教会へ
ルナはエトナ―がルルイエと大喧嘩した際にとんでもない状態になっても
平気であることを知ってはいたがそれでも自身を顧みない彼女の考えは少し気になった。
「エトナ―さんも少しは自分を大切にした方がいいんじゃないでしょうか・・・」
「んー?そうか?まあ、心配してくれてありがとうよ」
馬車に揺られる中、エトナ―はルナの言葉に思わず笑みが零れた。まさか自分が心配されるとは思ってもみなかったのである。
「まあ、クラスメイトが大変なら助けてやるのは当然だわな。そうなるとお前さん以外の子はどうしてるんだ?」
「宿に行って、留守番組と魔力草を採取しにいく組とで分かれてるはずですよ」
「此処に来てるのか?移動は何で来たんだ?」
「手配してもらった馬車です」
エトナ―はクラスメイトと一緒に馬車で来たと言うルナの言葉に頭を働かせる。ここら辺で馬車も預かってくれる宿は多くない。彼女の記憶の限りだと街の入り口近くの宿しかないはずだ。
普段だとかなり不便なところだが今回の事に限っては結構都合がいい。国境の外はならず者が多いのに対してこちら側を超えるとこの国の治安組織の努力によりそう言った輩は少なくなっている。
そのため、入出国の為に滞在する人と違い必要な手続きも少なくいつでも帰ることができるのだ。
「ふーむ、なら宿がどこになるかは凡そ見当がつくからお前さんはこのまま私と行動しとけ。困ったら馬車は一旦預けてこっちに避難してもらうことも必要になるかもだ」
どうせアダムの指示で来ただろ?とエトナ―が言うとルナはこっくりと頷いた。
「どうせならお前さんもウチの仕事手伝うか?社会科見学ってやつ」
「いいんですか?」
「構わんよ、一緒ならどうとでもしてあげられるしな」
ルナは少しだけ迷ったがエトナ―が普段何をしているのかわからなかったので好奇心が出てきた。
今回の仕事はどちらかというと父の仕事にも近い気もするからだ。
ルナは両親を愛している。そして尊敬もしている。母は神官だったし、父ももとは治安組織の現場で働いていた。
最近になって街にあった違法な組織の調査に参加していたこともあったし、自分を助ける為にアダムと一緒に現場に踏み込んだとも聞かされている。
(お父さんみたいに・・・)
女の子ながらルナは父の姿に憧れを抱いているのだ。
「やります!」
むん!とやる気を見せるルナ。エトナ―はその言葉に笑み浮かべて頷いた。
「っと、到着だ。ここが国境を守る砦の為に作られた町だ」
馬車が門を潜る。石造りの城壁に囲まれたその町は山に面しているからかどの家も寒さを凌げるように設計されているらしい。ところどころに火の精霊を呼び込むための設備がある。元々は炉の熱を維持するために精霊の居心地が良くなるようにしてあるものだがそれが暖房にも使える事がわかってからは寒い地域には必須の設備になっている。
「ここは冷えるからな、ちゃんと着こんどけ」
「はーい」
馬車を降りるとそこには砦と同じように頑丈そうな作りの教会が。
「教会にしては随分と地味というか、無骨な感じがしますね」
「いざという時に民間人が逃げ込む場所だからな」
降りた際に通りを抜けていく風がルナの頬を撫でた。それは山間部特有の冷たいもので夜間の行動が非常に難しいものであることを示していた。
「うー、寒い」
羽織ったコートが有難い。母が心配してルナに持たせたものだが旅慣れた彼女の判断は的確だったと言えよう。
「とにかく中に入るぞ、ここはとにかく冷えてかなわん」
中に入ると二階までの吹き抜けの広間が。中央には大きな囲炉裏が設営されており、複数人が暖をとれるようになっている。
「うーさむ・・・って誰もいねえのか。火も焚いてねえじゃん」
エトナ―は渋い顔をしながら囲炉裏の真ん中に炭をぽいぽいと投げ入れ始めた。
「ルナちゃん、すまんけど着火してくれ」
「魔法でやっていいんですか?」
「構わんよ、その方が長持ちする」
火口を手渡されてルナはエトナ―に確認を入れた。というのも魔法で起こった火というのは普通よりも精霊を集めやすい。精霊が集まると火の温度が高くなりすぎたり火が大きくなりすぎたりする。そうなると燃料が早く燃え尽きたりするデメリットがあるのだが・・・。
「煙突がついてるだろ?その煙突が精霊の力を得て熱を持つんだ。そんで火が消えてもその煙突が熱を発し続けて部屋を暖めてくれる」
煙突はレンガを組んだものかと思いきやところどころに金属で補強された形跡があり、そこに火の精霊を意味する文字が刻まれている。エトナ―が言うにはその金属が火の熱を精霊から受け取って保存し、長期間熱を発し続けるのだという。そのためこの仕組みは魔法で火を起こした方が効果が高くなるのだそうだ。
「それでは・・・えいっ!」
火口を炭に乗せて火の魔法を発動すると火口についた火がちろちろと燃え始め、そこから炭に瞬く間に燃え移った。
これが魔法を使う事のメリットだ。ルナは火箸でそれをエトナ―が放り込んだ炭の山に放り込む。




