新しい事を始めなければ!
遅れているかも、と思ったのはなにも技術だけではない。一部の国では戦乱が収まり、武具に装飾を施す儀礼的なものの発注され始めた。そうなると必要なのは技術だけではない。芸術や美術に対する造詣もだ。
流行り廃りに振り回されない技術こそ持っているが需要が無くなれば質もクソもないのである。
「薄くて丈夫な鉄、硬くて軽い鉄。そんなものも作る必要がでてきたよな」
彼らは重厚感に一種の信仰があった。すべてのドワーフがそうだとは言い切れないが彼らの武具に対する姿勢は常に重く・厚く・無骨であった。徹底的な機能美でもってすべての顧客を満足させてきた自負がある。
だからこそ受け入れるのにかなりの時間はかかったが内心では皆思っていたことだった。
それは注文の内容の変化が示している。そして身内からの言葉が続いて彼らも現実を直視することになった。
「鉄は鉄として俺たちには必要だ。だが商売をするなら・・・」
別の手段がいる、となった。そこで鉱山都市の面々は各々若者を集めた。理由はもちろん彼らを留学させて様々な知見を得るためである。
「流行りのデザインを学ぶこと、鍛造の新しい技術を学ぶこと、商売のやり方を学ぶこと・・・やってもらいてえ事はたくさんある。そこでお前らを外に出すわけだ」
ドワーフの長老の一人がそう言った。若者たちはそれに対して様々な反応をした。
大多数は新しい世界への興味、少ない割合だったがその前に自分の技術を確かなものにしたいという職人気質のもの。
テイロスは後者だった。しかしながら彼には魔法の適性があり、ドワーフの中では外に出ても馬鹿にされない大柄な体格があった。ドワーフが勉強をするというのがなんとなくらしくない、というのが彼らの悩みであったがテイロスのように人間に近い体格のものならば大丈夫だろうと。
さらに付け加えれば田舎者のコンプレックス的なものもあったかもしれない。
そうして半ば嫌々ながら同期に混じって魔法学校の筆記試験を受けたのだが・・・。
「すまんな、お前以外不合格だとさ」
テイロス以外不合格だった。残念ながら同期は勉強的には馬鹿ばかりだった。外の世界に興味が行き過ぎてそわそわしている間に試験当日になってしまい、ほぼほぼ着の身着のままの知識で試験を受けた者がほとんどだったという。
全員ががっかりしている中、長老は出かける前からホームシックになりかけていたテイロスの背を叩いた。
「頑張ってこい」
「・・・うん」
テイロスは嫌々だった。長老たちもまさか一番やる気のないテイロスを送り出すことになるとは思ってもみなかった。デカい背中に哀愁すら漂わせながら故郷を離れる姿はさながら出征する兵士である。
同期達も最初こそやっかんでいたがいつもは壁のように大きい背中を小さくしながら、何度も振り返って寂しそうにこちらを見つめるテイロスにいつしか申し訳ないとおもうようになっていた。
「ら、来年こそ俺たちも行くからな!」
「負けるなよ!」
馬車に体をねじ込む彼に同期は精一杯の励ましを送った。
「帰りたい・・・」
「そのナリで16・・・?」
暗い表情と髭のせいでとんでもない年齢に見られていたが彼はまだ未成年である。馬車に同乗していた男性は信じられないと言った様子でみていた。
「そろそろ腹をくくるか・・・俺だってドワーフだ。体に鉄が流れている」
テイロスはゆっくりと魔法学校へ歩を進めた。
「ここが魔法学校ですか?」
「ああ、そうだけども」
テイロスに声を掛けられた用務員のおじさんは仰天した。190センチの熊のような体格の男が暗い表情で立っているのである。見下ろされる都合上威圧感も半端じゃない。
「中途入学のテイロスなんですが・・・」
「テイロス君か・・・えっと、えっ・・・ドワーフって聞いてるけども」
「自分、ドワーフなんです。なんでかしらないけどデカくなって、名前もだから巨人から取ったって」
「そうなんだ・・・?でも産まれた時からそんな大きさってわけじゃないよね?」
「最初は青銅の加工業をやってたからってんで青銅に因んだ巨人だったんですけど、大きくなってからミドルネームも巨人になりました」
用務員は名は体を表すというのがこれほど合致している人物もそうそうおるまいと心の中で思った。
そして、彼が16歳だという事実を書類で知って二度目の仰天である。
「君はFクラスになるね、あっちの旧館に行ってみて。担任の先生がいるよ」
「担任の先生ですか・・・」
「まだ編入の手続きが終わるまで時間があるからね、担任の先生に会って自己紹介してくるといいよ」
用務員のおじさんに親切にしてもらったテイロスはそのまま旧館を目指して歩き始める。




