砦の隊長さんは!?
エトナーは一番奥の部屋へとたどり着くと挨拶も無しにそのドアを蹴破った。
「ちょ!エトナ―さん!」
ルナは先ほどから呆れ通しだったが・・・目の前の状況はかなり差し迫ったものだった。
時間は遡って・・・
「まずい、まずいぞ」
砦の隊長を務める中年の男性。名をキリル・ミドルトンと呼ぶ。
生来善良とは言い難い性格の持ち主で、なにかとせこい事をしては小金を稼ぎ、
貯めた金で賄賂や付け届けを続けてこの地位に上り詰めてきた。
なぜこのような山間部の砦か、と問われるとそれは輸入品などを横流しするためである。
国境に面するこの土地にはたくさんの物や人が行き交うがここでの情報を誤魔化せば
いくらでも物資や人の出入りを操作できてしまう。
また、本国から送られてくる物資も少しずつ水増しすればその分を
懐に入れていけばちょっとずつお金が貯まる。
しかも国境線に属しているとはいえ面倒事は立地の問題で起きにくく、
それでいて尚資源のある土地なのである程度の設備は必要なのだ。
つまり彼の得意なせこいやり方がもっとも効果的な場所とも言える。
ただ長らく頂点に立ち続けてきたせいか彼にも欲が出てきた。
(ぼちぼちたくさん稼ぎたいな・・・)
せこいやり方を卒業してどかっと稼ぎたくなったのである。
そしてその第一弾としてやらかしたのが国境に不穏な動きがあると嘘をついたことである。
本国は国境での騒ぎにいち早く物資や増援という形をとった。
その際にキリルは細心の注意を払い、山間部に現れた盗賊などを細かく討伐することで
増援で来た兵士や本国に細かい言い訳をして事なきを得た。
そしてその際に余った物資を横流しして資金を得たのだ。
さらに増援に来た兵士の隊長にも賄賂を渡して架空の出動を繰り返させて
本国からまんまと支援を受け続けた。
そんな彼の天下に翳りが見えたのはまず、増援に駆けつけてくれるようになっていた
兵士の隊長が満期で除隊になってしまったことだ。
それに伴って新しく赴任した隊長は複数回の出動報告と兵士達の勤務報告が当然ながら
釣り合わないことにきづいてしまったのだ。
キリルはそれをもみ消すために大量の金銭と報告書の捏造を必要とした。
しかし天は彼を見捨てず、蛇の道は蛇といったものでキリルに手を差し伸べる者が居たのだ。
「国境警備となれば人員の流通などもあるでしょう、どうでしょうか?互いに儲けませんか?もちろんその見返りは・・・ねえ?」
思ってもみなかった言葉にキリルは飛び上がって喜んだ。
その人物は彼の本国在住の紳士風の男で、上流階級にツテがあるという。
キリルは藁にもすがる思いで承諾することで、彼は事なきを得た。
憐れなことに新人の隊長はその日から行方が知れていない。連絡が取れなくなったことに
キリルは不安を覚えたがもうすでに後の祭り、彼に指示された仕事は報酬と引き換えに
非常に危ない橋を渡ること・・・つまり人身売買である。
外に連れられて行く人を見逃し、中に入る人を捕まえて商品にする。
入国者に該当する特徴のあるものを捕まえては本国の紳士風の男の元へ。
バレれば仕事を失うどころの話ではなかったが彼にはその代わりに
正常な判断を奪うだけの金銭が届けられた。
その欲望を満たすだけの金銭に酔いしれたままならば彼は幸せだったかもしれない。
だがその幸せには常に不安が付きまとった。自分の属する組織よりも大きな存在を匂わせた
その組織は彼に時折、金銭だけでなく恐怖までも届けていたのだ。
「このままでは私も・・・あの隊長のように・・・」
そうして不安に駆られたキリルはどうにかして自分の命と財産を守るべく様々な手を尽くしたが
その結果が出るよりも早く彼の元に首輪を持った悪魔が訪れた。
「ごきげんよう、隊長。儲かっているかな?」
「ひっ!ど、どうやって入ってきた!」
自室で金銭を数え、日々の不安をどうにか誤魔化していた彼の元に以前の紳士風の男が立っていた。
以前と違うのは彼がぞっとするような雰囲気と目つきをしていたことだ。
「そんなことはどうでもいいじゃないか、隊長。そんなことより私は悲しいよ」
「な、なにがだ」
大げさな身振りで部屋を見渡す男にキリルは汗を流しながら尋ねる。
「足抜けしようって?私達の仲じゃないか・・・今更逃げようったってそうはいかない」
「っ!・・・そ、そんな話どこから・・・」
「言い訳はいいんだよ、そんなことよりこれ、書けよ」
まるでコートを摘まんで椅子にひっかけるような動作でキリルは椅子に座らされた。そして
その机には男の指を弾く音と共に羊皮紙が広げられる。
(こいつ人間じゃねぇ!やばいやばいやばいやばい!)
自分の肩越しに羊皮紙を指さすその手は既に人外の特徴を現しており、執拗にとんとんと机を叩いている。
「これは・・・?」
「契約書だ、お前が逃げないようにな」
「逃げないようにって・・・」
契約書にはキリルにも読める大きさで「逃げたら魂を奪う」と書かれている。
その文字を見た瞬間に今まで経験がないほどの大量の汗と動悸がキリルを襲った。




