帰る?
山賊たちは恨めしい目線をエトナ―に向けていたが・・・
「チッ、教会が出張って来てるなら辞めとくべきだな」
「触らぬ神に祟りなしってか」
「大陸中に触れが出ると生きていけねえからな」
教会の情報網は非常に広く、大陸の端から端まで現地の教会から各地の聖堂を経由して様々な
情報が早いスピードで伝わるのである。
「ヤツがいなけりゃな・・・」
山賊たちは続々と引き上げていく。
一方馬車で町の中を移動するFクラス一行。食べ損ねたお昼をクラスで分けて食べていた。
「パンと干し肉、果物のセットかぁ」
「このパンそのまま齧れるくらい柔らかい」
「干し肉もちゃんと塩を落としてあるね」
「お客さんに出すように処理してくれてるやつだ」
子供たちがわいわいと食事を取っている中、アダムも少し休憩を取る。
町中にはガイドの男性が触れ回ったのだろう、兵士達がところどころで目を光らせている。
だがアダムと御者の保護者サイドは町の外に出てからが本番である。
山賊たちが諦めているとは限らないし、外に出れば兵士たちの管轄外である。
そうなると今度はきれいごとは言ってられないかもしれない。
「ディーンさん、町の外はどうですかね?」
「わからん、だが山賊は砦の混乱を察知してる。国境が破られることはエトナ―がいるから問題ないとして・・・国内側で活動している奴らがどう動くかだ」
実際こちらも戦ってきたからな、とアダムが言うと御者はギョッとした顔をして
胴当てをコートの内側につけ始めた。
「腕と頭にもできる限り防御しといたほうがいいぞ」
「・・・はい」
御者は帽子の内側に額当て、そして厚手の手袋と手甲をつけることにした。
「おい、例の奴らは見つかったか?」
「ああ、町を出るらしい」
「あのガキ、絶対許さねえからな」
馬車が町の中を移動するのを見つめる不穏な影。ティナにこっぴどくやられた山賊の仲間が
復讐に燃えてFクラスの動向を探っていたのである。
とはいえ町中では彼らも手は出せなかった。そう言った動きを見せればアダムには察知できたし
増員された兵士たちが町の中を歩き回っていたからだ。
彼らは町中でスリや窃盗にも手を染めていたがそれらの商売も上手くいかずその原因となった
一行にイライラを募らせていたのだ。
「町を出て兵士たちが気付かない距離にきたら仕掛けるぞ」
「わかった」
山賊たちは仲間に連絡を回し、馬車を追いかける手筈を整える。
「町を出るぞ」
「また馬車の旅かー」
アダムの言葉にティナが少しうんざりしたように言う。大分と機能的な馬車を用意してもらってはいたが
やはり馬車は馬車である。しかも多人数で荷物もあるのでわりと狭い。
「テイロス君、悪いけどちょっと詰めてもらえる?」
「すまん、もう隅っこだ。これ以上は馬車が壊れる」
体格の大きいテイロスは荷物に混じって馬車の奥で体を折りたたんでいる。
それでも嵩張るのでどんどんと端に追いやられていく。
「クロエ、なんか濡れてんだけど」
「ごめん、まだちょっとお茶の効果が抜けなくて・・・」
クロエと隣のティナはほぼ密着するレベルの狭さの都合上、彼女のじめじめの影響をモロに受けていた。
彼女のじめじめはアルコールのように揮発性が高く、割とすぐに乾くのが幸いか。
「わっぷ・・・ルナちゃんごめんね」
「ううん、こっちは大丈夫だけどケガとかしてないよね?」
「うん、クッションになったから・・・」
「?」
「なんでもない」
馬車が揺れてマリーがルナの方に倒れる。その際にルナが抱き止めたのでマリーはなんともなかった。
しかしそれをみていたカティナとマリーはその後、自分のと比べてちょっとがっかりした。
「zzz・・・」
「全く起きないね」
「呑気なヤツだ」
リュックの中で目を閉じていたダズは顔色も良くなったがそれとは関係なしに
寝息を立てていた。実際小柄とはいえ一人が荷物と一緒くたになっているので省スペースになっている。
「さて、もうじき町には戻れない距離だが・・・」
「いい感じに待ち伏せに適した地形も増えてきますよ」
「もう俺もいい年だから2徹くらいしか耐えられん。なにがあっても手綱を握る手を緩めんでくれよ」
行きでは気にならなかった地形も待ち伏せを意図する敵がいるとなれば話は変わってくる。
ましてや相手は無法者である。万一負けるようなことがあればそれは死に直結する。
(ワシが相手にした奴が一番の妙手ならいいんだが・・・)
兵士や悪魔の力を借りた隊長から生き残る連中である。逃げ足だけならいいが
腕がそれなりに立つこともわかっているのでアダムは内心で嫌な予感が拭えなかった。
特に地の利は相手にあり、こちらは守るべき人員が多い。
「道に異変があったらすぐに教える、逆に何か気付いたらすぐ言ってくれよ」
「もちろん、こっちだって死にたくない」
御者台に座っている都合上何かあれば一番無防備なのは御者だ。アダムが隣に座っているので
多少は安全かもしれないがそれだって限界はある。
御者は手甲と胴当ての重さに信頼を置くしかなかった。




