国境に向かって
結果からいうとダズは国境へ向かう道中ほとんど寝ていた。
最初は皆思い思いに起こそうとしていたが四六時中寝ているのに夜は夜でキッチリ寝てしまうので皆放置することにした。
「そろそろ国境の近くだな」
アダムはそう言うと馬車の窓の外から覗く景色を見る。ルナ達には多少賑やかな状況と言った程度の認識だったが経験のあるアダムにはこの状況がややきな臭いものに映っていた。
(食料品の出入りが多いな、山間部なのに町の規模に少々見合わないが・・・これは本当にあり得るか?)
すれ違う馬車は空で、自分達と同じ道を行く馬車は皆保存食や小麦などの穀類を積んだ馬車ばかり。
アダムの予測を裏付けるようにさらに自分達の道に同行する馬車には教会のシンボルを掲げた馬車が。
「教会の馬車がいますね」
「いやーな予感がしてきたぞ」
ルナが教会の馬車に気付いて窓に顔を近づけた。そしてその馬車の近くにさらに見知った顔があるのに気付いた。
「あ、エトナ―さんだ」
「知らん顔しとけ!」
アダムは即座にルナを窓から引き離した。かの聖人が現れるところ争乱ありである。
「いよいよもって嫌な予感がしてきたぞ」
「どうしてですか?」
「食料が大量に運び込まれてて、坊主がやって来てる資源のある国境地域とか問題しかないわ!」
僧侶に対してアダムが何故嫌な予感を感じているのか。それについて説明すると日光教の仕事の一つが「地域の安定」だからである。古今東西俗世から離れて市井の損得から離れている宗教組織は揉め事が起こった時の住民の保護や戦争や紛争の仲裁を行う立場なのである。
言い換えればこれから紛争か、下手をすれば戦争が起こるかもという前触れなのだ。
食料品の大量流入もこれに該当する。食料は全て兵士たちを養うためのもので、戦いに備えるものに他ならない。
「こりゃ国境を超えるのは至難の業だぞ」
「えー、じゃあどうしたら・・・?」
「宿に泊まれたらいいが、もし断られるようなら馬車で車中泊だ。場合によってはすぐにとんぼ返りする必要がある」
「魔力草の採取も無理そうですかね?」
「わからん、場所に関してはわかってるか?」
「一応旅行者向けのパンフレットにも載ってますけど・・・」
アダムはそのパンフレットと一応下調べした自分の記憶とを比べて場所を確認すると二手に分かれる計画を立てることにした。
「この状況だと国境にこのまま近づくのは賢い選択じゃない。魔力草の採取組と居残ってすぐに帰り支度をする組、そしてワシがクラスメイトの安否確認を行う」
アダムがいつになく真剣な表情で言うのでティナたちも珍しく緊張した面持ちで話を聞いている。
「魔力草の採取をするときは身元と目的、所属をきっちりと説明しろ。誤解されると牢屋にぶちこまれるからな」
「わかりました」
「あとフラウステッドはエトナ―に事情を聞きに行け、こうなってはしょうがない」
アダムは嫌々と言った様子だがルナに指示を出して先んじて馬車を降りるように告げた。
「事情を聞けたらお前はエトナ―と一緒に居ろ。こっちから迎えに行く」
「わかりました、それではお先に」
馬車が一旦停まったのを見計らってルナは馬車を降り、教会の馬車を追いかけていく。
「ルナちゃん大丈夫かな・・・」
「エトナ―と知り合いだから大丈夫だ、それに彼女の御父君は治安組織に顔が利くからな」
「それよりワシらの方が大変だぞ、さっそくだが班決めだ。留守番組と魔力草の採取組に分かれる必要がある」
ティナ・マリー・ダズ・テイロス・クロエの五人だが・・・
「採取組は普通にアタシとテイロス君とダズ君じゃない?」
「何故だ?」
「クロエは山歩き不慣れだし、マリーちゃんもヤバくなったら大変だからこういう時は男と足に自信がある子が鉄板でしょ」
ティナの言葉にアダムはふむ、と考える。確かにこういった時に体力的に劣るクロエとマリーを採取組に入れるのは不適格だ。それはそれとしてこういった際に長所や短所を考慮して発言できるティナにアダムは感心した。
「よし、それでは留守番組は荷物の管理と馬車にいつでも乗り込める状態で待機だ」
「わかりました」
「・・・わかりましたぁ」
アダムは生徒に指示を出すと自身も馬車を降りて御者に声を掛ける。
「すみませんが何かあれば子供たちを連れて街まで戻ってください」
「わかりました、先ほどの子は?」
「あの子は教会の人とつながりがあるのでどうしようもない場合こちらで何とかします。あくまで最悪のケースですがね」
「わかりました、馬車が停まれる宿はそう多くはありませんからすぐに見つけられると思います」
「無理を言って申し訳ない」
お願いします、と念押しすると御者は帽子のつばを持って頷いた。アダムはそれに頷き返すとそのまま雑踏の中に姿を消した。




