教師のあれこれ!
コロンはため息をつくと試験監督に心配されているルナの元へ。
「大変でしたねぇ」
できるだけ穏やかに話しかけ、目の前の少女を怖がらせないように努めながらもコロンは内心穏やかではなかった。
(子供を利用してなにやら企んで居るようだな、断じて認められないことだ)
一応、コロンもルナの潔白を証明できるようにこっそりと彼女に提案をしておく。
「貴女、何かアイツらにおかしなことはされてませんね?」
「おかしなこと?」
「食べ物を渡されたとか、香水なんかを掛けられたとかですかね」
「いえ、ありませんが・・・どうして?」
「あの連中、どうにも貴女が失敗すると確信していたようだ。となるとなにかしらの妨害があったのでないかと思いましてね」
もしくは魔法を使えることに難癖をつけてくる可能性だ。元よりあれほど手が込んだやり口を見るに簡単に諦めてくれるとも思わない。
「貴女、申し訳ないですがFクラスに入ってもらいましょうかね」
「コロン先生、彼女ならそこじゃなくても・・・」
ルナも少しだけ躊躇った。Fクラスといえば落第寸前の生徒が集められるというクラスだ。しかしコロンはそれに対しても平然と答える。
「受付が遅れた子やら、時には人数合わせで増設されたり減らされたりするんですから必ずしもそうとは限りませんよ、私の時はGクラスまでありましたしね」
その時はGだからゴミクラスなんて言われてたんですよ!と笑いながら言う。なんの慰めにもならない言葉に試験監督は呆れた表情だ。
「そんなGクラス出身でもこうして校医になれてるんだからクラス出身なんてどーとでもなりますよぉ」
「先生が?」
「ええ、私も貴女と同じ追試組でね。ま、Fクラスにはゴタゴタに強い知り合いが担任だからお任せするだけですよ」
そう言うとコロンは壁に掛けてある時計を見てお腹を摩ると昼休憩だ、と呟いて紙袋に詰めた昼食を手に会場を出ていってしまった。
「相変わらずマイペースな人だなぁ」
試験監督がそう呟いて、順番待ちの生徒たちに昼休憩を伝えに行く。ルナは実技試験の合格証明を受け取るとコロンのせいでイマイチ実感を得ないまま帰宅する運びとなった。
「おぅい、アダム、いるかなぁ」
コロンはガサガサと紙袋からパンを取り出して齧りながら職員室に入った。そこには自分と同じ年頃の中年の男性が机に向かっていた。
「生徒が見てるぞ」
「いやあ、どうにも朝飯を食いそびれたもんだからお腹空いてさ」
あまり行儀が良いとは言えない仕草にアダムと呼ばれた男性は呆れた様子だがコロンは何処吹く風。隣の席に座ると備え付けてあるサイフォンでコーヒーを作り始めた。
「お前さんコーヒー基金に金出してないだろ」
「固いこと言わないでさ、そんなことよりちょっーとばかし大事なお話があるんだ」
「まったく」
コーヒーの匂いが漂い始めるとコロンは上機嫌だ。対してアダムはこの男が何を言い出すのかと嫌そうな顔で待っている。
「追試の生徒に、あの、いたんですよ。かーわいい子」
「ほー、それは良かったな」
「えー、そうそう。若い子見てると元気になるから・・・んでね、魔法局の人間も来てたんだよねぇ」
アダムはその言葉に顔をコロンに向けた。
「魔法局の人間が?」
「んー、そうだね。なんでかは知らないけど彼女が追試に合格したのが気に入らないご様子でね」
「魔法局の人間か、まったくどういうつもりなんだか」
「そこが気になってね、君が担任になると思うから気にかけて上げて欲しいんだ」
コロンは頼むよ、とアダムの肩を叩いた。アダムはため息まじりに頭をかくと生徒の名簿を出して目を通し始めた。その隣でコロンはパンを齧りながら覗き込んでいる。
「追試予定の生徒・・・この子か?」
「そうそう、ルナ・フラウステッドさんだ」
「この子がどうして・・・そうか、大人の都合と言う奴だな?」
アダムの言葉にコロンはコーヒーを飲みながら頷いた。魔法局は魔法使いのエリートが詰めている印象だ。
ただエリートとは言ってもそれはどちらかといえば家柄や権威に置いてのそれだ。その中で大人の都合という言葉が出てきたのはフラウステッドという名前にアダムは聞き覚えがあった為でもある。
「フラウステッドと言えば治安維持隊の突撃部隊からの出世組だったか」
「聞いた事ある名前だと思ったらそう言うことなんだねぇ」
「ワシとお前で何度か仕事に立ち会ったはずだが・・・」
魔法局と魔法学校はそれなりに関係は深い。というより魔法という重要な素質を持っている生徒は何かと厄介に巻き込まれやすいのである。もしくは厄介の種になることも。
アダムはその中で魔法学校の生活指導的な役割をしていたので何かと魔法局の治安維持部隊と関わりがあった。
コロンは校医であることと魔法に関する体調不良や怪我に精通している為生徒が怪我したり、怪我をさせたりすると出動する事になる。
「地道に職務をこなして出世したというのに難儀なことだな」
「まったくだね」
「出世競争に関してはどうでもいいとして・・・子供に手を出すのは気に入らんな」
「そう言ってくれると思ってたよ。頼むよ」
アダムは頭をガシガシと掻くと席を立って、帽子をかぶるとそのまま教室を出ていった。




