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死を捨てて

 もしもの話。この命が永遠に続くなら、私は生まれたことを後悔する。この私でなければ後悔などしないだろうけれど。生まれてしまったからには、もうどうしようもないのだけれど。


 風が向きを変え、空の色が薄くなる。淡い色の花びらが散り、季節が変わるよと知らせている。また一つ季節が過ぎた。早く過ぎ去れという願いに反してゆっくりと流れていく時に怒りも憎しみもいだくことはないのだけれど。


八名やな、いかないで。」

 ひざをつき、冷たくなった人形ひとがたに泣きつく。

耶奈やな、ごめん。待っていて。』

 聞こえるはずの無い声が、叶うはずのない約束が、八名の耳に響いた。

 創られた者と産まれた者、そこに宿った命の長さに恋が勝てるわけもなく。ただ、時だけが残酷に笑った。涙を流そうとも、怒りを叫ぼうとも命が返るわけもなく。しかし、創った者の心を動かすことはできた。


 独りの時は二人でいる時よりも長く、苦しい。二人で居た時はあれほどに楽しく、辛く、嬉しく、時は短く過ぎていったというのに。長すぎる命のせいだと後悔の念ばかり繰り返す。

 創られただけだったが、月日は耶奈の姿を変えることはなかった。否、耶奈を創った者が留めていたにすぎない。耶奈には苦しく残酷な結果でしかなかった。

「私はどうして消えないの?みんな、みんな、消えてしまったのに。・・・私はどうして変わらないの?みんな、みんな、変わっていくのに・・・。」

 嘆きは心ばかりでなく、体も蝕み、耶奈の姿はゆっくり過ぎるほどゆっくりと変わっていってはいた。そして、留めていた呪縛もほどけてしまうかと思うほど、時がたった頃、突然の呼び声。

「耶奈!」

“叶わぬ望みが聞かせる幻聴。”

「耶奈!」

“私も貴方の居るとこへ近づいているのかしら?”

「耶奈!」

声は次第に近づき大きくなっていく。同時に小さな影が、確かな形を描く。

「八名・・・なの?」

長い間使われなかったのどが出す音はかすれ、小さかった。しかし、耶奈を抱きしめた八名の耳には届かないはずがなく。

「ああ、耶奈。そうだよ。僕は八名だよ。これからは君の残りの時間と同じだけ、僕はこの世に居られる。もちろん、その後も一緒だ。」

 枯れたと思っていた涙が耶奈の目からこぼれだす。八名にしがみつき、心は静かにうるおされる準備をはじめた。


 また一つ季節は流れた。変わらない姿に変わりゆく風景。不釣り合いのような情景の中に、静かに幸せはあふれていった。

これ、変わっているって言うんでしょうか・・・?

2012/03/13

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