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【小説】コカレロレロレロ

掲載日:2025/12/15

 何時であろうと朝は眠く、何時であろうと労働はクソだ。

 それが朝焼けなのか夕焼けなのかは関係がなく、最後にまともな陽の光を浴びたのはいつだったか思い出せない。

 つまりおれが眠った時が夜で、おれが目を開けた時が朝だ。まるで妖怪だ。賃金と引き換えに失っていく毎日だ。


 煙草を吸って缶コーヒーを飲むとケツの穴みたいな臭いがする。

 そう言って吐いた女はとっくの昔に別れた。顔も思い出せないがそのセリフだけは忘れると事が無い。

 おれはネクタイを外しスーツを脱ぐ。

 社会と言う呪いを少しずつ解いていく。おれがおれにかけた呪いだ。月曜日にはまたかけ直すだけだ。


 くたびれたソファに腰掛ける。

 くたびれたTシャツだけがいまの装備だ。

 おれと同じお勤め終わりの惣菜を飲み込む。よく噛まず食べる悪い癖だ。だが社会人に必要な技能だ。メシとクソと頭の遅いヤツから脱落していく。

 粗悪な油色をしたゲップを吐き出す。

 黄色い液体と青い液体を飲み込んで吐き出す。すると緑色の液体が出る。そいつは吐瀉物だ。酷い疲弊だ。

 今夜も女の代わりに便座を抱いて眠る。



 ボンベイサファイアとオロナミンCを飲んだところで出てくるのはコカレロじゃない。

 だだ単にボンベイサファイアとオロナミンCが混ざった緑色の世界が出てくるだけだ。

 それを誰も理解しちゃいない。

 緑色のコカレロが出てくると思っているし、そうでなけりゃコカレロが出てこないと憤ったりする。

 緑色の疲弊はコカレロじゃない。

 誰もが目を開けたまま夢を見ている。


 それは殴打が消えた社会の弊害だ。

 アメリカには銃がありアギーレがそこかしこにいる。

 しかしここは日本だ。

 その日本で大人になると言う事は目の前の人間を本当にクソだなと思いながら、笑顔でそのクソと一緒に同じ皿のメシを喰う事だ。

 お前がそう思うならそうなんだろう、お前の中ではな。喉まで出かかったそいつをメシと一緒に飲み下す。逆流性食道炎の喉はすでにくたびれ果てている。


 だが食事は終わらない。人生と同じだ。

 そして目の前にあるのは鶏卵を焼いたものであって太陽だとか眼球じゃあない。

 これを自分の産みそこなった子どもだとか母親の子宮や父親の睾丸だと言うなら、勝手にしやがれ。

 お前は単なる悪趣味で胸くそ悪いクソと言うだけだ。おれも店を出るまで我慢することなくお前を殴るだけだ。


 殴打。お前に必要なものだ。

 きっとそうなんだろう。誰もお前を殴らなかった。それはお前の正しさを証明しない。おれが正しいことも証明しない。

 だが目の前にあるのは鶏卵を焼いたものだ。

 お前はそれに塩をかけたり醤油をかけたりしてナイフとフォークで切り刻んで食べるんだ。おれも同じようにして食べるだけだ。

 お前はクソだ。おれもクソだ。

 だが目の前にあるのは鶏卵だ。


 それでもほとんどの人間はそれが鶏卵なのか眼球なのかを確認しない。

 目の前にその朝食を用意した人間がいるとしても本人にそれが何かを聞かずに文句を言いながら食べるだけだ。

 こちらは笑顔でそれを聞きながら腹の中のアギーレが育っていくのを感じる。

 アギーレなんて大層な名前がついちゃいるが、そいつは単なる怒りだ。

 高校生の頃に部屋で買っていた小さい悪魔だとか頭の中に棲んでいた女とか、階下に住んでいる老人や繰り返しすれ違う統合失調症の女と同じだ。


 そいつがおれだけに見えているのか、それともおれがが狂っているのかもわからない。

 部屋に悪魔がいたのか、女を頭に飼っていたのか、老人は階下に住んでいたのか、統合失調していたのはすれ違った女かおれか。


 おれは誰かから見えているのか?全員が病んでいる世界なのかもわからない。おれ以外が病んでいるとしても、それはおれが病んでいると言うことだ。

 だが曖昧なままにしておくべき事もある。

 おれはそうやって曖昧にしたままだ。

 おれが病んでいるのかお前が病んでいるのかは問題じゃあない。

 おれの目の前にいるお前。

 それを妄想と呼ぶかタルパと呼ぶか式神と呼ぶかは自由だ。

 誰かに確認する事はない。



 そもそもおれが誰かの中のアギーレや他の何か、祈りや願いだとか鶏卵かも知れない。はたまた眼球や太陽かも知れない。

 

 おれは生きているつもりで皿の上にいるだけの可能性だってある。

 おれに塩コショウが振られてフォークが刺さりナイフが切り分けていく。

 脂肪がはみ出していく。

 筋肉だけにしておくべきだったと後悔する。


 冗談じゃあない。

 

 だがおれの脂肪が流れ出してシーツに広がる。

 怒りの地図となっておれが描かれる。

 寝ても覚めてもおれはおれでしかなく、それは死ぬまで終わらない。

 おれが死んでおれが目覚めた後におれが続いていくのだとしたら、おれはおれをどうやって終わっていくのか。

 誰かがおれの背中から切り開いておれを取り出した時におれはどんな姿をしているのか。

 青い世界と黄色い世界を混ぜた緑色をした世界?それでもコカレロの様に美しくも香りもしない世界?

 おれはそれに文句を言いながらアギーレを育てる。

 そして世界に呪詛を吐く手法などを喧伝しながら自己批判と総括と言う名前のエア拳銃自殺だとかエア絞首刑、エア服毒刑を繰り返していく。

 現実が凌遅刑の様におれの手足を啄んでいく。

 苦痛と共に明日が水平にやってくる。

 明日は月曜日だ。

 またおれはおれに呪いをかける。

 それが社会だ。おれの人生だ。

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