第3話 「公爵様が静かにキレました」
最近、私は学んだ。
――セシルは、怒らない。
正確に言うと。
表では、絶対に怒らない。
笑顔。穏やか。紳士。
完璧すぎる公爵様。
だから私は油断していた。
(この人、嫉妬とかしないタイプだよね)
……と。
この日までは。
◆ 事件の始まり
放課後。
私は図書室で、課題の資料を探していた。
「あ、リリアーナさん」
声をかけてきたのは、同級生の男子――ルーク。
爽やか系で、わりと人気者。
「この本、探してたやつじゃない?」
「え、本当? ありがとう!」
私は素直に喜んだ。
その瞬間。
――空気が変わった。
ひんやり。
背中に寒気が走る。
(……え?)
視線を感じて振り返ると。
そこには。
入口に立つ、セシル。
微笑んでいる。
……はずなのに。
目が、笑っていない。
◆ 静かな介入
「リリアーナ」
低く、穏やかな声。
「迎えに来たよ」
「あ、うん!」
私は慌てて本を抱える。
ルークが、気さくに話しかけた。
「セシル様ですよね?
いつも仲いいですよね」
「そう?」
セシルは微笑む。
でも。
ルークの肩に、そっと手を置いた。
――ぐっ。
明らかに力が入る。
「……っ?」
「彼女は、忙しいから」
にこやかに。
「これ以上、時間を取らせないで」
圧がすごい。
ルークは青ざめた。
「す、すみません!」
即撤退。
(今の……脅しでは……?)
◆ 嫉妬モードON
帰りの馬車。
異様に静かだった。
セシルは窓の外を見ている。
無言。
怖い。
(地雷踏んだ……?)
「……セシル?」
「何?」
声は優しい。
余計に怖い。
「怒ってる?」
「怒ってないよ」
即答。
でも、目は冷たい。
「ただ……」
こちらを見る。
「君が、他の男と楽しそうにしているのは」
一拍。
「……嫌だ」
低音。
直球だった。
心臓が跳ねる。
「そ、そんな……ただのクラスメイトだよ?」
「わかってる」
でも。
「それでも、嫌なんだ」
独占欲、全開。
◆ ヒーローの本音
馬車が止まる。
でも、彼は降りない。
私の手を、そっと包む。
「リリアーナ」
「……なに?」
「君は、僕の婚約者だ」
静かに告げる。
「他の誰かに、取られるつもりはない」
笑顔。
でも、逃がさない目。
「……絶対に」
(重い……!)
なのに。
なぜか、嫌じゃない。
むしろ――
胸が、熱い。
(これが……乙女ゲー補正……?)
◆ 周囲の反応
翌日。
学園では噂が広がっていた。
『昨日、セシル様が男子を睨み殺したらしい』
『近づいただけで圧がすごい』
『リリアーナ専用結界では?』
……待って。
最後なに。
◆ ヒロインの心の変化
私は日記に書いた。
『嫉妬:怖い』
『でも:嬉しい』
『結論:複雑』
そして、小さく付け足す。
『……少し、好きかも』
こうして私は。
また一歩、逃げ道を失ったのだった――。




