だな」


「「…………。」」


 勇也•苗木の世間知らずは同レベル、それも自分達が15年間住んでいた島を島だと知らなかったレベル、蒼と明流は額に汗を溜める事しか出来ない。


「ま、まぁ、後で教えてやる」


 笑み顔に動揺を出さないが口調は震える、「とりあえず」と言い更に続ける。


「明流と苗木は学園……いや、普段もだな、勇也や俺等四臣家に関わるな、一般生徒の的になって人質にされたり下手したら殺される、

 明流は解ると思うが勇也を殺す為ならミルクを背負っている勇也に斬りかかり、明流が斬られたように他人の命を斬り捨てる」


「不良だよ!? 青春(せいしゅん)が危険がいっぱい赤春(せきしゅん)だよ!? 加えて言うなら、遅刻ギリギリでパンを食わえて走っていたら、遅刻しそうなのにドンッと不良の争いに巻き込まれて、パンが鉄分臭い赤いソースまみれになるよ!! そんなピザ食べきれないよ!! チーズで隠しきれないよ!! 不良の鼻血最悪だよ!! キラキラ王子様の鼻血希望だよ!!」


「……。」……額から汗を流す勇也。


「……。」……あえてツッコまない明流。


「ネギトッピングじゃ!」……赤樽美酒に言ってるのか苗木に言ってるのか解らないがミルクの声が届く。


「お前余裕だな」……ミルクを無視、勇也と明流の気持ちを代弁する蒼。


 苗木はふぅと息を吐き満足感全開に言い放つ。


「私は天ぷらが好きなんだよ!?」


「「意味わからん!!!!」」


 勇也•蒼•明流は思いの丈をぶつけるようにツッコミを入れる。


 そんな中、赤樽美酒が箸や茶碗やお碗をテーブルに運び、炊飯器を始め大量の唐揚げを盛った大皿をテーブルに持って来た、他にも天ぷら盛り合わせやネギトッピングサラダがある。


 赤樽美酒がテーブルに食事を用意している間、苗木の天ぷら好き発言は聞き流し蒼は脱線した話しを戻す。


「俺等四臣家は島にある街を統治する為に作られた、一般の連中は学園を将来を掴む場として来てるが四臣家は学園はただの通過点、卒業してから街を政治をどうするかなんだ、

 明流や苗木と知り合った以上は困ったりしたら相談にのる、でも俺等は立場上狙われる身だ、狙って来た連中には手加減しないし、もしも2人が人質に取られても島の民全員そして世界の民全員と天秤(てんびん)にかけなきゃならない、

 命の重さを人数で計りたくないが俺等四臣家は、万の民を救う為に一の明流と苗木を切り捨てなきゃならない、一という朱の血筋を救う為に万の民を切らなきゃならない、

 ソレが四臣家に生まれた者に課せられる義務、明流や苗木が生まれた平和な世の中を未来にも残す為に俺等四臣家はあるんだ」


 苗木は話しの重さが解り、大好物の天ぷらを前にして真剣な顔で蒼を見る。ミルクはヨダレを垂らしてネギトッピングサラダを見ている。


「だが、朱の血筋勇也が学園生徒に愛想を尽かしたら話しは別だ」


「?、なんで?」


「朱の血筋は人類のヌシなんだ、島の民は人類の代表、そして世界を朱の血筋に滅ぼされない為に最低限の秩序と法律という抑止力を与えている、

 もしも、島の民が朱の血筋に愛想を尽かされたら、その最低限の秩序と法律という抑止力も乱れ、世界は乱れる、

 その乱れる世界の中には弱い人間が大半だ、朱の血筋は弱い人間を救うかもしれないが乱れる人間には容赦しない、

 四臣家は残った弱い人間と『また』世界を作り直すしかない」


「『また?』とは過去にもあったのか?」


「何度もあった、人類がホモサピエンスに至るまでの哺乳類だった時代に、何種類もの人種がいた、だが、生き残ったのは極一部、地殻変動や氷河期を『朱の血筋の能力無しで生きれると思うか?』、絶滅した人種は朱の血筋に愛想を尽かされた人種なんだ、

 更に言うなら、表上にある歴史書の中に時の支配者がいる、圧倒的な武力と権力があるにも関わらず、弱い武力しか無い者達に負ける、朱の血筋が時の支配者に愛想を尽かした結果だ」


「ヌシ一族は悪者退治してるんだね!?」


「一概に強い人間が嫌いで弱い人間が好きとかいう訳じゃ無いんだ、朱の血筋は弱い者には興味が無いし、強い人間を好むからな、

 その強い人間が問題で『気に入らない』の一言で武力を権力ごと潰され、弱い人間の中に自分好みの強くなりそうなのがいたら『気に入った』の一言で時の支配者に祭り上げる、

 結局は時の支配者が弱い人間を蔑ろにするから、朱の血筋の悪者退治になってるんだが、その裏では四臣家が秩序•教育•法律を作り直してる、

 文献の数だけ四臣家が朱の血筋に振り回されてきた歴史がある、東桜臣家が残してるんだがスゲー数だぞぉ、さて、ミルクも腹空かしてるし食うか」


 いただきまぁぁぁぁぁぁす!!!!と両手をパンッと合わせるミルク、自分用の箸を腹巻から出し食事を始める。3歳とは思えない綺麗な箸の持ち方だ。


 そんな中、勇也は額から大量の汗を流し苦笑い、同じく苦笑いの明流はソファで俯せになりながら青樽美酒にお粥を食べさせてもらう、そして苗木は天ぷらをバクバクと食いながら口元をテカテカにさせ蒼に言い放つ。


「私! モグモグ! 東桜臣って知ってるんだよ!」


「んっ? 知ってんのか? 俺は東桜臣家長男の渓谷蒼だ」


「東桜臣長男知ってるんだよ!? パパが言ってたんだよ!!」


「おぉ、苗木の親父さんみたいな実力者の口から俺の名前が出るとは光栄だな」


「東桜臣長男の将来は妹のヒモになるシスコンだよ!!」


 ぶっ!!!!……食べてる物を吹き出す蒼•勇也•明流。


「なんだそれ!?」


「お、俺も、その噂は聞いた事ある」


 青樽美酒に口元のお粥を拭かれながら更に続ける。


「研究をしない兄が妹をゴースト科学者にしていた説、シスコンが悪化して我が身を厭わず実験材料(モルモット)になった結果の死亡説、今の東桜臣家長男は妹に作られたというクローン説などなど」


「死亡説の時は私もパパと一緒に探したんだよ!? 本当は森で迷子になってたんだって!! 方向音痴(ウンチ)だよ!! ウンチのシスコンだよ!! シスコンクローンだよ!!」


「シスコンシスコンうるせぇ! 森の中では迷う為に迷ってたんだ!! 断じてウンチじゃねぇ!! それにクローンってなんだ!? こちとらオリジナル歴15年だ!! シスコンでもウンチでもクローンでも無い!!」



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