第2話 「初めて逃げてみましたが、即バレました」
結論から言おう。
私は――
このままではダメだ。
(完全に、囲われ始めてる……)
学園から帰ったその夜。
自室のベッドに倒れ込みながら、私は天井を見つめていた。
最近のセシルはおかしい。
✔ 毎朝迎えに来る
✔ 帰りも必ず同行
✔ 他の男子と話すと無言で割り込む
✔ 行動把握率100%
……重い。
まだ序盤なのに、重すぎる。
(このまま好感度MAXになったら、断罪ルート一直線では!?)
原作では――
私がヒロインに嫌がらせ
↓
セシル激怒
↓
断罪
という流れだ。
今は嫌がらせしていない。
でも。
(好かれすぎても、死亡フラグでは?)
乙女ゲーム脳が、そう告げている。
よって。
「……逃げよう」
私は決意した。
◆ 逃亡作戦その①:早朝脱出
翌朝。
まだ空が薄暗い時間。
私は地味なワンピースに着替え、荷物をまとめていた。
「これで……よし」
財布、身分証、最低限の服。
完璧だ。
(今日から私は、自由の身!)
音を立てないように廊下を歩く。
裏口へ。
あと少し――
「おはよう、リリアーナ」
「ひゃああっ!?」
背後から声。
振り返ると。
そこには、爽やかな笑顔のセシル。
「……な、なんでここに……?」
「迎えに来た」
即答だった。
(早すぎる!!)
「今日は少し早いと思って」
「……偶然?」
「ううん。予想通り」
さらっと怖いことを言わないで。
◆ 逃亡作戦その②:寄り道作戦
作戦①は失敗した。
ならば②だ。
放課後、私はこっそり別方向へ走った。
商店街方面。
(ここまで来れば――)
「リリアーナ」
まただ。
路地の出口に、セシルが立っている。
「……瞬間移動ですか?」
「人に聞いた」
爽やかに言う。
たぶん、学園中に協力者がいる。
(情報網エグい……)
◆ 逃亡作戦その③:友人宅避難
最後の切り札。
クラスメイト・エマの家。
「今日は泊めて!」
「いいけど……何かあった?」
「命の危機」
「え?」
夜。
ようやく布団に入って、私は安堵していた。
(今日は……勝った……)
その時。
コンコン。
玄関の音。
数分後。
「リリアーナ、迎えに来たよ」
――なぜここが!?
エマが青ざめている。
「……知り合い?」
「……婚約者……です……」
「えっ、貴族!?」
完全敗北だった。
◆ 正面衝突
帰りの馬車。
私はついに爆発した。
「……どうして、どこに行っても来るんですか!」
セシルは驚いたように目を瞬かせる。
「心配だから」
「それだけ?」
「それだけじゃ、だめ?」
真っ直ぐな視線。
「君がいなくなるのが、怖い」
低く、静かな声。
冗談じゃない。
本気だ。
「……私は、ただ……」
破滅したくないだけなのに。
言えない。
そんな未来。
「逃げないで」
手を、ぎゅっと握られる。
「僕のそばにいて」
その言葉は、優しくて。
重かった。
(……ずるい……)
◆ ヒロイン心境
その夜。
私は日記に書いた。
『逃亡:全敗』
『成功率:0%』
『敵:最強』
そして、最後にこう記す。
『でも……嫌じゃないのが問題』
最悪だ。
完全に、心が揺れている。
こうして私は。
ますます逃げられなくなっていくのだった――。




