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〜南野病院〜

主人公、龍介の過去の話です。

〜2004年6月〜


龍介は大学に入ったころから不眠症で悩んでいた。

夜は全く寝れなくて殆ど寝れても4時以降、酷い時は一睡もしないような常態だった。

そんな龍介を見た教授が、龍介に話しかけたとき、龍介は「夜眠れなくて酷い」と教授に話した。

「ひとまず、病院に行ったほうが良い」

その教授の言葉で通い始めたのが、ここ『南野病院』だった。




南野病院は、精神科専門の病院で、鬱病から総合失調症、多重人格症などの患者が入院していたりする。



もちろん、龍介はただの不眠症で来ただけなので、外来患者なのだが、外の喫煙所へ行った時によくタバコを吸いながら入院患者としゃべったりはした。


とは言っても、龍介はあまり人と話すのは好きではないタイプで、話しかけられるのを「あ、はいそうですね」とか「へぇ、そうですか」とか、テキトーに返事をするくらいしかいなかった。








「こんにちわぁ、おじゃましま〜す」


タバコを吸いに喫煙所へ来る人がだいたいするあいさつ。


その日来たのは初めて会う人で、自分と同い年か少し年上くらいに見える女性だった。


「おじゃましてます。」


俺はいつものようにテキトーにあいさつをする。


その女性は外来患者の中年の男性と仲良さそうにしゃべっている。


俺にとっては好都合だった。その時喫煙所には自分とその中年男性しかいなくて、むこうでしゃべってくれてれば俺は誰とも話もしないで一人でタバコを吸える。

そんなことを考えながらもう一本、とタバコの箱をポケットから出したその時だった。



「・・・あっ!そのタバコ!!私と一緒〜!」


「・・・?」


ふとその声の主のほうを見ると、その言葉は隣の中年男性に向けたことばではなく、自分のほうに向けられた言葉だったらしい。

女性が嬉しそうな笑顔でこっちを見ている。


「・・・あ、これですか?」


俺は自分の手に持っていた赤いタバコの箱を見えるように上げてみた。


「そうそう!ポールモール!私もポールモールなの!っていっても私はライトだけどねっ。」


そういうとその女性は青いタバコの箱を差し出した。


「ポールモールって吸ってる人少ないよねぇ、おいしくって一番安いのにさぁ〜」


「ああ・・・安いですよね。」



その時、病棟のほうから看護師さんが出てきて「中川さ〜ん」と呼ぶこえがする。


「あ、僕の番だ、それじゃ今日は失礼。」


そう言うと中年男性は病棟のほうに向かっていった。ふりむきざまこっちに手をふりながら。


「またね〜、中川さ〜ん。」


女性は元気よく手を振った。


「ねね、今いくつ?」


女性はすぐさま俺のほうに話をふってきた。


「えっと・・・21です。」


「えっ、マジ〜?タメじゃん!私も21歳!」


「あ、そうなんですか。」


「そうなんですかって、タメなんだから敬語とか使わないでよ〜。私敬語とか嫌いなのっ。」


「あ、ごめん。」


「あやまんないでいーのっ。あのさ、名前は?何て呼べばいい?」


「日高龍介。」


「龍介くんね。あたしは山岸絵梨。エリってよんで。」


「・・・・・・うん、わかった。」


「あんま見ないけど・・・外来だよね?」


「うん、週1だよ。火曜日。」


「あ〜、そうなんだ!私入院だからさ、火曜日ってここ来ること少なくてね。火曜日ってトモダチあんま来ないからさ。あ、さっきの中川さん、ホントは毎週月曜と木曜なんだけど、きのう中川さんの担当の高木先生おやすみで、今週だけ火曜日になったんだって〜。龍介くんは担当の先生誰?」


「俺は松井先生だよ。」


「へ〜!松井先生カッコイイよね〜!スタイルいいし優しいし!いいな〜v」



マシンガントークの山岸絵梨。

人と話すのがキライな俺でも、エリと話すのは何故か不快ではなかった。

俗に言う癒し系というヤツか、元気に楽しそうに話すエリは何か親しみやすくて憂鬱な気分も晴れる気がした。


「絵梨ちゃんはなんで入院してるの?」


俺はタバコに火をつけて山岸絵梨に話をふってみた。


「躁鬱病。前にすごいパニックになっちゃってさ帰りたくないーって暴れまわっちゃって・・・入院させられちゃった。」


「そっか。大変なんだね」


「今はそんなこと無いよ。家にいるより入院してたほうがずっと楽しいよ。トモダチもいっぱいできるし。」


「ふうん、そういうもんなんだ。でも外出とかできないんでしょ?」


「あー・・・うん。買い物とかできないし・・・映画も見れないし・・・。パスタとか食べに行きたいし。。。」


「外で遊ぶのは好きなんだ?」


「うん、大好き!カラオケとか特に好き〜。龍介くんもカラオケとかって行くの?」


「いや・・・あんま行かないけど、音楽は好きだよ。」


「へ〜、何聴くの?」


「ロックかな〜。ニルヴァーナとか。」


「ニルヴァーナ!!!マジで!?私も大好き!カートコバーンは私の神様だも〜ん!毎日ヘッドフォンでニルヴァーナ聞きながら寝るんだぁ」


「マジで?俺もなかなか寝れない時とかニルヴァーナ流すとけっこう寝れるんだよ。」


「なんかあたしたちって趣味合いそうだねっ!」


「ははは・・・かもね。」


「・・・あ、ごめん、もうすぐ昼ごはんの時間なんだ。私そろそろ行くね。」


「ああ。じゃあね。」


「バイバイっ。またいっぱい話そうね〜◎」


「うんバイバイ」


お互い手を振った。











それから毎週病院に来て喫煙所へ行くと、必ずエリが待っていた。


「龍介って今飲んでる薬何?」


「ベゲタミンとドラールとデパス。なんか鬱病もあるかもって言われた。絵梨は何飲んでる?」


「私は〜パキシル、リーマス、ドグマチール、コントミン、セルシン、レキソタン、ロフピノール・・・かな?」


「かなり飲んでるね・・・大丈夫?」


「えー、これでもかなり量減ったんだよ!それより今月号のロックジェット買ってきてくれた?」


「もちろん。はい、これでしょ」


「ヤッタ〜!ジミヘン特集!読みたかったんだ〜ありがと!もらっちゃっていいの?」


「どーぞ。俺はジミヘン特集んとこはもう読んだから」


「えっずるい〜ネタバレ無しだよ?」






こんな感じで毎週火曜日にエリと話す時間は俺の一番楽しい時間だった。

大学に行っても特に親しい友達もいないし、なによりエリとは互いにビックリするほど趣味が合っていて、今まで話しをした誰よりも面白かった。

音楽の話。

映画の話。

それに、高校生時代の話なんかも、お互い共通してるところがあった。

普通の人とは馴染めない。誰と話しても楽しくない。学校自体が合わない。

俺は親の希望で高校卒業、大学入学もしたが、エリは高校2年の春中退したらしい。

その後はずっと忙しくバイトで稼いでたとか。










〜2004年8月〜


「龍介、大ニュース!」


「え?何が?」


「あたしもうすぐ退院するの!」


「ほんと!?おめでとう!」


「ありがと!」


「よかったね」


「・・・うん。」


「・・・?嬉しくないの?」


「え?そんなことないよ。退院したら原宿にお買い物いけるし!ずっと服買ってないからもうガマンの限界だもん!」


「いっぱい買い物できるじゃん、おめでと」


「ね、退院したらさ、私もここ通うの火曜日にするから。」


「そっか、そしたらまたいつもみたいに話しできるね」


「ね、ね、そしたらさ、帰りに一緒になんか食べに行こうよ。ね?」


「いいね。俺も火曜は授業入れてないから。パスタとか食べに行こ」


「やったぁ!楽しみぃ〜!」


「あ、でも俺金無いから安いとこでいい?」


「ぜんぜんおっけー!一緒に食べれればどこだっていいよ」


「あ・・・じゃバス停んとこのガストでもいい?」


「え〜?ガスト〜?」


「あ、じゃあジョリーパスタにしよっか・・・」


「嘘!嘘!ガストでいいよ〜◎」


「バーカ変なとこで嘘つくなよ!」


「バカとはなんじゃい!このボケ〜〜〜」


ポカポカ、と俺の頭をたたくエリ。





いつのまにか、二人はかなり仲良くなっていた。


















それから、エリとは休日よく遊びに行くようにもなった。

ショッピングに映画。何より楽しかったのがカラオケだった。

エリの歌はかなり上手い。でも洋楽の発音だったら俺のほうが勝ってる。

お互い好きなアーティストが同じだから、聞くのも歌うのも楽しい。

2人きりだからハードロックで思いっきりシャウトもできる。

カラオケがこんなに楽しいとは初めての経験だった。















「ねえ龍介、私達って何だろう」


「ん?何が?」


「何がって・・・」


「気の合う友達?かな?」


「うん、お互い大切な友達だよね・・・。」


「うん、そうだね。」


「あたし龍介のこと好きだよ。」


「俺も好きだよ?」


「ねえ。付き合っちゃわない?」


「うん、いいよ」


「じゃ、今から恋人同士、ね?」


「そうだね」




俺はそういいながらもすごく幸せな気持ちだった。


彼女がいたことはあるけど、たいていよく知らない子がいきなり告白してきて、あんまり必死なもんだからOKして。そのあとデートなんかに連れてかれても向こうが一方的に楽しんでるだけで俺は特に楽しくも無く疲れるだけ。それでずっとデートも断ったり連絡もしなかったらいきなり別れようとか言われて終わる。

俺の過去の恋愛経験はだいたいいつも決まっていた。




でもエリとは違う気がする。


エリといるのは楽しい、それももちろんあるが、それだけじゃない。




エリとずっと一緒にいたい。


そんな感情が自然に沸いてくる。



それに・・・エリのまだ俺にも話していない陰の部分を知りたかった。
















〜2007年〜


俺と絵梨は3年以上付き合っていた。

そして絵梨も病状が回復し、通院も週1回ですむようになった。

毎週火曜日、二人で南野病院へ通い、待ち時間はあいかわらず喫煙所でオシャベリをするのが好きだった。

絵梨が他の患者にオシャベリをするので、この俺もその喫煙所に馴染んできていた。



絵梨は去年、家を出て都内のアパートで一人暮らしを始めた。


社会復帰の学校に通い、バイトでなんとかしているらしい。



その前は、一週間の殆どを俺の家で過ごしていた。


三年間付き合ってきて今まで知らなかった絵梨のこともだんだんわかってきた。



絵梨の両親は絵梨が9歳の時に離婚した。

絵梨の母親は、絵梨を父親のところに置いて、当時5歳だった弟と二人で行方をくらました。

絵梨の父親は仕事で転勤ばかりしていて、絵梨は学校でも親しい友達を作れなかった。


絵梨の父親は「仕事で疲れている」といつも言い、幼い絵梨にかまうことはなかったそうだ。

休日でさえ、父親は絵梨を置いて出かけていた。

父親がかいあたえてくれるものはコンビニのパンや、オニギリ、カップ麺と数枚の千円札だった。


絵梨が14歳になった頃、友達の居なかった絵梨の唯一の楽しみは、父親が眠りについた後の深夜にやっている映画と、ラジオで聞く音楽だった。

それから絵梨は小学生の頃から溜め込んでいた父親に貰った何十枚もの千円札を使い、CDを買いあさったそうだ。

その頃のCDは絵梨にとって宝物で、誰にも見つからない場所に大事にしまっていた、と絵梨は言っていた。


そして16歳頃になると、父親からの暴行が酷くなったと言う。

ということは、その以前から父親から暴行を受けていたのだろう。

高校生の絵梨に、父親は性的暴行をしてきた。

「素直に俺の言うことを聞かなければ、もう金も何もやらん。」

そう言われて、父親の暴行を拒んだ絵梨は、高校を中退しバイトにあけくれた。

「いつかこのお金でこの家から出てやる」と、必死で働いたそうだ。

働いては暴行を受け、働いては暴行を受け・・・


18歳の時に絵梨は突然倒れたらしい。

過労と精神的なショックで、あの南野病院に入院することになった。

それからの絵梨はどんどん回復し、入院当時はとんでもなく酷い状態だったのが驚くほど元気になったそうだ。

もう入院することも無いくらい元気に回復した20歳の時、担当の先生から退院を告げられた。

絵梨は家に戻る、父親と顔をあわせるのが怖かったと言う。

そしてめちゃくちゃに暴れまわって、先生に「お願いだからここにずっといさせて!」と泣きじゃくって頼んだらしい。


そして再入院していた絵梨と、俺は出会ったのだった。




それだから、家が嫌で俺の家に毎日のように泊まりに来ていたのもわかった。


そして小さい頃の影響で、一人で居るのがとにかく寂しいらしい。



エリを守ってやりたい・・・幸せにしてやりたい・・・


そう思っていた俺も



就職試験、その後の新しい職場でストレスが溜まってきて


エリにかまってやれる余裕もなくなってきた



実際、「何で毎日俺の部屋に居るんだ!」とかエリにあたったこともあった。



そんな俺を見てか、エリも決心したように自分でアパートを借りてそこに一人で住むようになった。




それでもやっぱり寂しかったのか、俺の仕事中や寝ている時間にもさんざん電話をしてきたこともあった。

でも電話には出なかった。正直、もうエリのこともウザく感じてきていた。



それに、今でもまだエリが勝手に俺の部屋に来ていることもよくあった。



いつもエリのことウザがっていた俺でも、無言で抱きしめてくれるエリの存在はなによりの癒しだった。

この作品はマンガとして作ろうと考えていましたが、今の状況でマンガを描くのは難しかったため、小説として公表しました。

そのため、キャラ設定のイラスト等はできていたりします。

どこかでイラストを公表することができましたら、したいと思っています。


この「自殺案内株式会社」のストーリーは完結していますが、好評であれば続編も考えています。


少しでも思ったことがあれば、何でも感想お待ちしております。

Frog25

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