宿場町にて
アダムは女子部屋をノックしてルナを起こすように言いに向かった。
「おーい、フラウステッドは起きたか?」
まだなら、と言いかけて中から騒ぐ声が聞こえてアダムは固まった。
『ルナちゃん!壁這いまわったらだめだよ!』
『足!足!なんで伸ばすの!?』
『あ”あ”あ”あ”!』
凄く困った。中に入るべきか否か。明らかに不穏な言葉が聞こえてくる上に騒ぐ声も音も
している。宿の人にも迷惑がかかる可能性がある。
「おーい!お前ら!騒ぐな!入ってもいいのか?!」
『ディーン先生!助けてー!』
ティナの声が聞こえてアダムは嫌々扉を開けた。すると・・・
「Zzz・・・」
「ルナちゃーん!」
蜘蛛の足を背中から出したまま眠りこけているルナが蜘蛛の足を動かして周囲を移動しているではないか。
「異常な—し・・・」
「帰ろうとしないで!」
「異常だらけでしょうが!逃げないでよー!」
閉めようとした扉を掴まれて押し問答が発生する。
「やめろ!音が外まで響く!」
「見捨てないでー!」
扉の隙間からクロエがアダムの足を掴んでいる。
それにカティナ達も加わってアダムの服やらを引っ張り始める。
「ワシは聖職者でも悪魔祓いでもない!専門外だ!」
「そう言わないでさ!」
結局アダムは根負けして天井の隅っこでカサカサ動いているルナと対峙する羽目に。
「えーい、もう!どうなっても知らんぞ」
とはいったもののどうしたものやら。
「とりあえずこの粉を試すか・・・」
「なんですかそれ」
「気付け薬だ」
失神した人を蘇生するための薬であるがこれをどう使うかと言うと・・・
「風の力でフラウステッドの元まで飛ばすのだ」
「そんな器用なことが出来るんです?」
「アインザッツはできるか?」
「えっと、そこまで精密なのはちょっと無理かもです 」
アダムはカティナに話を振ってみるがカティナはとてもじゃないができないと首を横に振った。
「仕方ないか、ではこれを使おう」
「なんですかそれ」
「吹き矢、これを詰めて顔に当てる。すると粉が舞い散るというわけだ」
小さな筒を取り出すとアダムは器用に筒に粉を包んだ紙を詰めてルナに向けた。
「ㇷ゚ッ!」
「おお」
紙の玉が当たるとそれは粉をまき散らしながらルナの顔で弾けた。
「・・・むっ、げほごほ!」
粉を吸い込んだらしいルナが目を開いて激しく咳込んだ。しばらく咽ていたが自分が
壁に貼り付いていることに気付いて足を壁から放して床に降りてくる。
「あ、あれ?私、何してたんだっけ・・・」
「背中から足が生えてた」
「壁を走り回ってた」
「天井にぶら下がってた」
複数人からの証言を受けてルナは頭を抱えた。
「夢の中でやったことが現実に・・・!」
「夢の中で何してたのさ」
「蜘蛛の足を動かす練習を・・・あああ・・・もう、ごめんなさいぃぃ」
足をときどきワキワキさせながら悶えるルナにカティナはそっと肩に手を置くと
慈母のようなまなざしでほほ笑む。
「私はルナちゃんの全てを赦すよ」
「カティナちゃんなんでそんな覚悟決まってるの・・・?」
丸くなって羞恥に耐えるルナ。ちなみに足はだしっぱなしである。
「とりあえず足しまえ、飯にするぞ」
「はぁーい」
ルナがむーん、と目を閉じて唸ると足がするすると縮んで見えなくなった。
「寝ながらあちこち走り回ったかいがあった感じだね」
「複雑・・・」
部屋を出て皆で宿の食堂へと向かう。それなりの大人数だが元がそれなりの規模の宿なので
全員が座れるだけの席が用意されていた。
「今日は簡単な物しか出せないけど簡便しとくれ!」
元気な声が響いてくる。ティナが覗き込むと厨房で恰幅のいいおばちゃんが
鍋をかき混ぜている。その隣ではおばちゃんとは対照的に痩せぎすの男性が
鉈のような包丁を振るって肉を切り分けている。
「いい匂いがしてきた!」
「ここらへんは野草や香草も取れるからな、煮物や焼き物にはもってこいだ」
アダムがそう言うと女性陣はもちろん、男性陣も期待に胸を膨らませている。
激闘を終えたばかりで皆腹ペコなのである。
「はいよ!おまちどおさま!」
おばちゃんが大鍋にシチューを作って持ってきてくれた。透き通ったスープにごろごろと野菜が入ったもので
どちらかというとポトフに近いだろうか。
「あとはこれ!」
ぶつ切りにした肉に香草を振りかけて焼いたシンプルな香草焼きだ。それにパンを籠にいれて
出してくれる。パンはさすがに少し古いのか硬い。
「パンはシチューに浸してたべとくれ!」
歯が欠けちまっても知らないよ!と念を押され、皆は空腹のままに料理に手を伸ばした。
「うま、香草焼きウマッ!」
「パンはまだ食える硬さだ」
「それはお前がドワーフだからじゃないのか・・・」
ティナが香草焼きを頬張る隣でテイロスがぼりぼりとパンをかじっている。
アダムはそれを呆れながら見つつパンをシチューに浸している。




