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ドワーフのテイロス君

嬉しいような、くすぐったいような、安心したような気持ちになってマリーは思わず俯いてしまった。

でもそれはいままでやってきたような諦めの行動ではなくて


「よ、よかった・・・」

「?」

「二人に会えてよかった・・・よかったぁぁ・・・」


顔を上げたマリーは双眸からぽろぽろと涙を溢れさせていた。


なんて単純なんだろう。言葉だけで、そんな、本心かもわからない笑顔で。

もしかしたら、今までみたいに酷いしっぺ返しがあるかもしれないのに。

その言葉と笑顔に、マリーはどうしても縋りたかった。


マリー・クライグスはずっと失敗続きの人生だった。

勉強は赤点ギリギリ、鈍くさく、要領も良くない。もしかするとそれは人並みに近かったかもしれないがやがて自信を無くしていくにしたがって顕著になっていった。

そんな彼女の短い人生で学んだ処世術は「とにかく優しくすること」だった。上っ面で、ただただ攻撃を避けて受け身に回り、嵐がすぎていくのを待つだけ。

それが優しさでもなんでもないことに内心では気付いていたかもしれない。それでも彼女には耐える選択肢しかなかった。自信はとっくに失せ、能力は上がらず、何時しか言葉も上手く出なくなった。

バカにされても、いじめられても、彼女には耐える事しかできなかった。早く終わってくれと願うしか。

Dクラスの生徒に言い返す二人に待ったをかけたのもそうだ。波風を立てないようにして、さっさと終わってほしかった。彼が再び自分に注目しないようにしたかった。


そんな彼女に初めて掛けられた言葉。


「うあぁぁん・・・」

「よしよし」


温かかった。それが例え自分の勘違いだったとしても。それが嬉しかった。

Fクラスに入ってしまって、終わったと思っていた彼女の学校生活はこれから始まるのである。





マリーが二人によしよしされる少し前。一人の男が乗り合いの馬車に揺られていた。


「・・・」


寡黙、そしてボサボサの髪に濃い髭。まるで丸太のような腕と足、全体的に丸く見えるほど筋骨隆々のその男は隣に座る他の乗客に迷惑そうにされながらも無言で一点を見つめていた。


(魔法学校・・・)


彼の目的は魔法学校で魔法を学ぶこと。その事はさして不思議でもなかったがその風体と威圧感から周囲はまるで復讐者のように彼を見ていた。

彼の名前はテイロス、テイロス・“テイターン“・ギガース。

青銅の巨人に、巨人、巨人ととにかく巨人が彼の名を表していた。

確かに身長は190センチくらいで丸々とした筋肉の塊ともいうべきその体はたしかに巨人と呼ばれるに相応しい。

しかしながら彼が真に巨人と呼ばれる所以はその出自にある。


「アンタどうやってここに乗ったんだ?」

「穴蔵と同じだ、身を捩る」

「穴蔵?アンタ坑夫なのか?」

「信じられないかもしれないが、俺はドワーフだ」


声を掛けた男性はテイロスの言葉にポカンとした。本人もそれに慣れているのか別段反論はしなかった。

ドワーフ。穴倉に住み、鉱石を採掘したり鍛冶を行ったりする大地の精霊の分け御霊から産まれたとされる種族。

鉄のように強靭な体と焼けた鉄のように雄々しく熱い男たち。

酒と鍛冶を愛し、ノームと根幹を同じくしつつも金属に重きを置いた彼らは金属鉱業やそれを使った製造業に多く携わっている。

そして最大の特徴としては筋骨隆々の体に低い身長だ。彼らは鉱夫として働くのにうってつけの体格をしており、また火と土に対する高い適性から鉄を鍛えることにも向いている。

彼らは大人であって140センチ。150センチを超すものは少ないと言われるのだが・・・。


「だから巨人、か・・・まあ彼らから見たらそうだね」


男性は笑う事もなかったがドワーフから見た彼の存在を考えると・・・、と納得するしかなかった。


「けど、それだとなぜ魔法の勉強を?」

「・・・鍛冶のやり方に新しい方法を取り入れたいんだそうだ」


テイロスの住む鉱山都市のドワーフの長老たちはテイロスが産まれる前から一つの課題に取り組んでいた。

それは技術の革新である。鉄に長じ、鉄に愛される彼らの作る武具や刀剣の類はもちろん工具なども高い品質が保証されており、職人ほど彼らの道具を欲しがった。


しかしである。頑固者の多いドワーフの中に一人、こう疑念を抱く者が現れた。


俺たちの技術は何時まで頂点に居られる?


鉄を火にくべ、熱し、叩いて鍛え、形を整えた後に磨き、研いで完成する。宝石も、鉄も、すべてがそうだ。

炉とハンマーと、金床。それと職人としてのこだわりとプライドがあれば言うことなし。

そうであるべきだし、そうであっただろう。しかし人間も最近は細かい細工をするものが出てきたし、エルフは一部を除けばいろんなところの種族にくっついて生活しているため色々な技術や知識がある。


「俺たちもそろそろ新しい技術に目を向けるべきじゃねえか?」


ついに口をついて出た言葉は思いのほかすんなりと受け入れられた。というのも彼らも技術の革新や設備の拡充といったものを考え始めていたのだ。

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