どういうこと!?
大悪魔、その言葉にルナは混乱した。大悪魔?自分が?どうして?悪魔にはなったけどそんな大それたものになった自覚なんてなかったのに。
「わたしが・・・?」
「気付いてなかったのか?まあこれはウチら人間の基準でしかないからしょうがないが」
「う、うぅ・・・」
「・・・」
エトナ―は額に触れた手に神聖術を帯びさせる。魔を焼き、悪を滅する聖職者が使用できる攻撃用のそれである。
可哀想だが彼女に悪心が芽生えていればこれで焼くしかない。そうエトナ―は考えていた。
(大悪魔が悪意を持ってこの界位に居ることは許されない。さあ、見せてみろ・・・)
エトナーの術は隔絶した技量によっていかなる悪魔をも悶絶させる即死級の威力だが・・・。
(全く反応しやがらねえな・・・マジかよ)
些細な悪心でも彼女からは逃れられない・・・はずなのだが。
「マジでどうなってるんだ?鈍ったか・・・?」
手を退けてエトナ―はルナの目を覗き込んだ。魂を知覚するために彼女の目の奥にある魂の光を見る。
その輝きが彼女の目に善性を見せる。
(淡く、綺麗なもんだ・・・悪魔の魂がこれか?マジで?)
エトナ―の知識と経験の上では悪魔とは大抵が魔法使いが悪魔に転生したものが多い。魔法使いは老いてすり減った魂が器に空白をつくることでそこに魔を受け入れて悪魔になる。
必要とあらば魔法や儀式でさらにその空白を増やすのだ。それによって器は変成し、人間をやめることになる。
言うまでもないがそれは聖職者にとって許し難い蛮行である。一時的に力を借りて手や足を増やすのですらグレーゾーンもいいところなのだ。
変成することで元々希薄な連中が多い魔法使いの中でも良心や自制心と言ったものが欠け始める。
そう言った連中は力と時間を得て研究に没頭している内はいいがやがて悪を成すのである。
好奇心から、研究の都合から、自分がそうしたいから。それらが悪意に直結する。好奇心が悪意と結びつく。
人にはどうしようもない力を手に入れた者が悪事を働くのである。
それを制御してきたのは皮肉にも彼らを悪魔に引き入れた種族としての悪魔達だった。
変成した魔法使いたちを従え、悪魔とし、配下とする。彼らは契約を絶対とし、天魔戦争が終わってからはそれを遍くすべての悪魔に徹底させた。天と魔の契約の名の下に。
天界と人界と魔界の調和のため。彼らは交わされた契約を遵守している。
それから逃れて野良となった悪魔はエトナ―たちが、もしくは悪魔の中の掃除屋が始末している。
自浄作用はある、あるのだがそれだって限界はある。時折現れる力を持った悪魔が人の世界に出て来ては災害を起こしたりするのだ。エトナ―にとってはルナもその例になりかねなかった。
だからこそ彼女が人の輪から離れた今を狙って接触したのだが・・・。
「お前さん、どうやって悪魔になった?」
「へ?」
「悪魔になった儀式の内容だよ、覚えてる限りでいい。あと理由もな」
「え、それは・・・」
ルナはできれば思い出したくない系の記憶であったがエトナ―の圧に負けて白状した。
「なるほどな・・・」
「え、えっと・・・?」
エトナーはルナの言と儀式の内容、その他を勘案してため息を着いた。
(可哀想に、この子は他の俗物が悪魔になったのとは違う。あのバカがやったのは彼女自身を生贄にして悪魔に転生させる儀式だ)
魂に見合う肉体を用意するために肉体を捧げさせた。ほぼすべての体を捧げ、蘇生とワンセットにすることで彼女を悪魔に転生させた。
清らかな魂を包む器を強靭に。器の変成が及ぼす悪影響をカットするために彼女を一時的な死に追いやり、彼女の目的を他者の為、顕正の為にすげ替え、魔力を担保するために月の満ち欠けすら準備した上での出来ごと。
どこまで意図したものなのか・・・それすらもわからない。
(狂気の代弁者の本領だな・・・)
おそらく、ルルイエはルナの事を心底気に入っているのだろう。命名式に彼女が連れていかれたこと、大悪魔に引き合わせて名づけまでさせた。転生の儀式もかなり手が込んでいるはずだ。
しかしそれの全てが本来ならば人を一瞬で狂気に落とすものだ。
しかし蓋を開けてみると彼女は大悪魔の重圧に耐え、悍ましい転生の儀式に耐えてなお彼女の魂の輝きは陰っていない。それはもはや彼女の魂の強さの問題ではない。
彼女の精神をルルイエが守ったとみて間違いないだろう。それ故に彼女は穢れることなく悪魔になった。
本来ならば心が壊れてしまうような条件をクリアしたのだ。




