旧館の掃除は進む
ルルイエはルナがハンドベルを自身の服にアクセサリーのように結んで落とさないようにしたのを見て嬉しそうに頷くと
「それじゃまたねー」
と歩いていってしまった。ルナは唐突に現れては立ち去った師に呆気にとられつつも空腹を優先して帰宅した。
「おかえりなさい、学校はどうだった?」
「私達は本館から溢れて旧館を使うみたい」
「旧館?あれって何年も使われてなかったんじゃ?」
家に戻るとアリシアが昼食の準備をしていた。どうやら茹でたマカロニにたっぷりチーズ、それを山盛りとパンとサラダのようだ。
「うん、だから皆で掃除してた。お昼食べたらまた戻って手伝ってくる」
「あらあら、掃除も自分たちでしないといけないの?大変ねぇ」
置いたそばから目減りしていく昼食にアリシアは夫の姿を幻視しつつ黙って追加を用意する。夫のエルドは今でこそ控えめだが悪党と殴りあっていた時は食事の度にパンを一斤丸かじりしていたような男である。ルナにその血が流れていることにアリシアは嬉しいような悲しいような複雑な気持ちだ。
「ご馳走様!じゃあまた行ってくるね!」
「はーい、気をつけてね」
アリシアは立ち上がってパタパタと走っていく娘を見送りながら食卓に戻るとため息をついた。
「あの人の一族って皆こんなにたべるのかしら・・・」
パンを入れていた籠が空になっていた。親族の寄り合いではエルド達の一族とお酒はともかく真っ当に食事をしたことが無かったような気がしていた。
しかしながら女の子のルナですらこれである。エルドのような男兄弟の多い所帯だとどうなるのだろうか。
もしかすると食事の席だととんでもないことになるから避けていたのかもしれない。
アリシアは食べても居ないのに食欲が失せそうだった。
「戻りましたぁ」
「おー、すまんな」
ルナが戻るとアダムがゴミの入った袋を荷車に乗せている所だった。その後ろではティナとクロエ、ダズが箒と雑巾を手に奮闘している。上手くすれば今日の内に寮の一部は使えるようになるかもしれない。
「それじゃ私も手伝ってきますね」
「うむ、頼んだ」
そうして四人に増えた人手で寮の掃除はそれなりに捗った
「うがー!もう無理!暇過ぎ!」
「ちょ、ティナちゃん!」
と思ったらこれである。午前中はギリギリ真面目にしていたティナが音を上げた。教室はともかく、実家通いのティナは寮の掃除の手伝いまではするつもりが無かったのかもしれない。
「・・・流石に私も疲れました」
「そうだねぇ、皆はもう切り上げたらどうかなぁ」
ダズはルナ含めた三人が朝イチから掃除をしていることを知っていたのでティナの不満顔にも鷹揚に応えている。
見た目通りののんびりした性格がそうさせるのかもしれないが。
「えー、でもそれだと寝泊まりするの辛くない?」
「夜まで頑張れば僕一人でももう一部屋くらいはできると思うよ?」
「クロエと二人としてもやっぱ面倒でしょ、まああと一部屋目途に頑張るって」
そう言いながらティナは箒を持ち直した。なんだかんだで良い子のようだ。
「ちゃちゃっと終わらせよー」
数時間後、時刻が夕方に近づいたころ二部屋の掃除が完了し、クロエとダズの部屋ができた。
「・・・ふふふ、ヒトリジメだね」
「二部屋でほぼ全員が入れるの流石に少ないね」
ルナとティナは実家から、今日来れていない三人は遠路からということなので必然的に
「残りはサボったのかよ!」
「ひどい話だね」
ルナ、ティナ、クロエ、ダズ、そして遠路もしくは病欠の三人、そしてまだ見ぬ四人。
とりあえずこの三人とは仲良くやれそうなのでルナは内心ホッとしていた。
「んじゃ寝る準備するか・・・その後で食事の準備かな」
「そういえば厨房はまだ掃除してなかった・・・」
「明日やればいいじゃん、今日は学園の食堂つかえよなー」
どーせ食材もないっしょ?とはティナの言。それは確かにそうなので皆は今日はここらへんで掃除を切り上げることに。
「んじゃまた明日かな?授業はどーなってるんだっけ?」
「本格的に始めるのはもうちょい先だ。旧館の設備をフルに使える都合上ワシらは結構余裕があるんだ」
掃除がついてまわるがなー、とゴミ捨てを終えたアダムが声を掛ける。
「ほかの七人はどんな人なんだろ?中等部で会ったことある人だったかな・・・?」
「えー、まともに授業受けてたらFこなくね?あーしみたいに試験で火じゃなくて雷出ちゃった奴とかそうそういないっしょ?あれで一回不合格なってんのよなー」
「私も霧が出た・・・マジで意味不明。つらみ・・・」
固有組は意図せぬ魔法が出たせいで試験を一回で合格できなかったようだ。ダズは笑顔を浮かべながら言う。
「僕は寝坊ですねぇ、直前まで土の魔法の鍛錬をしてたら昼夜の感覚が狂っちゃって。穴倉にいたのがわるかったかなぁ」
「寝坊・・・私は体調不良で倒れて不合格でした。そこから再試験でなんとか」
四人は奇しくも魔法の実力とは無関係で実技試験を一発合格できなかったようだ。それを知って四人はなんとなく連帯感を感じていた。




