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第四話 迷子の迷子の・・・・・・

挿絵(By みてみん)

 なんだか体中が痛い。ここはどこだろう? 辺りはすっかり暗くなっている。そうか、今日僕は散歩中に木の根元にいたネズミを見つけて、そのまま追いかけて……。その後どうなった? 木の上に逃げたネズミを追い詰めて細い枝の上を歩いている最中に枝が折れて落下した。でも僕は猫だ。くるっと回転して足から着地……いやしなかった。出来なかったんだ。着地地点は急斜面で僕は足をとられてそのまま滑落していった。猫が滑落なんてとんでもなく恥ずかしいことだが、そうなったものは仕方がない。

 僕は自分の体のチェックをする。体中痛いが骨は折れてなさそうだ、出血も右前足からちょっと血がにじんでいる程度でなめておけばいいだろう。僕は斜面を転がって沢の手前の茂みに体が引っ掛かり助かったようだ。沢まで落ちなかったことは不幸中の幸いだった。

 体も無事そうなので、突っ込んだ茂みを抜けて岩山に帰ろうとしたが、ここで重大なことに気が付く。茂みの中には転がった勢いで入ったようだが、どこを探しても出口が見つからない。

 茂みの木は細いが、粘りがあって押しのけようとしても跳ね返される。これはまずい、身動きが取れなくなってしまった。すでに疲労と空腹で体力も少なくなっている。僕はこのままここで飢え死にするだろうか。

 茂みの出口を探し回り、体を突っ込もうとするも、とげとげしい枝が邪魔で出られない。それからさらに数時間も立っただろうか、僕はその場にへたり込みそうになったその時、鼻先を虫がはねた、僕は反射的にそれを捕まえ食べる。そういえば虫の取り方を教えてくれたのはトラちゃんだったかな。


 僕はこの山の中で生まれたときは他にも一緒に生まれた兄弟がいた気がするが、すぐに僕だけになった。お母さんは僕を生んだ後、体に負担がかかったのか、あまり動き回ったりできず、寝ていることが多かった。それでも僕一人分の乳は頑張って飲ませてくれた。その時、僕やお母さんに食料を持ってきてくれていたのがトラちゃんをはじめこの山の猫たちだった。

 皆は狩りができないお母さんに代わって、虫や小動物、時には人間からもらった食べ物を持ってきてくれていた。やがて数か月がたち僕の体が大きくなってきてお母さんの乳よりも、みんなが持ってきてくれる食べ物を好んで食べるようになった頃、猫たちの中で一番体が大きく、一匹だけお母さんや他の猫と違う喋る方をする猫が、

「そろそろ、お前も自分で餌をとれるようにならんとな」

 と言って、ある日突然、僕を狩りに連れだすようになった。それがトラちゃんだ。トラちゃんはいつもぶっきらぼうな言葉を使い、気も短く、よく他の山の猫とも喧嘩していたが、なぜか僕と僕のお母さんにはよく世話を焼いてくれていた。

 後からわかったことだがトラちゃんは元々関西と呼ばれる地域で暮らしていて、数年前にこの土地に来て住み着いたらしい。トラちゃんの言葉遣いはその関西地方特有のものだ。

「ええか? よう見とれよ」

 そう言ってトラちゃんは僕を木の陰に待機させて、地面で虫を食べている小鳥にそろりそろりと近づいて行った。小鳥はまだトラちゃんに気付いていない。

 トラちゃんはあんなに物音ひとつ立てずに近づいている、しかし、後もう少しというところで小鳥がトラちゃんに気付いてぴょんぴょんとは跳ねながら羽を羽ばたかせ飛び立とうとしたが地面が柔らかく上手く地面を蹴れない。そこをトラちゃんが瞬時に飛びついて小鳥の体を押さえつけてしまった。どうやらトラちゃんは地面がぬかるんだところにいる鳥を探していたようだ。トラちゃんは小鳥を咥え戻ってきた。小鳥は瀕死の状態であった。

「お前がとどめを刺すんや」

 僕はドン引きした。確かにこれまで同じような鳥を持ってきてくれていたことがあったが、大抵すでに死んでいる状態だった。一度だけまだ生きている獲物を目の前に置かれたことがあるが、びっくりして逃げ出してしまった。

「今までお前が食べてきた動物も、こうして誰かが命を奪って手に入れてきたもんや、お前もこれから一人前の猫として生きていくためには同じことをせなあかん」

 トラちゃんはそう言って、少し僕と鳥から距離をとって座ってこっちを見ている。僕は少し気持ち悪くなりながらも、動けないお母さんの代わりに僕が狩りをしないと、そう思い、目をつむって謝りながら鳥にかぶりついた。

「鳥さん、ごめん!」

 とどめを刺した後食べたその鳥はこれまで食べた中でも一番美味しく、でも苦い味だった。 

 その後、捕まえた鳥をもってお母さんに見せに行った、お母さんはすごく喜んでくれたがその鳥は食べなかった。それぐらい既にお母さんの体調はかなり悪いところまで進んでいた。

 その日から僕は毎日のようにトラちゃんと狩りに行くようになり、虫や鳥やネズミ等を一人で捕まえられるようになっていった。獲物をお母さんに見せに行く度、お母さんは僕を褒めてくれたが、その体はだんだんとやせ細っていった。ある時、お母さんは

「トラちゃんと話があるから、向こうで遊んでなさい」

 そう言ってお母さんはしばらくトラちゃんと二人で話していたが、やがてもう一度呼ばれて、僕の目を見ながらお母さんはこういった。

「トラちゃんや皆の言うことをよく聞いて過ごすのよ、ここにいる猫たちのことは家族だと思うのよ。みんな一緒に暮らす兄弟みたいなものなんだからね」

 僕はその言葉にうまく返事を出来なかった。返事をしたらお母さんが遠くに行ってしまう気がしたからだ。でもお母さんは数日後眠るように息を引き取った。

 一番年寄りの猫が言うには自分達猫は自分が死ぬときは、どこか人目のつかないところに行くことが多いということだったが、お母さんは最後まで僕のそばにいた。そしてお母さんは眠るように穏やかな顔で微笑をたたえていた。きっと、自分の人生が幸せだったことをクロやみんなに知らせたくて、ここで人生を終わらせることを選んだんだろうと、年寄りの猫は言った。


 それから何度か暑い季節や寒い季節を繰り返し、その間にプチ誘拐され股がスースーしたり、家出少年のせいでトラちゃんにしめ殺されそうになったり、色々なことがあったが、これまでお母さんのとの最後のやり取りをはっきり思い出すことはなかった。思い出さないようにしていたのかもしれない。

 今になってこんなことを思い出すのはもうすぐ死んでお母さんのところに行くからなのかなあ。そんなことを考えながらまたへたり込んで目をつむろうとした瞬間、バキバキバキと大きな音とともに知っているにおいが近づいてきた。

「お前何しとんねん! 昼間出かけたまま中々帰ってこおへんと思たら、茂みの中でかくれんぼしてたんか! 他の兄弟たちもあちこち探してたけど、まさか猫が山を滑落しているとは思わんかったわ。お前の匂いが木の根元で途切れたから、まさかと思って沢の方に下りてみたら、山肌にお前の匂いが下までこびりついてたわ。ほんま、お前になんかあったらあいつになんていえばええねん!」

 トラちゃんは怒りながら僕に近づいてきた。いかに体の大きなトラちゃんといえど、この茂みに分け入るのはただごとではない、体中痛々しいばかりに傷だらけになっていた。でも僕はトラちゃんを見て安心してしまって、そのまま気を失ってしまった。

「おい! クロ‼」

 トラちゃんの声が遠くなった。

                                        続く

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