魔力草の採取
お湯が沸くにつれて徐々にいい匂いが立ち込め、まだ眠っていたエルフたちも
一人、また一人と目を覚まし始めた。
「お茶の匂い嗅ぐと起きてくるのはエルフならではだな」
エトナ―は茶葉の袋を揺らしながら微笑む。森に住むエルフはお茶をなにかにつけて飲む。
酒場の代わりに喫茶店があり、金属嫌いながらポットは例外になるほどだ。
無論そこでもお酒は飲めるが基本的に彼らはお茶を好み、お茶休憩があったりする。
「例外もあるが」
カティナはエトナーの視線を辿ると未だに
丸くなって寝ているルナを見つける。
「そろそろ起こした方がいいぞ」
「はーい」
お茶が沸いたのを見計らってエトナーはポットを本来湯を沸かすのに使うであろう金属製の
小型火鉢に載せ替えて五徳の上に網を置いた。
「さて、簡単なもんだが勘弁してくれよ」
エトナーはナイフでパンをスライスし、網の上に乗せていく。そしてそのパンが焼けると
今度は長いフォークにチーズを刺して炙りパンの上に乗せてエルフ達に渡していった。
「ほい」
「ありがとうございます」
最後のエルフの一人に渡すころになるとルナがむっくりと
起き上がってくる。
「おはようございます・・・」
「おう、おはよう。パン焼けてんぞ」
「ありがとうごじゃいますぅ」
まだ夢現といった様子ながら受け取ったパンに齧りついた。
「寝ながら食べてる?」
「朝弱いんだな、それよりカティナ、お前さんの分も食ってるぞ」
「えっ!」
瞬く間に一枚食べたルナは二枚目にてを出ていた。
「る、ルナちゃん!それ私の!私のっ!」
即座に取り上げたものの三分の一ほどが無くなっていた。
「ぐぅ」
「あぁ・・・」
「災難だったな」
食べるものが無くなったルナはまた船を漕ぎ出した。長く馬車に揺られていたことと寒かったこと、
悪魔としての力を発揮したので昨日は思いの外消耗していたのだ。
「そういや、ルナちゃんはアダムのやつとクラスメイトも一緒に来てたはずだが・・・」
何しに来たんだ?とエトナーは首を傾げる。
「遠足ですかね?」
「こんなところに?・・・あ、そうか。ここら辺で魔力草が取れるんだ」
「魔力草?」
「マナポーションとかの材料になる薬草だよ。魔法使うならこの薬草には必ず世話になる」
少ない量ならここで仕入れた方が安いからな、とエトナーは言う。魔力草は大抵は庭園などで
栽培されているが質や実験に使うなら天然モノを採取して乾燥させ、
粉末にして触媒にするのがよろしい。
「たぶん迎えにいくついでに魔力草を採ってくるつもりだったんだろうな」
「採っていいんですか?」
「身の安全に関して自己責任でいいならな。あそこは砦から遠めのところだし、山の天候やら防寒対策やら必須だ」
その点魔法使いなら心配は少ないだろう、とエトナーは続ける。
魔法使いは普通の剣士や兵士と違い、脅威に対して遠距離から
対処できるし風よけの魔法や火を起こすのに着火用の
道具が要らなかったりとアドバンテージがある。
「あと、丸坊主にするような採り方したらもちろんだがしこたま怒られるぞ」
「怒られるだけで済むんですか・・・?」
「ああ、あとはちょこっとばかし牢屋にぶち込まれるだけだ」
「怒られるだけで済んでないような・・・」
「ああ、あと金払ったら許してもらえるぞ」
投獄と罰金は十分に大ごとである。この砦が国境と共に守っている町の産業であり
国の資源であるから当然といえば当然だが。
「・・・まあそう言う事なら早いとこクラスメイトのとこ行った方がいいだろ」
そう言うとエトナ―は炭に灰を被せて火を消してしまうと杖を持って立ち上がった。
「お出かけですか?」
「ああ、砦の連中も一夜明けてちょっとは落ち着いたろ。色々と教会や国から言われてるから後始末にな」
エトナ―が一応の責任者として後任が国から派遣されてくるまでの中継ぎとして
一旦留まるらしい。一聖職者にそんな権限があるのかと言われそうだが
悪魔が出たということで特例として彼女が代理を務めることができる。
当然ながらこのことは教会の特権として嫌う国や地域もあるが今回に限っては
国から要請を受けて調査に赴いた途上で起こったこと、さらに
トップが廃人になっている状態なので職務が滞らないようにする必要があるのだ。
「もし合流できたらアダムには細心の注意を払って採取に行くように伝えとけ」
「わかりました、でもどうしてですか?」
「賊やらにトップが居なくなったことがバレたらヤツらは活発になるからな。向こう側に国境を越えるために商人や旅人がたくさんいたらこっち側には手が回らんかもしれん」
エトナ―は溜息をつくとそのままローブを羽織って出ていってしまった。
教会は基本的に戸締りはしないがそれでもめちゃくちゃ不用心である。
「とりあえずルナちゃん起こすか・・・」
気が付くとエルフたちはもう誰も居なくなっていた。ルナと二人取り残されたカティナは
さっそく冷え始めた教会の中で溜息をついた。




