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カティナのお話 その2

国境を越えて、そこから馬車をいくつか乗り継いでいけばそこに魔法学校がある。

寮もあって、そこで暮らしている生徒もいるそうだから安心だ。


「ついたらどこかで生活費稼がないとなぁ・・・」


国境に近づいたところで砦を抜ける為に通行証を取り出して順番待ちの列にならぶ。夜になって門が閉ざされたら全員がそこらに野宿をして、朝になったらまた再開といった具合だ。

門の外にも一応兵士の詰所があって、皆は安心して野宿できるようになっている。


「ここを越えたら学園生活まで秒読みだ」


数日の足止めを受けて、今日こそはと思いながら通行証を見せて兵士のチェックを受ける。すると兵士が私の通行証を見て、私の顔と交互に見比べ始めた。


「君、エルフかい?」

「そうですけど・・・」

「ちょっと別室で検査を受けてもらうよ」


そう言われて別室に連れていかれた。そこまでは良かったのだがここはどうみても・・・


「あの、ここは独房では?」

「とりあえず入ってろ」


背中を押されてカティナは転がるように独房へと押し込まれる。

目を白黒させている間に鍵が閉められ、閉じ込められてしまった。


「うそっ!なんで?!」


戸惑いながら周囲を見渡すと複数ある独房にはそれぞれエルフが押し込められている。純血のエルフである彼女の能力なのか彼らが自分に近しい濃い血の持ち主であることが伺えた。


「なんでこんなことに・・・」

「商売だよ、エルフの小娘」


声のする方向を見ると入ってきた扉から一人の男がこちらに歩み寄ってきていた。服装を見るにこの砦でそれなりに高い地位にあるもののようだ。


「商売・・・?まさか私達を?」

「純血のエルフは高く売れるらしいからな」


男は聞きもしないことをよく喋ってくれた。曰く、この商売は長いこと。自分が向かうはずだった魔法学校のある街で裏の世界の人間が仕切るオークションがありそこで自分達はまとめて売りに出されるのだそうだ。


「うそでしょ・・・」


外に出たとたんにこれである。自分の身にこんな事が起きるなんて・・・。

考えても考えてもここを脱出する手段なんて思いつかなかった。


「風よ・・・うっ、く・・・無理か」


魔法を使おうとしてみたけれどそれも無駄だった。部屋の四隅に魔力の流れを阻害する術式が刻まれている。

そのせいでここは魔力を散らすようにできているようだ。人間だって魔法を使うのだから当然か。


「ああくそ・・・ここに”破獄”が居てくれたら・・・」


どうにかして脱出を試みる中で一人、中年のエルフが呟いた。


「破獄?」

「私達エルフにとって生ける伝説さ。たった二十年ほどの間のことだが・・・」


カティナはエルフの悪い癖が出ていると思い、ちょっと複雑な気持ちでそれを聞いていた。

エルフの長い寿命からすれば”たった”であるが人間にとって二十年はかなり長い話だ。

しかもここに来る途中で一言も聞いたことがない話である。眉唾もいいところだ。


「純血に近いエルフが売り物にされることは長く生きてると耳にすることがある。祭神みたいに丁重に扱ってくれるところもあれば、薬の材料にされちまうこともあったそうだ」


縁起でもない出来事が実際にあったと聞かされて独房の中の空気は最悪になった。しかしそんなことはお構いなしに一番年かさのそのエルフは続ける。


「攫われてしまったエルフは帰ってこない・・・はずだったがそれを覆した男がいたんだ」


彼はそう言うと窓の外を見やる。外は日が傾いて暗くなってきていた。夕闇はまるで自分達の不吉な運命を示すようで皆は一層暗い気持ちで押し黙っている。


「それが破獄、囚われたエルフたちを救い出して悪党を成敗してくれたんだ」

「実物を見たの?」

「いや、しかし実際に帰ってきた人に聞いたから居たことは間違いないんだ」


カティナは半信半疑で担いでいた鞄に寄りかかってため息をついた。荷物は取り上げられなかったがもちろん鍵開けや抵抗できるような道具なんてない。


準備が整って売りに出されれば一貫の終わりだ。


「破獄の・・・たしか、ディーンだったかな」


ディーン、その名前を聞いてカティナはふと、魔法学校で自分の担任になる先生の名前を思い出していた。


(たしか私の担任の先生もディーン先生だったかな・・・)


そう思いながら鞄を枕にうとうとし始めた時だった。


カタン


物音がして不意に目が覚めた。そして音を殺した着地音が聞こえるとひたひたと足音が続く。


「カティナ・アインザッツ君かな?」

「・・・誰ですか?」

「こんなタイミングになって申し訳ないが、君の担任のアダム・ディーンという」


鉄格子の前に立っているのは一体全体どういうわけかわからないが担任の先生らしい。

混乱する私を他所に鍵を手慣れた様子でこじ開けて扉を開けると中に入ってきた。


「国境で身動きが取れなくなっていると聞いていたがこんなことになっているとはな」


そう言って彼は手を差し伸べてくれた。

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