変 身!
蜘蛛のイメージを浮かべる。
八本の足、八つの目・・・特徴的な体の構造。
「むーーーん」
そう思いながらふと、自分の意識の中に一匹の蜘蛛が現れた。
「?」
「?」
それはまるでデフォルメされたもののように可愛らしく、それでいて自分と同じような
雰囲気を持っている。
「わたし?」
「キュ?」
同じように首を傾げて、同じように声を出した。そうか、この子は私のイメージなのか。
そう思い、ルナは目の前の蜘蛛に触れた。
「私は私、蜘蛛の私も私、言葉にするのは簡単だけど・・・」
「キュー・・・」
言わんとしていることを理解しているのか蜘蛛も困ったような声を上げた。
「うーん、私があと二人いる事になるし・・・大変だ」
「キュ、キュー」
「え?私を呼んでくれればいいんじゃないかって?」
「キュー」
自分だからなのか、それともそう解釈できているだけなのか分からないが
蜘蛛の自分の言いたい事がなんとなく理解できる。
「つまり、蜘蛛の私が私のお手伝いをしてくれるの?」
「キュ!」
任せろと言わんばかりの態度でルナの頭の上に乗ると蜘蛛はそのまま溶けるようにルナと一つになる。
「むーん!やってみる!」
先ほどよりもずっと楽にイメージができる。蜘蛛の足を得るイメージ!
「で、できた!」
背中からにょきにょきと生えた足がワキワキと動いている。
両手とも両足とも言えない不思議な感覚だが確かに自分の体の一部として機能していると思えるのだ。
「おー、いざ慣れてみると面白ーい」
カサカサとあちこち蜘蛛の足で歩き回ってみる。足と同じように動かすのも、手のように動かすのも難しい。
だけどどういうわけか蜘蛛の足として意識して動かすと蜘蛛の足はすごくスムーズに動くのだ。
「えーと、何をイメージして動かすところをイメージすれば・・・」
まず、手を伸ばしてみる。その次に同じように蜘蛛の足を伸ばしてみる。
最後に蜘蛛の足の残りを支えにして足を伸ばしてみる。
「これをそれぞれ動かすイメージ」
手握ったり、開いたり。蜘蛛の足を伸ばしたり、曲げてみたり。足を伸ばしたり、曲げてみたり。
慣れてくる感じ、なんだろうか、忘れていた事を思い出したかのような感覚。
そう思いつつ手足と蜘蛛の足を交互に動かしていると突然ルルイエの顔がドアップになり
ルナは驚いた。
「うひゃあ!」
「ごめんなさいね、夢の中だからルナちゃんが集中すると締め出されるのよね」
夢に当然のように干渉しているルルイエは相変わらずだが、ルナが蜘蛛の足を動かす術を
マスターしつつあるのを見て微笑んだ。
「いい感じね、後は起きてる状態で練習すべきかしら」
「そうなんですか?」
「蜘蛛といえば、もう一つ能力があると思うんだけどなんだと思う?」
ルルイエの言葉にルナは少し考え込む。答えはすぐに口をついて外にでる。
「糸ですか?」
「そう、でもそれは夢の中でするわけにはいかない。物を外に出す練習は起きてる時にしないと・・・」
「しないと・・・?」
「おねしょ的な感じになると思う」
「うわー・・・」
おねしょは嫌だ、そう思いながら指を動かそうとすると不意に視界が揺れた。
「あれ?目の前が・・・」
「あらら、ちょっと長く夢を見過ぎたかしら」
「長・・・く?」
「精神に負担がかかったのね、元の眠りに戻るだけだから安心してちょうだい」
「ふぁ・・・い・・・うー・・・ん」
徐々に重くなっていく瞼に抗う術もなく、ルナは目を閉じてそのまま意識を失った。
「ルナちゃんまだ起きないね」
「もう宿についたのに」
馬車は衛兵と入れ替わるようにして宿場町に到着した。それからは恙なく一泊するための宿に到着したのだが
まだ夢の中では蜘蛛の体を操作する練習をしているルナはまだ起きない。
「なんか時々もぞもぞ動くし」
「あれかな、蜘蛛の足が生えた後遺症かも」
「馬鹿なこと言ってないで部屋に行くぞ」
アダムが勝手な憶測を飛ばすティナにげんこつを落としながら生徒達を部屋に連れていく。
当然部屋は男部屋と女性陣で二部屋である。そして宿場町では山賊の襲撃を受けて負傷した
クロエとカティナの為に医者が呼ばれており、そして服が黒焦げになったダズの為に
間に合わせの新しい服が用意された。
「子供用・・・」
「ㇷ゚ッ、似合ってるって・・・」
「お古ですかねぇ、なんか・・・肌触りは悪くないです」
ダズはノームであり、さらに小柄なので合うサイズが子供用しかなかった。
しかし古着としては質が高く、ダズは案外気に入ったようだ。
「それじゃあ服も着替えたしお休みなさーい」
「こらこら、食事もまだなのに寝るな」
いつの間にか定位置になったテイロスのリュックの中に戻ろうとするのをアダムが止める。
「食事ですかぁ・・・食い気より眠気・・・」
「馬車の中でも寝てた癖になんて奴だ、フラウステッドを起こしてすぐに食事にするぞ」
次は何時になるかわからんからな。とアダムは言う。
実を言うと今は旅行シーズンから外れているので存外締まっている食事処は多い。
そして遅れながら徐々に砦で一悶着あったことが伝わってきており、
旅行客相手に商売をしている宿や店はどんどんと規模を縮小しているのだ。




