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顕現

口から伸びた牙がガチガチと音を鳴らし、八つの目が交互に瞬きを繰り返しながらギョロギョロと

獲物を探す様に蠢いている。


「魔力量の正体はこれか」


杖を構える男。八つの目を備える悪魔の形態は恐らく蜘蛛に由来するものだ。


「さて、どうしたものか・・・」


男の頭には速攻で彼女を仕留めるか、それとも正体を見極めて弱点を突くべきか。

経験豊富な男は知識故に迷った。迷ってしまった。相手は化け物だ。目覚めさせてしまったモンスター。

標的は自分、蜘蛛はハンター。そして悪魔は執念深い。


「シュー・・・」


空気が抜けるような音、それが仲間を呼ぶ蜘蛛の虫笛であることは男を取り囲む

蜘蛛の数が物語っていた。


「色々と失敗したようだな」


即座に雷の魔法で頭を潰すべきだった。しかしそれももう遅い。

背中から伸びた蜘蛛の足がまるで死神の鎌のように男を狙っている。

少女の小さな体躯からは想像もつかないような長さと硬質さを秘めたその足は

並みの魔法では傷つけることすら難しいだろう。


「・・・」

「むんっ!」


雷の魔法を打つ。それはまるで当然のように少女の頭を打ち抜いたが・・・


「ハァッ!」

「効かないのか、効いてもわからないのか・・・」


ルナは頭から煙を上げながらまるで獣のようなスピードで男に肉薄した。

杖を振るう腕を蜘蛛の足が払う。


「お・・・おおっ!」


杖を握っていた男の腕があらぬ方向に曲がり捩れる。そしてそのままルナは

男の首に両手を掛けると恐ろしい力で締め上げながら木に何度もぶつける。


「が、がっ、あがっ」


怒りがルナを突き動かした。仲間を傷つけたこの男は赦せぬ。


許せない


許せないから


生かしてはおけない


木がなんども揺れた、葉が舞った。その中で仲間の声が彼女を引き戻した。


「ルナちゃん!」


マリーの声だった。唯一無傷だった彼女がルナに駆け寄ったのだ。


「テイロス君が、みんなが・・・!」


男はとっくに意識がなく、後頭部からは血がでていた。

ルナはまるでゴミを捨てるように男を放り出すとマリーに顔を向けた。


「ご、めん・・・ね」

「いいんだよ、そんなこと!それよりテイロス君を!」


マリーは顔を真っ赤にして耐えているテイロスを指さすとルナはそれを見てすぐに

テイロスに近づくと蜘蛛の足で木々を持ち上げた。


「だ、い・・・じょう、ぶ?」

「ああ、助かった・・・そんな切り札があったんだな」


息を吐きながらテイロスは木の隙間から這い出すとティナを抱き上げて木の倒れる部分から

移動させる。


「うー、服がボロボロになりました・・・クロエさんは?」

「たんこぶができたけど大丈夫かな・・・」


頭を押さえながらクロエが応えたのでダズも穴から這い出て一息ついた。


「カティナちゃんも起きてるから大丈夫だよ」

「う、ん・・・あり、が、とう」


Fクラスの一同は集まって怪我の有無を確認したが、意外な事に怪我らしい怪我をしたのはカティナとクロエだけだ。


「とりあえず全員無事・・・とは言えないけど一応無事ですね」


ダズが焦げた服の煤を落としながらため息をついた。

皆もその言葉を受けてふーっと息を吐いたが。


「で、これどうしようか」


ティナがルナを見やる。


「変身したのは良いとしてこの足どうにかしないと馬車に乗れないよ」

「うー」

「屋根に張り付きます?」

「寒いって流石に」


口を閉じても2本の牙が覗いているし、背中から伸びている蜘蛛の足は長い。


「おー、目って規則的に瞬きするんだね」

「そー、な、の?」

「うん、見てると不思議な感じがする」


ティナが指を鳴らしてルナの目の動きを観察している。指の動きに追従するように

きょろきょろと動いてはぱちぱちと瞬きするのだがそれが左右同時であったり

左右交互に人の目から順番に下から瞬きしたり。


「おほー、四倍のウィンクだぜー」

「こ、わく、ない?」

「なにが?」


ルナの目には不思議そうにこちらを見つめるティナと戦いの一段落で呼吸を整えていたり

ケガの具合を確かめていたりする仲間たちが映っている。

そんな彼女たちと自分は明らかに違ってしまっている。


見た目も、そして中身も。


「わ、たし・・・ひと、じゃ、ない・・・」

「人だよ、少なくとも私達の友達ではある」


恐る恐る、そして、期待を込めて尋ねたルナにティナはあまりにも

あまりにも当然のように答えた。


「ね、友達でしょ?まだなり立てだけど、私とルナちゃん。ルナちゃんとFクラス。まだまだ日も浅い、知らないことも、きっと相容れないこともある私達の始まったばっかの付き合いじゃない」

「う、ん・・・」

「むしろ浅い付き合いの内に秘密を打ち明ける機会ができてよかったじゃん。これでダメでバイバイしなきゃでもルナちゃんにとって私達はまだ浅い付き合いだしルナちゃん整理がつくでしょ?」


素っ気ないともとれるその言葉に、それでも彼女の精一杯のやさしさが垣間見えた。

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