宿場町へ
倒木を道の端に移動すると少しして御者が宿場町に駐屯している衛兵を連れてきたと言いながら戻ってきた。
「衛兵が来ますよー!みなさーん!無事でしたか!?」
慌てて来たのだろう。肝心の衛兵が見当たらない。
「一人で戻ってきてどうするんだ」
「す、すみません」
御者は馬から降りて申し訳なさそうに頭を掻いた。
「まぁ、そっちも無事で良かった。そちらを追っていた山賊は?」
「衛兵に退治されて逃げるか捕まるかしましたよ」
「こっちは大半を片付けた。魔法使いが居て危なかったがどうにか撃退できたようでな」
「魔法使いを?それはすごいですね」
魔法使いの男は間違いなく重傷ではあったが魔法使いは指先一つ、杖を指し示しただけで人を殺す
技術を持っているので厳重に縛り付けられていた。
「ウチはなにかと特別な子が多くてな」
アダムは頭を掻きながら言う。学園に戻ったら何から手をつけたものかと考えていた。
ルナの訓練、クロエとカティナの治療、校長に魔力草の採取ができなかったことなど。
「魔法使いと山賊を退けるんですからそれはもう、特別ですね」
「・・・そうだな」
今回の事でアダムは状況を生徒達から聞いて二つの懸念を抱えていた。
一つはもちろんルナの事。感情が昂って相手に襲い掛かり、半殺しにしたのだ。
理由についての是非は語るまでもないが問題は理性と能力の発露が繋がっていること。
魔法にはそう言ったものはつきものだがルナの場合、人知を超えた力であるから
うっかりお漏らしした場合の被害が凄まじいことになる。
二つ目はティナのこと。
雷の魔法を受けて失神したとのことだったが体のどこを調べても傷一つなく、
それどころか起きてからは戦闘などなかったかのように元気なのだ。
同属性の魔力同士だと効果が薄くなったり抵抗力があったりすることはあるのだが
「うぇーい」
「ティナちゃん元気だね・・・いてて」
「クロエちゃん大丈夫?」
おそらくティナの元気ぶりを見るに少なからず雷の魔力を吸収している節がある。
魔法使いが使った魔法は恐らくは疑似的に大気中から雷の魔力を集めて地面に落とすという
特性を利用した魔法であったはずだ。
卓絶した魔法ではあるがこれだと同属性相手には極端に威力が落ちるという欠点がある。
雷の魔法はそれを補っても余りある威力であり、本来なら手ひどい火傷を負っているはずだ。
それにも関わらずティナはケガどころかぴんぴんしている。
先ほど言った通りこれを説明する事象としては彼女が雷の魔力を吸収したということ。
魔法使いが使った魔法は自然の魔力を集めてぶつけるというもので
同属性に対して極端に効果が薄いのはそれらが人間の魔力によって操作されておらず
混ざり気のない綺麗な魔力であることだ。
魔力を水とするならば人の魔法を介した魔力は泥やら土やらを混ぜた泥水で、
逆に自然発生した魔力から生じた現象ならばそれは純粋に水のまま。
水ならば飲めるヤツにはそのまま飲めてしまうというわけである。
ティナが失神したのは魔力を一度に大量に摂取したこと。
吸収した経験がなかったので飲み込んだ水が大量すぎて喉に詰まって
息ができなくなった感じだろう。失神に魔法の威力は関係ないので無傷だったわけだ。
「とにかく、今日は宿場町で一泊しよう。ワシも疲れた」
悪魔の少女だけでも大分と難しいがそこに特殊な質の魔力を帯びた者が二人。
テイロスも高い魔法の抵抗力を持っているようだしでとにもかくにも難しい子ばかりが集まっている。
考えなければならないことは多いが今は安全を確保してケガをした二人の治療と
休養がなによりも大切だ。
「それでは馬車に乗れー、宿場町にいくぞ」
「「「「はーい」」」」
馬車に乗るとFクラスの皆はお互いに寄りかかるようにして眠ってしまった。
「皆寝ちゃったね」
「うん」
ルナとティナだけが例外で元気だったが二人も風景を眺めている内に馬車の揺れと
皆の寝息につられてうとうととし始めた。
「今日は・・・ホントに、いろいろあった・・・」
ルナは重くなっていく瞼と、瞬きの度に窓に映る自分が徐々に普段の自分に戻っているのを
見ると安心して眠りについた。
『ルナちゃん』
聞こえる。誰かの声が。
聞き馴染みのある声だ。
『夢の中からこんにちわ、あなたの頼れるルルイエ先生よ』
なんだ、先生か。ということはこれは夢の中という体でルルイエ先生に
干渉されているということだろうか。
『そういうこと、あなたが変身したことを感じ取ったからこうして会いに来たの』
そう言えば今回はエトナ―さんとの砦での一件と、さっきの・・・
『そう、あなたの悪魔としての深度が上がったから変身に対するハードルが下がったの』
ハードルが下がるとどうなるんですか?
『変身が容易くなるわ。人間が使う悪魔化っていう術に近い形態に落ち着けると思うのよ』
悪魔化、そういえば誰かがそう言っていたような・・・。
誰だっただろうか。よく覚えていない気もする。




