〜屋上〜
この物語は精神病に関係する話が出てきます。
鬱病患者の方は、病状が悪い状態でないときに読んでくださることをおすすめします。
(作者も、躁鬱病患者です)
あくまでこれは現実とファンタジーを取り入れた物語であり、自殺を促すような内容では決してありませんが、万が一のため、病状が優れない方にはお読みになることをお勧めできません。
すこし病状が良くなったら、お読みになってください。
〜2007年6月14日午前0時35分〜
龍介はなにげなくテレビをつけた。
そこに映し出された映像は、暑い国での戦争のドキュメンタリー番組。
「あの子は殺されたのよ・・・ちょっと家の外に出ただけだったのに・・・銃で撃たれたのよ。もうあの子は帰ってこない。」
「母さんも弟もこの戦争で死んだんだ、もう家族はいないよ。僕だってほら・・・地雷で右足がもう無いんだ」
若い黒人女性がガリガリにやせ細った赤ん坊を抱きながら涙も枯れたような表情を見せる
白いベットに何人もの人達がほとんど満足な治療もさせてもらえずただ横たわっているだけの病院
罪も無い人々が死んでいく。
今、自分がテレビなんてものをながめながら、清潔な部屋で、治安の良い国で、食事にもなにも困ることの無いこの環境で・・・生活している今も、罪の無い人々が死んでいっている。
そんな世界で、生きている自分が嫌になってくる。
好きでもない職につき、ただ毎日必死で働き、何の成果も認められず、そして一日一日が終わっていく、そんな生活。
実家から送られてきた大量のミカンも、もう食べ飽きたし、おすそわけする友人も居ない。
親の希望で一応、一流と呼ばれる大学に進み、一応、大手企業と呼ばれる会社に入社した。
今年の9月で 生まれてから25年が経つ。
俺は、今何のために働いているんだろう
何のために生きているんだろう
何のために生まれてきたんだろう。
そんなことを考えながら睡眠薬が効いてくるまでの時間を過ごし、眠りにつく。
いつものことだ。
そして龍介は何の夢も見ず深い眠りにつくのだった。
〜2007年6月15日午後12時13分〜
会社の昼休みになると屋上へ行って柵にもたれかかって景色を眺める。
それが最近の龍介の日課になっていた。
別に昼飯を食べるために来ている訳じゃない。
それに最近は食欲もあまり無いので昼飯は食べないことが多い。
この会社にはカフェやら食堂やらがついているので、屋上に弁当を食べに来る奴なんてめったにいない。
つまり、だいたいいつもここに居るのは龍介、一人きりだ。
一人きり、屋上で空を眺める。
今日は快晴。風も涼しく心地よい。
タバコをふかしながら今度は下のほうに目をやる。
むこうのほうでは新しいビルが建つらしく、工事現場で人が休み無く働きまわっている姿が見える。
俺って何で生きてるんだろう?
ここから飛び降り自殺でもしたら、少しは楽になれるのかな。
田舎の家族は悲しむのかな。
会社の奴らはきっと驚くだろうな・・・・。
屋上に来ていつも考えることはだいたいこんなこと。
もちろん、自殺なんてしないけど。
そんな度胸、俺には無いし、家族が悲しむのはやっぱり良くは思えない。
結局、考えているだけで、実行にうつすなんてことはしないだろう。
結局、そんな毎日だ・・・。
結局・・・。
〜2007年6月15日午後7時04分〜
今日は2時間の残業をさせられた。
普段だって必死に働いてるって言うのに
成果は出ない。
上司には嫌われている。
同僚の友達だってできない。
会社ではいつも一人オオカミのような俺。
周りの連中はテキトーに仕事を済ませて仲間と飲みに行くのが好きらしい。
OL達はくだらないオシャベリが好きらしい。
部長は何故だか知らないが常にイライラしてるらしい。
そんなこたぁ俺にとってどーでもいい。
ただ 社内で一人で残業をしているとやけに虚しい。
そしてやけに頭の中がぐちゃぐちゃになる。
もう誰がどうなっても何がどうなっても良いって思えてくる。
さっさと仕事を済ませ、俺は屋上へ足を運んだ。
〜2007年6月15日午後7時23分〜
誰も居ない屋上。
いつも見ている空とは違う、真っ暗な空。
見えるのはほんの少しの星と、闇と同化したようなまっくろなカラス達。。。
いつも異常の憂鬱感が俺を襲う。
俺は毎日一体何をやっているんだ?
俺は今なんで生きているんだ?
俺はなんで生まれてきたんだ?
俺は何でまだ生きているんだ・・・???
もう誰にどう思われようと
誰がどう思おうと
世界がどうあろうと
カンケー無い
知ったこっちゃ無い
「死ねばいい」
その言葉だけが脳内に響き回った
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
死ねば・・・いい・・・・・。
「カァ〜。」
どこからか、カラスの鳴き声がする。
しかし龍介の耳にはそんなもの入ってくる余地も無かった。
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
「死ねば良い」
龍介はいつものフェンスのほうへ足を向けた。
昼間はすぐ近くの距離なのに、今はやけにその距離が遠く感じた。
足が重い。
呼吸が苦しい。
「死ねば良い」
フェンスにたどり着いた龍介は、フェンスを両手で握り締めて真下を見下ろした。
13階。
下にはスーツ姿の人間や、着飾った女なんかがちらほら見える。
小さく、小さく・・・。
このフェンスを乗り越えれば、もっと真下が見える。
そしたら俺は・・・・・ここから・・・・・・・・
・・・・・・・・
「よっ、そこのニーチャン」
「えっ・・・???」
龍介は思わず声をあげた。
この屋上には誰もいるはずがなかったのに。
そもそも、ここに来てから人の気配なんて全く感じられなかったのに。
今、確実に龍介の左後ろ・・・かなりの近距離から・・・誰かに声をかけられた。
龍介はその声のする方向へ振り返った。
「ニーチャン、こんな真夜中にこんなとこで気晴らしかい?こんな都会じゃ星もそう見えねぇなァ」
そこには、ボロボロの黒いコートをはおった男が立っていた。
明らかにここの会社の人間には見えない。
ニヤ、と笑う口元には少し皺がある。
40…50代前半くらいだろうか?
一体どうやってここの屋上まで入ってきたのか、何故こんなところにいたのか・・・。
龍介は少し戸惑った・・・いや、実際かなり驚いていた。
そして平然を装うように返答した。
「あ・・・そうですね。星は見えないですね。」
「ンー、ニーチャン、何でこんなとこに一人でいんのかい?」
それを聞きたいのはこっちだ・・・
「まあ、こんな都会でも屋上の空気吸って外を眺めるのも気晴らしになるんですよ・・・。」
「あー、そうかい?まあお前さんが何考えてたかは俺様にはお見通しだがな・・・ヘヘヘ・・・。」
何だって?何者だよ・・・怪しいやつだ・・・
「あなたこそなんでこんなところにいるんですか?そもそもここのビルの屋上はここの会社の人間しか・・・」
「おっと、そうだったな、自己紹介が遅れたナ、すまんすまん・・・。俺様ぁこーゆーモンだ、これ、用があるんだったらいつでもここに来な」
そういうと、黒いコートの男は無理やり龍介の手に名刺を握らせ、スタスタと屋上の出口のドアに入っていった。
「何者だよあのオッサン・・・ここに出入りできるのは社内の人間だけだぞ・・・」
龍介は渡された名刺に目をやった。
「佐々木・・・哲治・・・?あいつの名前か・・・」
一番大きく書かれた『佐々木 哲治』以外の文字は、小さすぎて暗闇ではよく見えない。
その名刺の文字を見るために外灯の近くへ龍介は歩いていった。
『自殺案内所(株)
案内人 佐々木 哲治
東京都大田区X-X-X 鳩山ビル2階』
「自殺案内所・・・・・!?」
ふざけてる、としか思えなかった。
そんなもの存在するわけない。
しかも、都会の真ん中のビルに。
(株)までついてる。
ありえない。
龍介はその名刺をぐしゃっと握り締めてパンツのポケットに入れた。
そしてそのまま屋上から社内に戻って、鞄を持って会社を出た。
社内にも外にもさっきの男の姿は見えなかった。
龍介はあの男のことを考えながら帰宅した。
「死ねば良い」なんて言葉はとっくに脳内から消え去っていた。
それにしても・・・今日はカラスの鳴き声が妙に耳につく・・・・。
この作品はマンガとして作ろうと考えていましたが、今の状況でマンガを描くのは難しかったため、小説として公表しました。
そのため、キャラ設定のイラスト等はできていたりします。
どこかでイラストを公表することができましたら、したいと思っています。
この「自殺案内株式会社」のストーリーは完結していますが、好評であれば続編も考えています。
少しでも思ったことがあれば、何でも感想お待ちしております。
Frog25